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第97話 絶望の航海 その五
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やがて両艦隊は、本格的な砲撃戦へと身を投じる。
山本長官の勘は当たり、次のアメリカ打撃艦隊の砲撃を回避する。しかし、誤差は数百メートル程度である。この距離では至近弾と言えるだろう。
それでも舵を取り続け、ようやく艦首が二十度ほどアメリカ打撃艦隊のほうを向く。
「舵戻せ、第一戦速」
「もどーせー、舵中央。第一戦そーく」
「ヨーソロー」
おおよそ五ノットほど減速させ、さらに敵の攻撃を回避しようとしている。
そんな中、帝国海軍の砲撃も続く。アメリカ打撃艦隊までの距離は約二十五キロメートル。命中弾が出た。艦隊中央付近に陣取っていた戦艦の、艦尾辺りに命中したのだ。
「命中した模様ですが、軽微のようです」
「命中しただけで値千金だ。諸元が異なるので注意して射撃すべし」
「了解!」
その時だった。
長門のすぐ後ろを行く金剛の艦首に、砲弾が命中した。鈍い金属音が長門の元まで響いた。
「敵の攻撃が金剛に命中!」
見張り員がそのように報告する。それに対して山本長官が聞く。
「損害は?」
「艦首部が小破した模様!」
「航行と砲撃に支障がなければ、攻撃を続けさせよ。今は攻撃をしなければ負けるからな」
そのまま砲撃戦が一時間ほど続いた。
日は水平線の向こうに沈み、夕焼けの残滓が夜の訪れを知らせていた。
「これ以上は命中率が下がりそうだ。何か策を考える必要があるな……」
夕焼けを見ながら、山本長官はそう言う。
「しかし、何かありますかね? 敵艦隊との距離は二万ほどですが……」
「……なら一つの賭けに出るか」
「賭け……ですか?」
「全艦を一斉回頭させ、一気に距離を詰める」
「そんなことをすれば、敵からの攻撃をより受けることになりませんか? しかも、もう夜です。探照灯を使えば、さらに敵からの攻撃を食らうことになりますよ?」
「構わん。そのために戦艦が沈むのなら、それも本望だろう」
「しかし、山本長官。それでは長官の身にも危険が及びます。せめて長門の探照灯は使わないようにしてください」
「それもそうか……。分かった。ここは申し訳ないが、金剛の探照灯で敵艦隊を照らすことにしよう。では、全艦に一斉回頭するように通達してくれ。回頭開始時間は……今から二十分後だ」
「了解」
こうして夜戦に突入する。
闇夜に紛れて、第一戦隊は一斉に回頭する。十分で回頭は終了し、金剛から探照灯が照らされる。
「敵艦隊を確認!」
「直ちに諸元入力。照準出来次第随時射撃せよ」
探照灯の影響は、アメリカ打撃艦隊のほうにも出てくる。
「日本艦隊からサーチライトです」
「よし! アレに向けて集中砲火だ! 沈めてしまえ!」
この時点で、両艦隊の距離は二十キロメートルを切る。
砲撃戦をしているのをよそに、アメリカ重巡艦隊は真珠湾の入口に接近しつつある。ハルゼー少将から、雑に艦隊司令官に任命されたバーナード大佐は困惑していたが、自分の指名を全うしようとしていた。
「とにかく、パールハーバー周辺を砲撃すればいいんだ……。それだけでいいんだ……」
そんな時である。
「大佐ァ! パールハーバーから何かが接近しています!」
「何だと……!?」
真珠湾から出てきたのは、第二艦隊を構成していた水雷戦隊である。しかも二個戦隊だ。
一方は阿武隈を旗艦とした第六水雷戦隊。もう一方は五十鈴を旗艦とした第八水雷戦隊である。
水雷戦隊は三十ノットを超える速度で、重巡艦隊の目前を突っ切る。当然、それぞれの旗艦は探照灯で重巡艦隊のことを照らす。探照灯の明かりを頼りに、水雷戦隊の駆逐艦は砲撃を行っていく。
