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たっちゃんとあたし
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「三組の宇野くんって、かっこよくない?」
たっちゃんが、赤くなった顔を手で隠し言った。あたしは頬杖をついて、そうだねと興味がないように答える。
中学二年生のたっちゃんとあたしは、二人仲良く吹奏楽部に入っている。楽器は二人ともフルートだ。もともと人数がいないし、夏で三年の先輩が引退しちゃったので、フルートパートにはあたしとたっちゃんしかいない。一年生は、人数ゼロの他のパートに取られてしまった。
今日もあたしとたっちゃんは思いっきり練習をサボっている。フルートパートが使う教室だけは、他のパートの使っている教室と階が違うので、サボっても他の部員に見つかることはない。
お喋りがしやすいように一つの机を挟んで、あたしたちは向かい合って座っている。机には、万が一見つかった場合の言い訳に、シャーペンと楽譜を置いてある。見つかったら、楽譜を整理してました、なんて言うつもりだ。あたしはそのシャーペンを手に取って下手くそなペン回しをはじめた。まだ五時だというのに教室は少し寒い。制服のブレザ―を脱いで、白いブラウスの袖をまくって七分袖にしていると、むき出しの腕が実際より寒く感じさせる。急に寒くなったな。昨日まではこんなことなかったのに。去年は暖冬だったから、今年は寒くなるのかな。そんなとりとめのない考えを頭に浮かべながら腕をこすると、開け放した窓から乾いた風が吹いた。あたしの肩上でそろえた髪がその風に舞って、耳元にまとわりつく。
「もー、英里佳はいっつもまじめに答えてくれないよね」
たっちゃんは唇を尖らせる。
「アンコンまで、あと何日だっけ」
あたしは話を逸らすつもりでそう尋ねた。
アンコンというのは十二月に行われる全国中学アンサンブルコンテストの略称だ。あたしたちが話しているのは、その地区大会のこと。毎年違う中学校が会場になっていて、今年はうちの学校で行われるらしい。アンサンブルコンテストは、夏に行われる普通の吹奏楽コンクールとは違い、部門ごとに分かれて行われる。金管楽器だけとか、木管楽器だけとか、パーカッションだけとか、色々だ。マーチングをやっている学校は別だけど、普通、吹奏楽部は年に二つの大会にしか出ない。夏に行われる通称「夏コン」と、冬の「アンコン」だけ。それだけに、その二つに力を入れてやっているのだ。でもうちの中学校は弱小だから、夏コンだけで精いっぱい。アンコンに力を入れる余裕なんてない。だから、思い出作りみたいな感覚でやっている。無理に根つめても疲れるだけ。みんな、口には出さないけれど分かっている。
たっちゃんが、赤くなった顔を手で隠し言った。あたしは頬杖をついて、そうだねと興味がないように答える。
中学二年生のたっちゃんとあたしは、二人仲良く吹奏楽部に入っている。楽器は二人ともフルートだ。もともと人数がいないし、夏で三年の先輩が引退しちゃったので、フルートパートにはあたしとたっちゃんしかいない。一年生は、人数ゼロの他のパートに取られてしまった。
今日もあたしとたっちゃんは思いっきり練習をサボっている。フルートパートが使う教室だけは、他のパートの使っている教室と階が違うので、サボっても他の部員に見つかることはない。
お喋りがしやすいように一つの机を挟んで、あたしたちは向かい合って座っている。机には、万が一見つかった場合の言い訳に、シャーペンと楽譜を置いてある。見つかったら、楽譜を整理してました、なんて言うつもりだ。あたしはそのシャーペンを手に取って下手くそなペン回しをはじめた。まだ五時だというのに教室は少し寒い。制服のブレザ―を脱いで、白いブラウスの袖をまくって七分袖にしていると、むき出しの腕が実際より寒く感じさせる。急に寒くなったな。昨日まではこんなことなかったのに。去年は暖冬だったから、今年は寒くなるのかな。そんなとりとめのない考えを頭に浮かべながら腕をこすると、開け放した窓から乾いた風が吹いた。あたしの肩上でそろえた髪がその風に舞って、耳元にまとわりつく。
「もー、英里佳はいっつもまじめに答えてくれないよね」
たっちゃんは唇を尖らせる。
「アンコンまで、あと何日だっけ」
あたしは話を逸らすつもりでそう尋ねた。
アンコンというのは十二月に行われる全国中学アンサンブルコンテストの略称だ。あたしたちが話しているのは、その地区大会のこと。毎年違う中学校が会場になっていて、今年はうちの学校で行われるらしい。アンサンブルコンテストは、夏に行われる普通の吹奏楽コンクールとは違い、部門ごとに分かれて行われる。金管楽器だけとか、木管楽器だけとか、パーカッションだけとか、色々だ。マーチングをやっている学校は別だけど、普通、吹奏楽部は年に二つの大会にしか出ない。夏に行われる通称「夏コン」と、冬の「アンコン」だけ。それだけに、その二つに力を入れてやっているのだ。でもうちの中学校は弱小だから、夏コンだけで精いっぱい。アンコンに力を入れる余裕なんてない。だから、思い出作りみたいな感覚でやっている。無理に根つめても疲れるだけ。みんな、口には出さないけれど分かっている。
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