99 / 149
第99話 ヒトラーの蛮行
しおりを挟む
一九三八年十二月八日。ドイツ、ベルリン。
総統官邸では、いつものように定例会議が開催されていた。
定例会議は、ヒトラーからの質問で始まる。
「フランスの様子はどうだ?」
「すでに全土を掌握した状態です。現在はオルレアンに傀儡政権を樹立し、各種事務作業を移行しています。それに伴い、イギリス攻撃のために向けて、飛行場などを整備しているところです」
「よろしい。これで我が国の西側にいる敵は、イギリスのみとなった。しかし、奴は強大な敵だ。航空機のみでの攻撃で倒れるような相手ではない。ここは海軍と空軍が歩調を合わせて、最大限の攻撃を行うように」
その言葉を聞いて、海軍総司令官と空軍総司令官のゲーリングが顔を見合わせる。海軍総司令官は少し苦笑いをし、ゲーリングは明らかに嫌な顔をした。
「それではアメリカの様子はどうだね?」
「はい。レンドリース法に基づく物資供与の支援が続いている状況です。兵の派遣がされる様子は無く、支援が物資のみの現状ではまださほど問題ではありません。ですが、もし海軍の派遣が決定した場合、我が国の通商が脅かされる可能性があります」
「そのようなことはあってはならない。降りかかる火の粉は振り払わなければならないだろう」
「もちろんです。ですが、アメリカ海軍による真珠湾攻撃に参加した艦艇が、ほぼ全て日本海軍に拿捕されたことで、アメリカ海軍の戦力は大幅に下がっています。心配する必要はないと考えます。それより考えるべきは、アメリカ陸軍の派兵です。陸軍に損害はありませんので、その戦力がこちらに向かってくる可能性があります。それだけは避けなければなりません」
「当然の帰結だな。そのためにも、陸海軍の戦力増強は必須だろう」
ヒトラーは顎に手をやり、そのように考える。
「そういえば、日本の動きが不穏そうじゃないか? 一体どうなっている」
「そのことなのですが、最近は消極的な外交が多く見られます。こちらの提案にも乗らず、かといって向こうから提案することも少なくなりました。このままでは、同盟にヒビが入る可能性があります」
「イタリアともいつの間にか音信不通になっていた。今はまだ良いが、もし日本も離れることになると、我が国の立場は危うくなるだろう。それだけは絶対に避けるのだ」
ヒトラーは身を乗り出して、厳しく言う。
「もちろんです。我が国の不利になるようなことはしません」
「ならよろしい」
そういってヒトラーは、椅子に座りなおす。
「さて、最新の科学技術のほうはどうなっている?」
「はい。新技術を用いた戦闘機の試作機が完成間近です。これが成功すれば、戦闘機の歴史が変わるでしょう。その他、造船所では新型戦艦二隻が起工しました。陸軍関係では、多数の戦車が開発されています。こちらも生産ラインに入るのも時間の問題でしょう」
「そうか。戦力が拡大することはいいことだ。我々に敗北があってはならない。そのためにも、速やかに戦力化できるように働きかけるのだ」
「はっ」
「それはさておき……。ユダヤ人の件はどうなっている?」
「それに関しまして、現在は最終的解決に向けてユダヤ人問題検討会議が行われてます。その中で、解決方法の一つとしてT13作戦が立案されています。簡単な概要はこちらの資料をご確認ください」
そういってヒトラーの元に、一枚の紙が渡される。
簡単に言えば、ユダヤ人の大量虐殺を組織的かつ効率的に行うための手順とも言える。概要を掻い摘んで書くならば、ドイツ国内にある各強制収容所から連行し、数ヶ所の処刑場にてガスを用いて殺害するというものである。
収容所から処刑場に移動させるためのトラックや、使用するガスの種類などを選定し、実行する際の名前を、T13作戦と呼称しているのだ。
「作戦の立案は、どこまで進んでいる?」
「総統閣下が命令をくだされば、十二時間以内に開始できます」
「よろしい。ここで命令を下す。T13作戦を実行に移せ」
「はっ!」
それを聞いたドイツ兵数人が、会議室から出る。作戦開始を伝えに行ったのだろう。
「我々アーリア人が最も優れている民族であり、アーリア人のための国家が必要だ。その中にユダヤ人がいてはならない。ユダヤ人による全世界掌握から逃れるためには、ユダヤ人の絶滅と、アーリア人の神聖なる浄化が必要だ。そのためにも、この戦争に我々は勝利せねばならないだろう」
曇りなき眼で、ヒトラーは宣言する。現代では差別とされるであろう発言を、堂々としているのは時代の問題だろう。
しかしヒトラーは本気である。そして、その具合は歴史が証明している。
はたして、ヒトラーの蛮行を止められるのは一体誰だろうか。
総統官邸では、いつものように定例会議が開催されていた。
定例会議は、ヒトラーからの質問で始まる。
「フランスの様子はどうだ?」
「すでに全土を掌握した状態です。現在はオルレアンに傀儡政権を樹立し、各種事務作業を移行しています。それに伴い、イギリス攻撃のために向けて、飛行場などを整備しているところです」
「よろしい。これで我が国の西側にいる敵は、イギリスのみとなった。しかし、奴は強大な敵だ。航空機のみでの攻撃で倒れるような相手ではない。ここは海軍と空軍が歩調を合わせて、最大限の攻撃を行うように」
