7 / 43
第7話
しおりを挟む
7
ここまでこぎつけると、ボールはアバウトにストライクゾーンかその周辺へ行くようになり、概ね2球に1球はストライクになったし、球自体もちゃんとバックスピンが効いて、そしてある程度の球速を持っていた。
そうすると僕もいっぱしの「投手」として、チームでは「中の下」くらいの存在には十分になっていて、バッティング投手や、試合でもそこそこ投げさせてもらえ始めたんだ。
ただしバッティング投手としてはコントロールがアバウトすぎて、打者にはとても評判が悪かった。ボールも勝手に変化球に化けたりするし。化けるのは小学校以来だけど。
その一方で、試合ではそれが有利にはたらいた。いいあんばいに球が散って化けるから。
これは初めての甲子園で僕が「好投」できちゃった要因でもあるし。
だけどその頃の僕は、マインドとしてはまだまだコントロールには全く無責任だった。
もちろんコントロールを良くはしたかったけれど、その一方で、「ストライク投げなきゃ」っていう変な十字架も背負いたくはなかったんだ。
それで僕はそんな風に投げてはいたけれど、それでもフォアボールは多めとはいえ、一応最低限試合にはなったんだ。だからコントロールは当面そのレベルで妥協することにしていた。
前にも言ったように、ともかく大切なことは「ストライクを投げなきゃ!」という呪縛から一度解放されることなんだ。その呪縛のために初めての甲子園で、先輩の投手たちはあの惨状だったじゃないか。
それゆえに僕はあえて心を鬼にして「まだコントロールには全く無責任に…」だったんだ。決して無責任に無責任だったわけじゃないんだぞ!
つまり僕は、「ストライクを投げなきゃ」という呪縛をばっさりと振り払い、とりあえず「事務的」に投げることにしていたということ。
ええと、「事務的」っていうのは、投球という行動を、あくまでも「僕の業務」としてとらえ、雑念にとらわれず、予定通りにさくさくと投げるということ。
分かる?
ストライク投げなきゃって極端に感情移入して、むきになって投げると、ろくなことにならないだろう? あの甲子園での先輩たちみたく…、だからそうならないために、いわば「事務的」に投げていたわけ。
だけどそんな心持で投げていると、いつのまにか僕のフォームは、極端に言うとまるでキャッチボールでもするかのような、リラックスしたものへと変化していったんだ。
実はこれ、僕の武器だということに気付いた。
いつも言っている「上半身は水」という話は、とある野球中継で聴いたと言ったけれど、その野球中継ではこんなことも言っていたんだ。
「キャッチボールするようなフォームで130キロ投げられたら誰も打てませんよ」
この言葉を借りると、つまり僕の事務的な、そしてリラックスしたフォームは、もしかして武器になるはずなんだ。もしかして僕、そんな風に投げているのかも知れないじゃん。だったらもしかして誰も打てないかも知れないじゃん。もしかしてこれって、僕が目指すべき投球スタイルなのでは?
