タイムエイジマシン

山田みぃ太郎

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二人の青春時代へ

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 それがどんな罪で、どういう経緯で何十年も服役することになったか。どういう経緯で無罪を勝ち取り釈放されたか。そのこといついて述べておられたけれど、ぼくはそれを言うつもりは毛頭ない。個人情報だし、述べたところでどうにもならない。すべて済んだことだ。だからどうにもならない。
 いや、でも最小限のこと、つまり簡単に言うと、何度も再審がなされ、その戦いの中で奥さんと知り合い、獄中結婚され、やがて無罪を勝ち取り、晴れて自由の身になったらしいんだ。
 実はその方は、二十代でその事件に巻き込まれ、そして誤認逮捕され…
 いやいや、それはもういいんだ。そんなことより、その方が望んでおられたのは、もしも叶うなら…、の話であるけれど、それは「失われた時」を取り戻したいということらしいんだ。二十代から初老までの、その長い長い大切な数十年間を。
 だけどそれを取り戻すには、タイムマシンでもなければ…
 でもタイムマシンならアタゴ先生もすでに発明しておられた。それが聞くところによるタイム人力車だ!
 そのタイム人力車は、とある偉大な音楽家を現代へ連れてくるために蒸気自動車風にしたり、仲間と過去へキャンプに行くためにタイムキャンピングカー風にしたり、はたまた「動く家」にして火星へ行ったりしたけれど、結局またオリジナルのタイム人力車の仕様に戻していた。それはアタゴ先生の気まぐれだったらしいのだけど。それと、アタゴ先生のタイム人力車には「どこへでも行ける」というすごい機能も備わっていたらしい。
 それで、ともかくそのタイム人力車で、お二人の失われた時を取り戻すためには、そのタイム人力車で彼らが希望される過去へ送り届ければいい!

「だけど過去へ戻していただくだけでは、私の望みは叶わないのです。たとえ先生が開発なさったというタイム人力車で、私の若い時代へ帰ることが出来たとしても、私はもうこんな歳ですし、あと何年生きられるかも分かりません。私は二十歳代で誤認逮捕され、二十代、三十代、四十代、五十代そして…、それもう私の人生の大部分は刑務所の中だったのです。だから私が二十歳代の、あの若かった時代へ帰ったとしても、私自身がこの歳ではもはや…」
 その方はそんなことを言われた。ぼくはなるほどと思った。いやいや、それは当たり前だ。
 それは失われた時…
 だからそれをどうやって取り戻せるのか。
 だからそのためには、その方々を二十歳代の時代に、その二十歳代の姿で送り届けてあげる必要がある。
 そして二十歳代の姿は、エイジマシンで実現できるけれど、過去へ戻るということについては、茶トラ先生の作品であるタイムエイジマシンだと、戻った時代でお二人がシカトされてしまうという難点がある。
「ねえねえアタゴ先生。先生の作ったタイム人力車で過去へ言ってもシカトされないんでしょ。だって過去へ戻るためのタイムマシンでしょ。そのために人力車の姿に仕上げているんでしょう?」
「あ~、イチロウ君といったね。君は賢いね。そうだよ。そもそもタイム人力車は、私が過去へ行って、過去の人を連れ戻すために作ったんだ。それで、私のタイム人力車で過去へ行っても、そこの人と普通に会話ができるんだ。だからその点では、茶トラ先生のタイムエイジマシンは豪快に欠陥品じゃないかな」
「何を言いますか、アタゴ先生! わしの作ったタイムエイジマシンは、ちゃんと未来へは行けるし、何と言っても年齢を変えられるのだから、そんじょそこらのタイムマシンとはわけが違うわい!」
「そんじょそこらとはこれまたご挨拶ですな。それでも私のタイム人力車では、あ~、どこでも…」
「あぁぁぁ~もう!ケンカはやめなよふたりともいい歳こいて! とにかく!茶トラ先生のタイムエイジマシンで若返って、それからアタゴ先生のタイム人力車で過去へ戻ればいいだけじゃん!」
 とにかくそういうわけで、ぼくが茶トラ先生とアタゴ先生の論争、というか大人げないケンカをぶっ壊して、それから、立派なお爺ちゃんお婆ちゃんはタイムエイジマシンで見違えるような「若い二人」になって、そしてぼくらにお礼を言ってから、とても嬉しそうに帰っていったんだ。
 これからアタゴ先生のタイム人力車で、お二人が望まれる過去…、つまり彼らが青春時代を過ごした時代へ行き、そして失われた時を取り戻すんだね。

 失われた時を取り戻すために 完
摂著「おもしろSFショート」中の「愛宕胃腸科の不思議な物語いろいろ」に関連作品を掲載しています。
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