「クソッ……、ちょこまかと……! 反撃だ! 砲撃戦用意!」
すると大佐は、見張り員から最悪の報告を受ける。
「魚雷と思われる航跡を確認! 右舷を通過しています!」
その直後、後ろを航行していた重巡洋艦の舷側に水柱が立つ。
「ぎょ、魚雷……!」
バーナード大佐はすぐに命令する。
「手の空いているヤツは見張りに回れ! 操舵は蛇行で何とかしろ!」
重巡艦隊は各々の艦が蛇行しだし、混乱を始めた。それでも重巡艦隊の中で、ある考えだけが一致していた。
『水雷戦隊から逃げなければ!』
それにより、重巡艦隊全体で見ると真珠湾から離れていく状態である。
そしてこの行動により、戦艦艦隊と重巡艦隊はある状況に追い込まれた。
第一戦隊、第六水雷戦隊、第八水雷戦隊によって包囲されたのだ。帝国海軍の艦艇が反時計回りで回っている状態になっている。
「これは好機だな。将棋で言えば王手の状態か」
そういって山本長官は、長門の探照灯であることをする。
それをハルゼー少将は確認し、そして狼狽えた。
「そんな、そんなことが……」
山本長官は、探照灯を使って発光信号を送ったのだ。その内容は単純である。
『降伏せよ』
わざわざ英語の平文で繰り返し送る。ハルゼー少将は頭が真っ白になっていた。
「て、提督……」
「こ、こここ、こんなことが……」
ハルゼー少将は膝から崩れ落ち、そして絶望に打ちひしがれた。
「どうして……! どうしてこうなった!?」
参謀たちも考えあぐねていると、飛行機のエンジン音が聞こえてくる。
帝国海軍の水上機がやってきたようだ。こちらも発光信号で伝えてくる。
『提案あり。乗艦求む』
もはや何も考えられなくなったハルゼー少将は、何を考えたのかそれを許可した。
水上機のパイロットから、同じような提案が告げられる。
『我々に降伏してください』
対応したハルゼー少将は、力なく聞く。
『……我々の処遇は? 艦隊たちはどうなる?』
『あなた方の処遇は、捕虜として保障します。艦隊は拿捕させていただきます』
それを聞いたハルゼー少将は答える。
『それでいい……。私はもう疲れた……』
こうして、第8艦隊は、帝国海軍によって全艦拿捕。乗組員は捕虜となったのである。
山本長官の勘は当たり、次のアメリカ打撃艦隊の砲撃を回避する。しかし、誤差は数百メートル程度である。この距離では至近弾と言えるだろう。
それでも舵を取り続け、ようやく艦首が二十度ほどアメリカ打撃艦隊のほうを向く。
「舵戻せ、第一戦速」
「もどーせー、舵中央。第一戦そーく」
「ヨーソロー」
おおよそ五ノットほど減速させ、さらに敵の攻撃を回避しようとしている。
そんな中、帝国海軍の砲撃も続く。アメリカ打撃艦隊までの距離は約二十五キロメートル。命中弾が出た。艦隊中央付近に陣取っていた戦艦の、艦尾辺りに命中したのだ。
「命中した模様ですが、軽微のようです」
「命中しただけで値千金だ。諸元が異なるので注意して射撃すべし」
「了解!」
その時だった。
長門のすぐ後ろを行く金剛の艦首に、砲弾が命中した。鈍い金属音が長門の元まで響いた。
「敵の攻撃が金剛に命中!」
見張り員がそのように報告する。それに対して山本長官が聞く。
「損害は?」
「艦首部が小破した模様!」
「航行と砲撃に支障がなければ、攻撃を続けさせよ。今は攻撃をしなければ負けるからな」
そのまま砲撃戦が一時間ほど続いた。
日は水平線の向こうに沈み、夕焼けの残滓が夜の訪れを知らせていた。
「これ以上は命中率が下がりそうだ。何か策を考える必要があるな……」
夕焼けを見ながら、山本長官はそう言う。
「しかし、何かありますかね? 敵艦隊との距離は二万ほどですが……」
「……なら一つの賭けに出るか」
「賭け……ですか?」
「全艦を一斉回頭させ、一気に距離を詰める」
「そんなことをすれば、敵からの攻撃をより受けることになりませんか? しかも、もう夜です。探照灯を使えば、さらに敵からの攻撃を食らうことになりますよ?」
