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7.悪事
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街で出会った少年。
その兄であるシークさんに連れて行かれたその場所は、街とは少し遠いところにあった。
近いと言ったくせに、15分くらい歩かされた。
そして家に入り、シークさんにお茶の用意をしていただいてる間に、可愛らしい少女が二人、僕等の元に寄ってきた。
「にぃちゃん!おかえり!」
「ただいま。ハルカ」
「ねぇ、にぃちゃん。そのおねーさん、だぁれ?」
「……ただの、おせっかいなおばさんだよ。カオル」
失礼な。誰がおばさんだ。
そう思ってリヒトの方を睨むと、悪戯に成功した子供のように、楽しげに微笑まれた。
「おばさん、名前は?」
「おばさんじゃありません、お兄さんです。…アルフレイドといいます。」
「アルフレイドか。じゃあ、アルって呼ぶな。」
…リヒトには二人の『妹』がいた。
二年前に、リヒトよりも幼い少女二人が、この近くの場所に捨てられていたのを見つけて、リヒトがシークさんに頼み込み、一緒に暮らすと決めたそうだ。
「それで、食料が足りなくなってしまったから盗みに行った……、と、そんなところですか?」
他の三人には聞こえないように、リヒトの耳に囁くと、ムッとされた。
「絶対シーク兄ちゃんやハルカ達には言うなよ。」
「言いませんよ。それでは、あなたの優しさを踏みにじるようなものですしね。」
「へっ、オレは優しくなんかねぇよ。ただあいつらを……、守りたいだけ。」
「…やっぱり、優しいじゃないですか。」
誰かのために動けるというのは立派なことだ。それに、捨てられた彼女たちを救ったのは紛れもなく、リヒトの優しさだ。
だけど、それで悪事に手を染めるのは全くよいことではない。
「リヒト、ハルカちゃん、カオルちゃん。これ、どうぞ。」
シークさんから頂いたお茶を飲み切り、帰る前に、僕は紙袋から三つ、オルトの実を取り出し、三人の手の上に置いた。
そうして、喜ぶ三人に手を振ってその場を立ち去ろうとする僕の服の袖を、リヒトが掴んだ。
「…あのさ、…明日も、会える…?」
寂しそうな、不安そうな顔。
「いいですよ。また、来ます。」
パッとリヒトの顔に明るさが戻り、嬉しそうな笑顔を見せる。
「オレ、待ってるよ。」
リヒトの言葉に、こくりと頷いて僕はその場を去った。
また明日。
彼等に会いに行こう。
――そんな思いは、二度と叶わないものとなることを。
この時の僕はまだ知らなかった。
その兄であるシークさんに連れて行かれたその場所は、街とは少し遠いところにあった。
近いと言ったくせに、15分くらい歩かされた。
そして家に入り、シークさんにお茶の用意をしていただいてる間に、可愛らしい少女が二人、僕等の元に寄ってきた。
「にぃちゃん!おかえり!」
「ただいま。ハルカ」
「ねぇ、にぃちゃん。そのおねーさん、だぁれ?」
「……ただの、おせっかいなおばさんだよ。カオル」
失礼な。誰がおばさんだ。
そう思ってリヒトの方を睨むと、悪戯に成功した子供のように、楽しげに微笑まれた。
「おばさん、名前は?」
「おばさんじゃありません、お兄さんです。…アルフレイドといいます。」
「アルフレイドか。じゃあ、アルって呼ぶな。」
…リヒトには二人の『妹』がいた。
二年前に、リヒトよりも幼い少女二人が、この近くの場所に捨てられていたのを見つけて、リヒトがシークさんに頼み込み、一緒に暮らすと決めたそうだ。
「それで、食料が足りなくなってしまったから盗みに行った……、と、そんなところですか?」
他の三人には聞こえないように、リヒトの耳に囁くと、ムッとされた。
「絶対シーク兄ちゃんやハルカ達には言うなよ。」
「言いませんよ。それでは、あなたの優しさを踏みにじるようなものですしね。」
「へっ、オレは優しくなんかねぇよ。ただあいつらを……、守りたいだけ。」
「…やっぱり、優しいじゃないですか。」
誰かのために動けるというのは立派なことだ。それに、捨てられた彼女たちを救ったのは紛れもなく、リヒトの優しさだ。
だけど、それで悪事に手を染めるのは全くよいことではない。
「リヒト、ハルカちゃん、カオルちゃん。これ、どうぞ。」
シークさんから頂いたお茶を飲み切り、帰る前に、僕は紙袋から三つ、オルトの実を取り出し、三人の手の上に置いた。
そうして、喜ぶ三人に手を振ってその場を立ち去ろうとする僕の服の袖を、リヒトが掴んだ。
「…あのさ、…明日も、会える…?」
寂しそうな、不安そうな顔。
「いいですよ。また、来ます。」
パッとリヒトの顔に明るさが戻り、嬉しそうな笑顔を見せる。
「オレ、待ってるよ。」
リヒトの言葉に、こくりと頷いて僕はその場を去った。
また明日。
彼等に会いに行こう。
――そんな思いは、二度と叶わないものとなることを。
この時の僕はまだ知らなかった。
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