それに、いつも練習相手の先輩のキャッチャーも、「お前はしれ~っと投げているわりに球が速い。しかも途中で化けることもあるので捕りにくい」とか、後の方になると「お前のフォームにだまされる! 捕るのが怖い。たぶん俺しか捕れないだろうよ。へへへ」とか、妙に自慢げに言っていたのを覚えている。
僕を大投手に…、なんて荒唐無稽な考えを持っている先輩に、僕はだんだんと洗脳されていたのかも知れないけれど、この頃から僕は、「もしかしたら僕はすごい投手に…」なんていう夢を、おぼろげながらも、持ち始めてはいたんだ。
もちろん僕はまだまだ本質的にコントロールが悪いので、試合ではフォアボールも結構出したけれど、例の「300球も投げたりして疲れまくって作った疲れないフォーム」だから、試合ではぼちぼち点を取られながらも、長いイニングを延々と淡々と、そして事務的に投げることができて、だから僕はチームでは「最高の敗戦処理投手」としての地位を確立していったんだ。
だけど、もう少しコントロールが良くなればいいな、とは思ってはいたけれど。
ここまでこぎつけると、ボールはアバウトにストライクゾーンかその周辺へ行くようになり、概ね2球に1球はストライクになったし、球自体もちゃんとバックスピンが効いて、そしてある程度の球速を持っていた。
そうすると僕もいっぱしの「投手」として、チームでは「中の下」くらいの存在には十分になっていて、バッティング投手や、試合でもそこそこ投げさせてもらえ始めたんだ。
ただしバッティング投手としてはコントロールがアバウトすぎて、打者にはとても評判が悪かった。ボールも勝手に変化球に化けたりするし。化けるのは小学校以来だけど。
その一方で、試合ではそれが有利にはたらいた。いいあんばいに球が散って化けるから。
これは初めての甲子園で僕が「好投」できちゃった要因でもあるし。
だけどその頃の僕は、マインドとしてはまだまだコントロールには全く無責任だった。
もちろんコントロールを良くはしたかったけれど、その一方で、「ストライク投げなきゃ」っていう変な十字架も背負いたくはなかったんだ。
それで僕はそんな風に投げてはいたけれど、それでもフォアボールは多めとはいえ、一応最低限試合にはなったんだ。だからコントロールは当面そのレベルで妥協することにしていた。
前にも言ったように、ともかく大切なことは「ストライクを投げなきゃ!」という呪縛から一度解放されることなんだ。その呪縛のために初めての甲子園で、先輩の投手たちはあの惨状だったじゃないか。
それゆえに僕はあえて心を鬼にして「まだコントロールには全く無責任に…」だったんだ。決して無責任に無責任だったわけじゃないんだぞ!
つまり僕は、「ストライクを投げなきゃ」という呪縛をばっさりと振り払い、とりあえず「事務的」に投げることにしていたということ。
ええと、「事務的」っていうのは、投球という行動を、あくまでも「僕の業務」としてとらえ、雑念にとらわれず、予定通りにさくさくと投げるということ。
分かる?
ストライク投げなきゃって極端に感情移入して、むきになって投げると、ろくなことにならないだろう? あの甲子園での先輩たちみたく…、だからそうならないために、いわば「事務的」に投げていたわけ。
だけどそんな心持で投げていると、いつのまにか僕のフォームは、極端に言うとまるでキャッチボールでもするかのような、リラックスしたものへと変化していったんだ。
実はこれ、僕の武器だということに気付いた。
いつも言っている「上半身は水」という話は、とある野球中継で聴いたと言ったけれど、その野球中継ではこんなことも言っていたんだ。
「キャッチボールするようなフォームで130キロ投げられたら誰も打てませんよ」
この言葉を借りると、つまり僕の事務的な、そしてリラックスしたフォームは、もしかして武器になるはずなんだ。もしかして僕、そんな風に投げているのかも知れないじゃん。だったらもしかして誰も打てないかも知れないじゃん。もしかしてこれって、僕が目指すべき投球スタイルなのでは?
それに、いつも練習相手の先輩のキャッチャーも、「お前はしれ~っと投げているわりに球が速い。しかも途中で化けることもあるので捕りにくい」とか、後の方になると「お前のフォームにだまされる! 捕るのが怖い。たぶん俺しか捕れないだろうよ。へへへ」とか、妙に自慢げに言っていたのを覚えている。
僕を大投手に…、なんて荒唐無稽な考えを持っている先輩に、僕はだんだんと洗脳されていたのかも知れないけれど、この頃から僕は、「もしかしたら僕はすごい投手に…」なんていう夢を、おぼろげながらも、持ち始めてはいたんだ。
もちろん僕はまだまだ本質的にコントロールが悪いので、試合ではフォアボールも結構出したけれど、例の「300球も投げたりして疲れまくって作った疲れないフォーム」だから、試合ではぼちぼち点を取られながらも、長いイニングを延々と淡々と、そして事務的に投げることができて、だから僕はチームでは「最高の敗戦処理投手」としての地位を確立していったんだ。
だけど、もう少しコントロールが良くなればいいな、とは思ってはいたけれど。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる