83 / 114
アンサンブルコンテスト
話の内容
しおりを挟む
「ねえ、なに話してたの?」
曲と曲の合間の、一瞬の静寂に、あたしは口を開いた。たっちゃんは細い首で頭を持ち上げて、気だるそうな目であたしを見る。
「なんにも」
突然、膝の上で組んでいた手に、ひた、と肉の感触がする。たっちゃんが、あたしの手の上に、手を乗せた。ぎゅっと包み込むように握ってみたり、人差し指で手の甲を軽くこすってみたり、あたしの指と指の隙間に指を入れては離してみたり、袖に親指を差し込んで、あたしの指先から手首までを強く撫でさすってみたり。落ち着かない様子で、そんなことを繰り返す。顔が熱い。たっちゃんの触り方は、どこかいやらしい。今まで、こんなことしたことなかったのに。宇野と、なにがあったんだろう。なにを話していたんだろう。触れているたっちゃんの肌は冷たくて、怖かった。
漠然と、誰かの演奏を聴いていた。耳には入るけど、もう何も、頭に入ってこない。ただ、時間だけが過ぎていく。のろのろ、生ぬるい温度で。あたしは一人、悶々としている。たっちゃんを傍に、だけどものすごく遠くに感じながら。気がつけば、小学校の友だちがステージに立っていた。ずいぶん変わってない。制服や髪型は違うけど、彼女は昔のままで、ああ、あたしも何も変わっていないままなんだ、と思う。昔、聞いたことがある。自分の目に映る懐かしい人は、自分自身なんだって。自分が変わっていれば、その人は以前と変わって見える。自分が変わっていなければ、その人も変わらない姿に見える。的を射た言葉だ。だってあたしは、変わっていない。何も変わっていない。彼女が友だちだった頃――たっちゃんを何より傷つけたあのときから、変われていないんだ。曲は、相変わらず耳を通って、もう反対側の耳から抜けていく。
曲と曲の合間の、一瞬の静寂に、あたしは口を開いた。たっちゃんは細い首で頭を持ち上げて、気だるそうな目であたしを見る。
「なんにも」
突然、膝の上で組んでいた手に、ひた、と肉の感触がする。たっちゃんが、あたしの手の上に、手を乗せた。ぎゅっと包み込むように握ってみたり、人差し指で手の甲を軽くこすってみたり、あたしの指と指の隙間に指を入れては離してみたり、袖に親指を差し込んで、あたしの指先から手首までを強く撫でさすってみたり。落ち着かない様子で、そんなことを繰り返す。顔が熱い。たっちゃんの触り方は、どこかいやらしい。今まで、こんなことしたことなかったのに。宇野と、なにがあったんだろう。なにを話していたんだろう。触れているたっちゃんの肌は冷たくて、怖かった。
漠然と、誰かの演奏を聴いていた。耳には入るけど、もう何も、頭に入ってこない。ただ、時間だけが過ぎていく。のろのろ、生ぬるい温度で。あたしは一人、悶々としている。たっちゃんを傍に、だけどものすごく遠くに感じながら。気がつけば、小学校の友だちがステージに立っていた。ずいぶん変わってない。制服や髪型は違うけど、彼女は昔のままで、ああ、あたしも何も変わっていないままなんだ、と思う。昔、聞いたことがある。自分の目に映る懐かしい人は、自分自身なんだって。自分が変わっていれば、その人は以前と変わって見える。自分が変わっていなければ、その人も変わらない姿に見える。的を射た言葉だ。だってあたしは、変わっていない。何も変わっていない。彼女が友だちだった頃――たっちゃんを何より傷つけたあのときから、変われていないんだ。曲は、相変わらず耳を通って、もう反対側の耳から抜けていく。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる