おんなのこがたり【好きなのは、男の体のおんなのこ】

十日伊予

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アンコン前日

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 その夜、夢を見た。
 夢の中では、たっちゃんは男の子で。夕暮れのあたしの部屋で、あたしのスカートを持って立っている。薄いピンクに、白い花柄のスカート。あたしが小学校のとき、たっちゃんに貸したスカート。たっちゃんが誰にも内緒で、初めて履いたスカート。それを、右手でしっかりと持って立っている。あたしはベッドに腰掛けて、目の前のたっちゃんを見つめた。たっちゃんは裸だった。
「英里佳、僕ね」
 あたしは、たっちゃんの白い身体から目をそらさなかった。人生で一度も見たことがない、大人になりかけの男の子の身体。知らない場所だけが、あたしの脳みその補正がかかって、落書きみたいになっている。
「僕は、女の子をやめるよ」
 そう言って、たっちゃんは手を開き、スカートを床に落とした。アイボリーのカーペットを敷いた床が水のように波打ち、スカートを飲み込んでいく。
「私は女の子なんだ」
 突然、隣から話しかけられた。目だけをそっちに向けると、あたしの隣に、宇野が座っている。
「今まで黙ってたけどね、私は女の子だったんだ」
 そう言って、宇野はじっとあたしを見る。その目は宇野の目じゃなくて、黒目がちで丸いたっちゃんの目だ。あたしは震えて、首を横に振った。
「たっちゃん、ごめん。もう忘れて」
 頭を両手で押さえる。そうして目を閉じようとしたら、誰かがあたしのまぶたに指を当てた。
「森ちゃんが自殺しそうで、怖い」
 そっと目を見開かされた。目の前には、浜島がいる。口が裂けて、そこからよだれがダラダラ垂れている浜島が。
「オカマのくせに、ホモのくせに!」
 耳元で宇野が叫んだ。中崎の声だった。
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