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第26話
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春のキャンプも終わり、オープン戦も過ぎてシーズンが始まって、だけど僕は二軍で修行中だった。とにかくプロの投手として「使い物」にならないと話にならない。それで僕はコーチから言われた、「僕がそれ以外にやるべきこと」を、僕は淡々とこなしていたんだ。
だから僕がそれ以外にやるべきこと! まずはクイックモーションの話をする。
クイックモーションって、ランナーがいるときに盗塁されないためのもの。早い話が素早く投げるってこと。投球動作を開始してからボールが手から離れるまでの時間を短くする。これが出来ないと盗塁され放題になってしまう。
だけど僕は、高校時代からいつも普通のセットポジションで投げて、クイックと言えるようなことはあまりやっていなかった。歴代キャッチャーもすごい強肩だったし。
それとフォアボールが多かったから、フォアボールで出塁されても盗塁されて一塁が空くと、もはや「走られる」プレッシャーが減るうえに、そこからフォアボール出しても「一緒じゃん」なんて不思議な発想が芽生えたりして、それで「よしここから♬」みたいなポジティブな言葉が脳内に浮かび、で、そこから結構いい球が放れて、だからフォアボールでランナー出して走られてってなっても、そこから開き直って粘って結果無失点なんて、ちょくちょくやってたし。そのうえ、打者にきちんとした球を投げる方がよほど大切だ、なんて思ってて。
だけどもうプロなんだから、そんな悠長なことを言っている場合ではなかったんだ。
もちろんクイックって定番のやり方はいろいろあるんだ。だけど僕の場合どれをやってもしっくりこなかった。暴投しそうだったり、肩が痛くなりそうだったり。つまり人それぞれなんだ。
だけどある朝、僕はベッドの中で、あるクイックのアイディアを思いついた。これは僕のオリジナル。いやいや、他の人も似たようなのをやっているのかも知れないけれど…
その自称オリジナルのクイックについて。
普通のセットポジションから投球動作を開始したと仮定して、左足を上げ軸足でしっかりと立って安定して…、だけどその状態のまま、上げた左足だけを、そのままそ~っと下ろして地面に付ける。でも体重はほぼ軸足に乗ったまま。そして最初からこの状態でセットするんだ。
とにかく軸足一本で立った状態の変形として、左足は地面にそっと接している状態。分かる?
このセットの状態って、実は意外なメリットがある。このセットの状態は、「軸足でしっかりと立った状態」に準ずると言えるから。
だいたい「軸足でしっかりと立った状態」で安定するために、高校のころにやれバランス感覚だの、足の持久力のために堤防の道を走るだのやってたわけ。
ところがこのセットなら、ぴたりと安定するまで、「軸足で立ったみたいな状態」で止まっていられるんだ。
ややこしい話はさておき、ともかくとても安定するということ。
それからややすり足ぎみに左足を前へ進め、例の「しかるべき位置」まで持っていく。そして左足が接地すれば、そこから先は普段の投球と同じじゃん!
ただしこれではタメがないし反動も使えないから、投球の原動力は軸足でプレートを蹴る力だけ。だからただでさえ遅い僕の球速はさらに遅くなる。
だけど投球動作の力感も減るから、僕の十八番の「遅いと思ったらそれほど遅くない」というキャラだけはかろうじて保たれるのでは? しかも安定するならコントロールは若干良くなる? もしかしてこれ、素晴らしいアイディア?
それで夢の中で思い付いたこの方法を、起きてから早速自分の部屋で何度も練習し、それから毎日のように部屋でやってみた。そうやってしっかりとイメージを作り、それからキャッチボールでの「実証実験」も開始することにした。
実はこのクイックのとき、軸足でプレートを蹴る力の使い方は、横に蹴る感じが相撲の四股を踏む動作と似ていると、僕は勝手に思ったんだ。
それである日突然、僕は発作的にとある相撲部屋へアポなしで行き、たまたま居合わせた力士に正直に、「実は僕はプロ野球の投手で、投球のため足腰を鍛えるのに、四股を取り入れたいんです。よろしければ踏み方を教えて頂ければ…」などとぬけぬけと言ったら、何とその人は実は関脇で、しかも畏れ多くも快く、「いいっすよ♪」と優しく言ってから、実地に指導をしてくれたんだんだ。
それからまわしも付けさせてもらい、序二段の人と取り組みもさせてもらって、そしたら何故か上手投げがきれいに決まって勝っちゃって、それで親方から「3年で君を関取にまで育ててやる。野球でだめだったらいつでも来い」って言われちゃったんだ。やっぱり僕って「投げる」の得意なのかな?