「構わん。そのために戦艦が沈むのなら、それも本望だろう」
「しかし、山本長官。それでは長官の身にも危険が及びます。せめて長門の探照灯は使わないようにしてください」
「それもそうか……。分かった。ここは申し訳ないが、金剛の探照灯で敵艦隊を照らすことにしよう。では、全艦に一斉回頭するように通達してくれ。回頭開始時間は……今から二十分後だ」
「了解」
こうして夜戦に突入する。
闇夜に紛れて、第一戦隊は一斉に回頭する。十分で回頭は終了し、金剛から探照灯が照らされる。
「敵艦隊を確認!」
「直ちに諸元入力。照準出来次第随時射撃せよ」
探照灯の影響は、アメリカ打撃艦隊のほうにも出てくる。
「日本艦隊からサーチライトです」
「よし! アレに向けて集中砲火だ! 沈めてしまえ!」
この時点で、両艦隊の距離は二十キロメートルを切る。
砲撃戦をしているのをよそに、アメリカ重巡艦隊は真珠湾の入口に接近しつつある。ハルゼー少将から、雑に艦隊司令官に任命されたバーナード大佐は困惑していたが、自分の指名を全うしようとしていた。
「とにかく、パールハーバー周辺を砲撃すればいいんだ……。それだけでいいんだ……」
そんな時である。
「大佐ァ! パールハーバーから何かが接近しています!」
「何だと……!?」
真珠湾から出てきたのは、第二艦隊を構成していた水雷戦隊である。しかも二個戦隊だ。
一方は阿武隈を旗艦とした第六水雷戦隊。もう一方は五十鈴を旗艦とした第八水雷戦隊である。
水雷戦隊は三十ノットを超える速度で、重巡艦隊の目前を突っ切る。当然、それぞれの旗艦は探照灯で重巡艦隊のことを照らす。探照灯の明かりを頼りに、水雷戦隊の駆逐艦は砲撃を行っていく。
「クソッ……、ちょこまかと……! 反撃だ! 砲撃戦用意!」
すると大佐は、見張り員から最悪の報告を受ける。
「魚雷と思われる航跡を確認! 右舷を通過しています!」
その直後、後ろを航行していた重巡洋艦の舷側に水柱が立つ。
「ぎょ、魚雷……!」
バーナード大佐はすぐに命令する。
「手の空いているヤツは見張りに回れ! 操舵は蛇行で何とかしろ!」
重巡艦隊は各々の艦が蛇行しだし、混乱を始めた。それでも重巡艦隊の中で、ある考えだけが一致していた。
『水雷戦隊から逃げなければ!』
それにより、重巡艦隊全体で見ると真珠湾から離れていく状態である。
そしてこの行動により、戦艦艦隊と重巡艦隊はある状況に追い込まれた。
第一戦隊、第六水雷戦隊、第八水雷戦隊によって包囲されたのだ。帝国海軍の艦艇が反時計回りで回っている状態になっている。
「これは好機だな。将棋で言えば王手の状態か」
そういって山本長官は、長門の探照灯であることをする。
それをハルゼー少将は確認し、そして狼狽えた。
「そんな、そんなことが……」
山本長官は、探照灯を使って発光信号を送ったのだ。その内容は単純である。
『降伏せよ』
わざわざ英語の平文で繰り返し送る。ハルゼー少将は頭が真っ白になっていた。
「て、提督……」
「こ、こここ、こんなことが……」
ハルゼー少将は膝から崩れ落ち、そして絶望に打ちひしがれた。
「どうして……! どうしてこうなった!?」
参謀たちも考えあぐねていると、飛行機のエンジン音が聞こえてくる。
帝国海軍の水上機がやってきたようだ。こちらも発光信号で伝えてくる。
『提案あり。乗艦求む』
もはや何も考えられなくなったハルゼー少将は、何を考えたのかそれを許可した。
水上機のパイロットから、同じような提案が告げられる。
『我々に降伏してください』
対応したハルゼー少将は、力なく聞く。
『……我々の処遇は? 艦隊たちはどうなる?』
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