ブチ猫のミッキー

山田みぃ太郎

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おじいさん猫の飼い主

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「…そしてそれから、その人間は、うずくまっておるわしの近くにやって来て、まず最初にわしの首輪に触った。それから一度首輪を外し、それをごそごそと探っておるようじゃったが、もう一度わしに首輪を付けてからわしを抱え上げ、自動車の中に入れた」
「自動車の中に、ですか?」
「そうじゃ。自動車の中は暖かくて夢のようじゃった」


「そうなんですか。自動車の中って夢のように暖かいのですか」
「そうじゃ」
「ところで、どうしてあの人間はおじいさんの首輪を外したのでしょう?」
「よう分らんが、多分わしが飼い猫と思うたからじゃろう。首輪をつけておったから、迷子になった飼い猫と思うて、自動車から降りてきたのじゃろう。そして首輪の匂いでもかいで、わしの飼い主を知ろうとしたのではなかろうか」
「飼い猫だから、首輪をつけている?」
「そうじゃ。ともあれ、わしにはその人間が、良い人間に思えたのじゃ。ああ、それはわしの勘じゃ。そしてわしはそのとき何となく、その人間がわしを飼い主のところへ連れて行ってくれるのではないかとも思うたのじゃ。そのためにその人間は、わしの首輪の匂いをかいだのじゃろうと…」
「それで、飼い主のところへ連れて行ってもらえたのですか?」
「いや、わしはここへ連れてこられた。そしてしばらくの間、いろんな人間がわしを見に来たのじゃ」
「いろんな人間が?」
「あの人間はわしを飼い主のところへ連れて行く代わりに、飼い主を連れてくるつもりだったようじゃ」
「それで?」
「じゃが、どの人間もわしの飼い主ではなかった。人間はわしら猫ほど鼻が利かんようじゃ。首輪の匂いでわしの飼い主を知る事は出来んかったようじゃ」
「そうだったのですか」
「ともあれ、あのままでは飢え死にするか凍え死にするしかないわしがここにいられるのも、この首輪のおかげ、そしてあの人間のおかげなのじゃ。それでわしは、それ以来ここに住んでおる。要するにあの人間が、わしの新しい飼い主になったというわけじゃ」

 それからしばらくの間、ぼくは縄張りのパトロールの途中、時々そのおじいさん猫と網戸をはさんで座り、いろんな話をした。
 おじいさん猫の昔話とか、人間とはどういうものなのか、とか。

 おじいさん猫の話では、人間はそれほど悪くないという。
 少なくとも良い人間もいるというのだ。
 
 だけどその時のぼくにとって、ゴミ置き場で食事のじゃまをし、昼寝をする影を動かし、草むらをのっぺらぼうにする人間なんて、やっぱり、ろくでもないものにしか思えなかった。
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