ともかくそれ以来、四股踏みは僕の日課になった。
豪快に話がそれちゃった。
それで、実際にそのクイックをキャッチボールでやってみて、それからブルペンでも投げてみた。結構うまく投げられた。僕には合っていたみたいで、自然に腕が振れたし。それに四股踏みの効果か、思ったほど球速は落ちなかった。(元々遅くて草)ちなみに普通のセットで投げるときもパワーが増した感じ。
ところで、こういう動作をあれこれトライできたのは、僕の上半身が「水」になる前だからこそだ。つまりまだ「操る」ことの出来る段階だからこそ、可能だったんだ。
ところで僕のフォームは打者をだますため、つまりいかにも「球遅いぞ!」とアピールするため、ゆったりと投げる。
ただしクイックは、あまりゆったりと投げるとクイックでなくなるし、だからと言ってあまりに素早く投げると「ゆったり」ではなくなって、ただの球の遅い投手になってしまう。
だからそのへんの折り合いは、それからいろいろと試行錯誤をした。
そしてこのクイックの投げ方は、意外にも速い牽制にも応用できた。不器用な僕でもそこそこ出来たんだ。
それは例のセットの構えから、プレートを外すことなく振り返りざま、そしてすり足ぎみに一塁方向に踏み出せば、そのまま一塁へ牽制できるし、三塁方向へ踏み出せば三塁牽制もできる。
ただし残念ながら二塁牽制には応用できない。プレートを外さないと軸足がねじれてしまうから、普通にプレートを外してからやるしかない。
それはいいけれど、だけど大問題なのはバント処理だった。
春のキャンプも終わり、オープン戦も過ぎてシーズンが始まって、だけど僕は二軍で修行中だった。とにかくプロの投手として「使い物」にならないと話にならない。それで僕はコーチから言われた、「僕がそれ以外にやるべきこと」を、僕は淡々とこなしていたんだ。
だから僕がそれ以外にやるべきこと! まずはクイックモーションの話をする。
クイックモーションって、ランナーがいるときに盗塁されないためのもの。早い話が素早く投げるってこと。投球動作を開始してからボールが手から離れるまでの時間を短くする。これが出来ないと盗塁され放題になってしまう。
だけど僕は、高校時代からいつも普通のセットポジションで投げて、クイックと言えるようなことはあまりやっていなかった。歴代キャッチャーもすごい強肩だったし。
それとフォアボールが多かったから、フォアボールで出塁されても盗塁されて一塁が空くと、もはや「走られる」プレッシャーが減るうえに、そこからフォアボール出しても「一緒じゃん」なんて不思議な発想が芽生えたりして、それで「よしここから♬」みたいなポジティブな言葉が脳内に浮かび、で、そこから結構いい球が放れて、だからフォアボールでランナー出して走られてってなっても、そこから開き直って粘って結果無失点なんて、ちょくちょくやってたし。そのうえ、打者にきちんとした球を投げる方がよほど大切だ、なんて思ってて。
だけどもうプロなんだから、そんな悠長なことを言っている場合ではなかったんだ。
もちろんクイックって定番のやり方はいろいろあるんだ。だけど僕の場合どれをやってもしっくりこなかった。暴投しそうだったり、肩が痛くなりそうだったり。つまり人それぞれなんだ。
だけどある朝、僕はベッドの中で、あるクイックのアイディアを思いついた。これは僕のオリジナル。いやいや、他の人も似たようなのをやっているのかも知れないけれど…
その自称オリジナルのクイックについて。
普通のセットポジションから投球動作を開始したと仮定して、左足を上げ軸足でしっかりと立って安定して…、だけどその状態のまま、上げた左足だけを、そのままそ~っと下ろして地面に付ける。でも体重はほぼ軸足に乗ったまま。そして最初からこの状態でセットするんだ。
とにかく軸足一本で立った状態の変形として、左足は地面にそっと接している状態。分かる?
