おもしろSFショート

山田みぃ太郎

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タイムママチャリ1

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 タイムマシンを扱った作品です。1から4までに分けて掲載しています。 

    1
 1978年、彼が大学1年のとき、19歳でサイクリング用の自転車を買った。そして彼はその自転車で日本中を旅行し、たくさんの思い出を作った。
 そんな彼の父は警察官で鑑識の仕事をしていて、そして科学の知識が豊富な人だった。
 そして彼は父の影響もあり、小さい頃から科学に興味を持っていた。鑑識の仕事をしていた彼の父は、沢山の科学的な書物を持っていて、彼はそれらの書物を読みあさり、特に科学の図鑑がお気に入りで、彼は飽きることなく、それを何度も読みかえした。
 そういう経緯で、彼は中学の頃からは、とりわけ物理学に強い興味を持ち、相対性理論などにも関心を持った。
 その中で、ロケットで高速度で遠い星へ行き、数年で地球へ帰って来ると、地球では数十年も過ぎていたなどという話が、彼にとってはとても興味深く、そこから彼はタイムマシンにも深い関心を持ち始めた。
 そしてタイムマシンは、それが出てくるいろんな小説を読んだことも、そのきっかけの一つだった。
 それで彼は地元の大学の物理学科へ進み、大学院にも進学し、実験物理学の分野でそれなりの研究もやり、論文も仕上げ、修士号も手に入れた。
 だから物理学的な実験法や、いろんな実験器具の制作などについても、かなりの知識と技術を持つようになった。
 だけど物理学の世界で、研究者としてやっていくことは困難を極めた。何故ならこの分野には、天才、秀才と言われる人材が集中していたのだ。ノーベル賞を取った人も複数いたし。
 だから彼も、修士号を手に入れてはみたものの、先輩の話なども聞いて、さらにこの道を進んだとしても、大学の助手、すなわち研究者としての地位さえも、おぼつかないだろうと考えた。
 それで彼はとりあえずモラトリアムを決め込み、当面は親元で暮らすことにした。そして、とりあえず食うに困らない境遇でもあったので、彼は地元の大学の非常勤講師などのバイトを不定期的にやりながら、あとは19歳で買い、以後、後生大事に乗っていたその自転車で、時々旅に出たりもしていた。
 それと、以前から興味のあったタイムマシンの研究も、一人でこつこつと続けた。
 もちろん彼は、そんな中途半端な生活を、いつまでも続けることは出来ないだろうと考えてはいた。だから堅実な仕事、安定した収入のある職を探し始めてはいたのだ。もちろん、公務員試験の勉強も始めていたのだけど。

 そんな彼は一人っ子だった。そしてそんな矢先、不幸にして彼の両親が相次いでこの世を去ってしまった。ともに50歳だった。そのとき彼は25歳。
 それで彼は両親の家を相続し、両親の生命保険も支払われた。
 だけど彼は、だだっ広い家に一人で住むのは好きではなかった。何だかやけに殺風景で物悲しいし、常に両親の思い出が頭に付きまとうようで、それはとても辛いし、それに維持費も掛かるし、掃除も大変だし。
 それで彼は、両親の思い出はしっかりと心に刻むことにして、心機一転、それから田舎にこじんまりとした家を見付け、そこに一人で住むことにした。
 そこは廃業した田舎の雑貨屋らしかった。買い手が付かず、彼はそれを、まさに格安で手に入れたのだ。
 そこにはわりと広い店舗、というか、ガレージのようなスペースが一つと、あとは一人が住むには十分な、だけど最低限の居住空間。
 そして彼は、そこをこまめに修理しながら、そこで暮らし始めた。だけどそれだけあれば、それから彼がやらんとする研究には、十分なスペースだった。
 つまり、そのスペースの片隅に自転車を置き、それから彼が心に描いていた、タイムマシンの研究をそこで続けることにし、処分した家からは、研究のための書物や機材などを全て運んで来て、そこに並べた。そしてそこは、彼にとっては立派な実験室となった。
 それから、家と家財道具は全て処分したので、彼はある程度の現金を手にした。それと両親の生命保険も合わせ、それを小分けに定期預金にし、そして彼は、そこで極めて質素な生活を始めたのだ。
 猫の額ほどの庭には野菜を植え、不定期的に大学の非常勤講師をやり日銭を稼いだ。それに、頼まれれば家庭教師もやった。
 彼は物理学を修めた秀才であり、もちろん勉強法も知り尽くしていた。だから彼の家庭教師はとても評判が良かった。
 彼の教育方針は、勉強の仕方の根本から教え、数学や物理などもきちんと理論的に、やはり根本から教え、そして急がば回れという主義で、だから時間がかかっても、最終的には立派な大学へ合格させたのだ。
 そしてそういう実績が評判を呼び、だから家庭教師の依頼は、その後も絶えることはなかった。
 一方出費は、いわゆる生活費と、そしてタイムマシン開発のための費用。
 だけどタイムマシン開発に使うのは、主に彼の頭脳であって、飯が食えれば脳は動く。あとはいろんな書物や、電子部品や測定器具や工作機械の類などだ。
 しかも測定器具などは、非常勤講師をやっている大学から、処分される予定の廃品を分けてもらい、自分で修理して使うなどしていた。それと、彼の父が持っていた科学的な書物も、ずいぶんと役に立った。
 だけど、それらを合計してもたかが知れていて、だから彼の計算だと、このレベルの生活なら、家賃も要らないし、日常の足は自転車だし、だから貯金と、非常勤講師と家庭教師の収入で、残りの人生も十分にやって行けそうな計算が立った。
 だから、あせって定職を探す必要もないのかなとも、彼は考え始めた。そもそも彼は、贅沢とは全く無縁の生活をしていたわけだし。
 そういうわけで、とにかく彼はタイムマシン開発に没頭した。
 ところで彼は、それからは以前よりもまして、タイムマシンの研究開発に力を入れた。ある意味、物に取り付かれたように…
 そしてその理由は、実は彼の両親のことだったのだけど。
 それから、研究に疲れると、気晴らしに自転車で近くの田舎道を走り、あるいは近所をてくてくと散歩し、そこで顔見知りになった近所の農家から米や野菜や果物や、はたまた芋なども格安で分けてもらえるようになり、ますます生活費は少なくて済むようになった。
 とにかくそうやって彼は、それからも自由に、そして延々と、だけど必死にタイムマシンの研究を続けたのだ。
 それから彼には、いやというほど自由な時間があったので、それで彼はいろんな学問、それは理系、文系を問わず、ありとあらゆる分野の学問を、図書館や、後になればインターネットなんかでも学んだ。
 こうして月日が流れ、彼が56歳になった2015年の早春。
 遂に彼はタイムマシンを完成した。

 2へ続く
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