異世界でエルフに転生したら狙われている件

プロローグ

「アルフレイド、ここから真っ直ぐ行った先に小屋があるわ。その小屋に向かって今から全速力で走りなさい。」

美しい声を震わせた母が"アルフレイド"を抱き締めながら必死そうに伝える。

「どう、して、ですか…？」

最近、齢10に満ちたばかりの少年"アルフレイド"は、うまく状況がつかめず困惑する。

「『帝国魔導士』がこちらに向かっているの。彼等は魔力の強い私達エルフを、『人形』の実験体にするつもり。…アルフレイド、…私はあなたに生きて欲しい。生きて、ずっとずっと、年を取って、おじいさんになるまで生き抜いてほしいの。」

母はそういうと"アルフレイド"の背をトン、と優しく叩き、「走りなさいッ！！！！！」と叫んだ。

これ以上この場に居たら、"アルフレイド"はきっと目の前の美しい母を、見捨てられない。

「さあ、真っ直ぐ。前だけを見て、お行きなさい！！！」

母の言葉に、"アルフレイド"は泣きながらも頷いて、強く地を蹴った。

母の姿が見えなくなりそうなところまで走った時、大きな衝撃音と共に、快晴の空から黒い雷鳴が轟いた。

一瞬だった。

ハッと気付いたときには、"アルフレイド"が先程までいた村が、焼けていた。

思わず、手で口を覆って、悲鳴を上げそうになるのを必死にこらえた。

それからはもう、無我夢中に走って、走って、走って走って走り続けて。

小屋に着いた頃には、全身汗だくで、フラフラだった。

〈アル、大丈夫？〉〈アルフ、苦しそうだ〉〈アルフレイド、体、熱い。汗、いっぱい。俺達、助けない、と〉




複数の『精霊』が心配そうに自分の周りをふわふわと浮遊している。

「大丈夫」と、言う前に、"アルフレイド"の意識は闇の中へと落ちていった。