このセットの状態って、実は意外なメリットがある。このセットの状態は、「軸足でしっかりと立った状態」に準ずると言えるから。
だいたい「軸足でしっかりと立った状態」で安定するために、高校のころにやれバランス感覚だの、足の持久力のために堤防の道を走るだのやってたわけ。
ところがこのセットなら、ぴたりと安定するまで、「軸足で立ったみたいな状態」で止まっていられるんだ。
ややこしい話はさておき、ともかくとても安定するということ。
それからややすり足ぎみに左足を前へ進め、例の「しかるべき位置」まで持っていく。そして左足が接地すれば、そこから先は普段の投球と同じじゃん!
ただしこれではタメがないし反動も使えないから、投球の原動力は軸足でプレートを蹴る力だけ。だからただでさえ遅い僕の球速はさらに遅くなる。
だけど投球動作の力感も減るから、僕の十八番の「遅いと思ったらそれほど遅くない」というキャラだけはかろうじて保たれるのでは? しかも安定するならコントロールは若干良くなる? もしかしてこれ、素晴らしいアイディア?
それで夢の中で思い付いたこの方法を、起きてから早速自分の部屋で何度も練習し、それから毎日のように部屋でやってみた。そうやってしっかりとイメージを作り、それからキャッチボールでの「実証実験」も開始することにした。
実はこのクイックのとき、軸足でプレートを蹴る力の使い方は、横に蹴る感じが相撲の四股を踏む動作と似ていると、僕は勝手に思ったんだ。
それである日突然、僕は発作的にとある相撲部屋へアポなしで行き、たまたま居合わせた力士に正直に、「実は僕はプロ野球の投手で、投球のため足腰を鍛えるのに、四股を取り入れたいんです。よろしければ踏み方を教えて頂ければ…」などとぬけぬけと言ったら、何とその人は実は関脇で、しかも畏れ多くも快く、「いいっすよ♪」と優しく言ってから、実地に指導をしてくれたんだんだ。
それからまわしも付けさせてもらい、序二段の人と取り組みもさせてもらって、そしたら何故か上手投げがきれいに決まって勝っちゃって、それで親方から「3年で君を関取にまで育ててやる。野球でだめだったらいつでも来い」って言われちゃったんだ。やっぱり僕って「投げる」の得意なのかな?
ともかくそれ以来、四股踏みは僕の日課になった。
豪快に話がそれちゃった。
それで、実際にそのクイックをキャッチボールでやってみて、それからブルペンでも投げてみた。結構うまく投げられた。僕には合っていたみたいで、自然に腕が振れたし。それに四股踏みの効果か、思ったほど球速は落ちなかった。(元々遅くて草)ちなみに普通のセットで投げるときもパワーが増した感じ。
ところで、こういう動作をあれこれトライできたのは、僕の上半身が「水」になる前だからこそだ。つまりまだ「操る」ことの出来る段階だからこそ、可能だったんだ。
ところで僕のフォームは打者をだますため、つまりいかにも「球遅いぞ!」とアピールするため、ゆったりと投げる。
ただしクイックは、あまりゆったりと投げるとクイックでなくなるし、だからと言ってあまりに素早く投げると「ゆったり」ではなくなって、ただの球の遅い投手になってしまう。
だからそのへんの折り合いは、それからいろいろと試行錯誤をした。
そしてこのクイックの投げ方は、意外にも速い牽制にも応用できた。不器用な僕でもそこそこ出来たんだ。
それは例のセットの構えから、プレートを外すことなく振り返りざま、そしてすり足ぎみに一塁方向に踏み出せば、そのまま一塁へ牽制できるし、三塁方向へ踏み出せば三塁牽制もできる。
ただし残念ながら二塁牽制には応用できない。プレートを外さないと軸足がねじれてしまうから、普通にプレートを外してからやるしかない。
それはいいけれど、だけど大問題なのはバント処理だった。
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