怖気怪談。SS集

coco

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おおい

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 知り合いのN.K君が、小学生のころに体験した話です。

 学校の帰り道、近道をするため、ある交差点を渡ろうとしました。
 信号が青に変わるのを待っていると、どこからか声が聞こえてきます。
「…い。…い。」
 それは、自分の近くから聞こえてきてきます。
 彼は辺りをキョロキョロと見まわしました。
 しかし、信号待ちをしている自分以外誰もいません。
 そうしているうちに信号が赤から青に変わったので、彼は交差点を渡り家路につきました。

 次の日も、彼はその交差点で信号待ちをしていました。
「おおい。おおい。」
 昨日と同じ声が、今日はハッキリと聞こえました。
 しかし、やはり自分以外の姿はありません。
 こんなに近くから聞こえるのに、不思議だなぁ…。
「おおい。おおい。」
 彼が考えている間にも、その声は聞こえてきます。
 しかし、信号が赤から青に変わったので、その声が気になりながらも彼は交差点を渡りました。

 また次の日も、彼はあの交差点で信号待ちをしていました。
「おおい。おおい。」
 またあの声です。
 彼は今日こそ、その声の主を突き止めてやると考えました。
「おおい。おおい。」
 この声は、確かに自分の近くから聞こえています。
 しかし、自分の前後左右には誰もいないのです。
「おおい。おおい。」
 彼はじっと耳を澄ませました。
「おおい。おおい。」
 その声の元に近づいて行くと、電柱に突き当たりました。

 …どうして、こんな所から?
 するとその時、信号が赤から青へと変わりました。
 しかし、今日はそれを渡りませんでした。
「おおい。おおい。」
 その声は、自分の頭より少し上から聞こえてきます。
 彼は電柱を見上げました。
 すると一人の男と目が合いました。
 何と電柱の途中に男の顔がぽっかりと浮かんでいて、それが彼を見下ろしていたのです。
 うつろな目で、口をパクパクとさせて「おおい。おおい。」と、彼を呼んでいたのです。
 彼はびっくりして、その場に立ちすくみました。

 その時です。
「危ない!」
 叫び声がして、彼は手を引っ張られました。
 その瞬間、彼が立っていた場所に車が突っ込んできたのです。
「良かった、怪我はないかい?」
 彼を助けてくれた人はそう声をかけ、彼の体に傷がないかを確かめると、車の方へ声をかけに行きました。
 彼はまだ心臓がドキドキして、その場から動けずにいました。
 そしてふと、あの電柱を見上げました。
 そこには先ほどとは違い、血走った目でこちらを睨む、恐ろしい顔をした男の顔がありました。
 そして憎々し気に、こう言いました。
「あと少しだったのに…。」
 彼は、走ってその場から逃げ出しました。

 家に帰ると、彼はあの交差点で車にひかれそうになったことを、母親に話しました。
 あの男の顔については、怖くて話せませんでした。
 それを聞いて母親はこう言いました。
「あそこの交差点は、歩行者が車にひかれる事故が多いのよ。信号もついてるのに、何でかしらね?」

 彼は二度と、あの交差点を利用することは無かったそうです。
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