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冬休みの始まり

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そんなやり取りは一ヶ月続いて、二ヶ月続いて、今日、冬休み前の終業式まで続いている。
 今日でそれも終わりかな。靴箱で、上靴をスニーカーに履き替えながら、そう思う。終業式はもう終わって、大掃除も終わって、後は帰るだけだ。明日からは冬休み。部活のためだけに学校に通うようになる。そうしたら、宇野と会うことも少なくなるだろう。吹奏楽部の活動時間は朝から昼までで、陸上部は昼過ぎからだから。時間が違いすぎる。
 あたしとたっちゃんの間に宇野がいるのは気分が悪かったが、これで終わりと思うと不思議に名残惜しくなる。もしかしたら、あたしは今までの親密で奇妙な関係に安心していたのかもしれない。あたしはたっちゃんが好きで、たっちゃんは宇野が好きで、宇野はたっちゃんが好きか好きじゃない。友だち以上だけど、それ以上じゃない、まったくわかりやすい関係だった。相関図にしたら、シンプルな絵になるだろう。そう、シンプルな一方通行。それがどう変わるかは、宇野だけが知っている。
 ふと、制服の厚い生地が居心地悪く感じた。周りを見ると、靴箱を埋め尽くす生徒は、みんな休みが始まるって、嬉しそうな顔をしている。そう言えば、アンコンまであと少ししかない。あと、たった四日。今年は、どこが最優秀をとるかな。あたしは乾燥でかさついた左手にベージュの手袋をはめた。
「あ、英里佳」
 校門まで出て行くと、門のすぐ側にたっちゃんが立っていた。たっちゃんは首に黒いマフラーを巻いていて、その色が白い肌に映えて綺麗だ。
「宇野は?」
 そう訊くと、たっちゃんは首を横に降った。まだ来てないのか。別にいいけど。
「明日から冬休みだね」
 たっちゃんが楽しそうに言う。
「英里佳、部活以外に何か予定ある?」
「特に無いよ」
「じゃあ、どっか遊びに行こうよ」
「うん」
「宇野君も誘ってさ」
「それは二人で行きなさい」
 そう言うと、たっちゃんは顔を赤くして唇を尖らせた。最近、あたしは何かとたっちゃんを宇野にけしかけている。吹っ切っているとか、やけくそじゃない。何となくだ、何となく。
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