その言葉を聞いて、海軍総司令官と空軍総司令官のゲーリングが顔を見合わせる。海軍総司令官は少し苦笑いをし、ゲーリングは明らかに嫌な顔をした。
「それではアメリカの様子はどうだね?」
「はい。レンドリース法に基づく物資供与の支援が続いている状況です。兵の派遣がされる様子は無く、支援が物資のみの現状ではまださほど問題ではありません。ですが、もし海軍の派遣が決定した場合、我が国の通商が脅かされる可能性があります」
「そのようなことはあってはならない。降りかかる火の粉は振り払わなければならないだろう」
「もちろんです。ですが、アメリカ海軍による真珠湾攻撃に参加した艦艇が、ほぼ全て日本海軍に拿捕されたことで、アメリカ海軍の戦力は大幅に下がっています。心配する必要はないと考えます。それより考えるべきは、アメリカ陸軍の派兵です。陸軍に損害はありませんので、その戦力がこちらに向かってくる可能性があります。それだけは避けなければなりません」
「当然の帰結だな。そのためにも、陸海軍の戦力増強は必須だろう」
ヒトラーは顎に手をやり、そのように考える。
「そういえば、日本の動きが不穏そうじゃないか? 一体どうなっている」
「そのことなのですが、最近は消極的な外交が多く見られます。こちらの提案にも乗らず、かといって向こうから提案することも少なくなりました。このままでは、同盟にヒビが入る可能性があります」
「イタリアともいつの間にか音信不通になっていた。今はまだ良いが、もし日本も離れることになると、我が国の立場は危うくなるだろう。それだけは絶対に避けるのだ」
ヒトラーは身を乗り出して、厳しく言う。
「もちろんです。我が国の不利になるようなことはしません」
「ならよろしい」
そういってヒトラーは、椅子に座りなおす。
「さて、最新の科学技術のほうはどうなっている?」
「はい。新技術を用いた戦闘機の試作機が完成間近です。これが成功すれば、戦闘機の歴史が変わるでしょう。その他、造船所では新型戦艦二隻が起工しました。陸軍関係では、多数の戦車が開発されています。こちらも生産ラインに入るのも時間の問題でしょう」
「そうか。戦力が拡大することはいいことだ。我々に敗北があってはならない。そのためにも、速やかに戦力化できるように働きかけるのだ」
「はっ」
「それはさておき……。ユダヤ人の件はどうなっている?」
「それに関しまして、現在は最終的解決に向けてユダヤ人問題検討会議が行われてます。その中で、解決方法の一つとしてT13作戦が立案されています。簡単な概要はこちらの資料をご確認ください」
そういってヒトラーの元に、一枚の紙が渡される。
簡単に言えば、ユダヤ人の大量虐殺を組織的かつ効率的に行うための手順とも言える。概要を掻い摘んで書くならば、ドイツ国内にある各強制収容所から連行し、数ヶ所の処刑場にてガスを用いて殺害するというものである。
収容所から処刑場に移動させるためのトラックや、使用するガスの種類などを選定し、実行する際の名前を、T13作戦と呼称しているのだ。
「作戦の立案は、どこまで進んでいる?」
「総統閣下が命令をくだされば、十二時間以内に開始できます」
「よろしい。ここで命令を下す。T13作戦を実行に移せ」
「はっ!」
それを聞いたドイツ兵数人が、会議室から出る。作戦開始を伝えに行ったのだろう。
「我々アーリア人が最も優れている民族であり、アーリア人のための国家が必要だ。その中にユダヤ人がいてはならない。ユダヤ人による全世界掌握から逃れるためには、ユダヤ人の絶滅と、アーリア人の神聖なる浄化が必要だ。そのためにも、この戦争に我々は勝利せねばならないだろう」
曇りなき眼で、ヒトラーは宣言する。現代では差別とされるであろう発言を、堂々としているのは時代の問題だろう。
しかしヒトラーは本気である。そして、その具合は歴史が証明している。
はたして、ヒトラーの蛮行を止められるのは一体誰だろうか。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――
黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。
ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。
この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。
未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。
そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
現在1945年夏まで執筆
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
男が少ない世界に転生して
美鈴
ファンタジー
※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです!
旧稿版も一応残しておきますがあのままいくと当初のプロットよりも大幅におかしくなりましたのですいませんが宜しくお願いします!
交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる