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十日伊予

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1568 箱庭

訃報

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 それより少し前、リザモンドの訃報が他の貴族たちに入った頃のことだ。
「アルバの嫁が死んだのか、そうか」
 リルぺ家のホールに特別に用意された寝台で、雷神はその報告を受ける。
 雷神は貴族との繋がりの強化のため、貴族の若い女性に子種を授けることを求められている。息子嫁であるシンシアはその一人目だ。先の国祖神による種付けは、貴族の娘が神殿にて拝謁する形で行われていた。しかし雷神が妻の住む屋敷に間女を入れたくないと主張し、シンシアの種付けは彼がリルぺ家に出向く形で執り行われている。
 その仕事を機械的に済ませたい雷神は、シンシアが着飾ることも脱ぐことも嫌がって、ホールを丸ごと使って豪華に拵えられた閨も気に入らないようだ。いざ行為となっても気が乗らない彼ではことがろくに進まず、介添えで控えている使用人たちがやきもきして手を出そうとした頃、ザラスからの一報が入った。雷神は動じないどころか閨の中断に機嫌を良くするが、隣にいたシンシアはマリートルトが頭に浮かび、思わず眉をひそめた。
「ふむ、今日はそれどころではないな。今回の閨は中断だ。私は一旦帰る」
 うきうきとした調子を隠しもせず、自分でズボンを履いてホールを出て行こうとする。使用人たちが慌てて彼について行った。
 雷神が帰ってしまうと、シンシアは体を清めてマリートルトを訪ねる。彼女は姉の訃報を受け、実家に帰る準備をしていた。といってもマリートルト自身と彼女のメイドは泣いて取り乱してそれどころではなく、リルぺのメイドたちがあれやこれやと動いているようだ。リルぺのメイドたちは普段彼女にいたずらをされているものの、年端もいかない少女を気の毒には思うのだろう、文句を言う様子はない。クリコルはいつも明るい彼女の涙に動揺しているが、せめて自分にできることをと、マリートルトの傍に寄り添って肩を抱いている。
「マリー、この度は……」
 シンシアは声をかけようとするが、マリートルトが「お姉さまぁ」と悲痛な声をあげて泣くので、何も言えなくなる。彼女が口をつぐんでいるうちに、準備が整い、マリートルトはすぐにザラス家へと発った。クリコルはマリートルトがかわいそうだからと、彼女に付き添って行く。
 胸が痛むのを感じながら、シンシアは今度はラスを訪ねる。ラスは自室で、完成が見えはじめた絵を前に呆然としていた。ネッドが隣で気遣うが、それもほとんど功をなしていない。
「ラスさま」
 入り口から先には入らず、シンシアはドアの側から彼を呼ぶ。ラスはその声にハッとし、彼女に顔をやった。
「ええと、そうだね。まずはお疲れ様」
 苦し紛れに父親との閨をねぎらい、ラスは金色の眼を曇らせる。それをきっかけにその場の全員が黙り込むが、やがてネッドが口を開いた。
「申し訳ありません、シンシアさま。しばらく──」
「いいよ、自分で言う」
 ネッドを遮り、ラスはうつむく。
「私は、まだどうしていいかわからない。あの人は私にとっては……」
 その先の言葉は出てこない。妄執を捨てた彼には、形にしてはいけないことだ。ラスは大きく息を吐くと、無理に笑顔を作ってシンシアに向けた。
「一人にしてくれないか。ネッドも……。ごめんね」
 彼の笑顔はすぐに綻びを見せ、シンシアは見ていられなくなって目を伏せる。彼女は一言二言挨拶をすると、すぐに踵を返した。
 カツカツとかかとを鳴らして廊下を歩いて行くと、向こう側からエルディムがディアモレを連れてやってくる。エルディムに動揺の色はないが、ディアモレは心なしか暗い表情をしている。
「聞いたか。マリートルトの姉が、うむ」
 エルディムは娘を無視してさっさと歩いて行くが、ディアモレはすれ違いざまに立ち止まり、シンシアに声をかける。
「なんだその顔は。お前が気に止むことではないだろう。格下の家だ」
 彼はシンシアの顔色を見ると、フンと鼻を鳴らす。しかし、声音はそう強くない。彼は腰に手を当て、独り言のようにぼそぼそと言葉を続ける。
「あの小娘が弱っていると、いい気分ではない。私も寛大な男だ。義妹が戻るまでに、気の紛れるボードゲームでも用意しておいてやろう」
 そう言ってしまうと、ディアモレは父の後を追って足早に去っていく。シンシアはその後ろ姿を見つめて、顔をぐしゃぐしゃにして泣いていたかわいそうなマリーを想った。
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