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1568 箱庭
「母親」の死
しおりを挟むリザモンドもメイドも即死だった。
アルバはずっと息子を抱いていた。ブロンディが騒ぎを怖がって泣き出した時も、アンジャンドが今までに見たことがないくらい取り乱して大声をあげて泣いていた時も、呼び戻されたマリートルトが大泣きして母リリアンナに慰められていた時も、監禁していたメルがベルトで首を吊ったと知らされた時も、ずっとブロンディを抱きしめて守ろうとしていた。息子の傍には、自分が抱えてきた悲しみがずっと佇んでいた。
ジーグリッドは取るものもとりあえず屋敷に戻るが、リザモンドの急逝にひどく動揺しており、当主としての振る舞いは少しもできない。ジーグリッドが帰るまではと火葬はまだ行われておらず、しかし常春の都では遺体を保てるほどの氷は用意できない。なきがらが安置されたリザモンドの寝室はむんとした空気に包まれている。その中でジーグリッドはリザモンドの側を離れず、声を上げて泣いたり、妹の冷たく固くなった手を触ったりして、悲しみに暮れていた。
当主のジーグリッドも先代のアンジャンドもそんな調子なので、葬儀はリリアンナが代わりに手配する。彼女は「ブロンディを少しでも長く、母親に会わせていなさい」とアルバに言いつけるが、彼はそれをはねつける。ブロンディをなきがらに近づけず、リザモンドのことなどなかったようにブロンディに接した。
アルバは乳母のエポシの監視の元、誰もいない中庭でブロンディと遊んでやる。中庭には、ブロンディが生まれてから出した小さなブランコがある。それに乗せて揺らしてやると、ブロンディはキャッキャと声をあげて喜んだ。使用人はリザモンドの事件で悲しんだり立て込んだりしており、屋敷は暗い雰囲気に包まれている。エポシも陰鬱な表情だ。その中に、小さな子どもの笑い声がからんと響く。
不意に、アルバがブランコを揺らす手を止める。中庭に面した部屋の窓から、カーラがこちらを見ていた。彼女の真っ赤に泣き腫らした目と視線が合い、アルバはギクっとする。
「とーとぉ」
ブロンディが不満げな声をあげ、アルバはすぐに我に返る。彼はカーラを無視し、ブロンディに猫撫で声を返す。つかまり立ちができてからすぐに、ブロンディは言葉を話した。「とーと」と呼ぶとアルバが喜んで何だってするので、ブロンディも幼いながらに学び、「とーと」は今や大人をコントロールしたい時の魔法の言葉だ。
「アルバさま。ブロンディ坊ちゃま。そろそろ……」
使用人の一人が中庭に出てきて、声をかけてくる。リザモンドの葬儀のため、ブロンディを連れてホールに移動してほしい、とのことだ。しかしアルバは渋る。自分の子を裏切った母親に、ブロンディを関わらせたくない。エポシが深いため息をついた。
「お坊ちゃま、お母さまがお待ちです。行きましょう」
乳母にブランコから抱き上げられ、まだ遊びたかったブロンディはぐずりだす。
「やーあ! とーと、とーと!」
ブロンディはエポシの腕の中で暴れ、アルバに助けを求める。
「ブローが嫌がってるでしょ。遊ばせてあげようよ」
これ幸いと、アルバが息子のわがままに乗る。しかしエポシは冷たい視線を返した。
「何が本当にお坊ちゃまのためなのか、一度お考えになってくださいませ」
彼女の正論に、アルバはカッとなる。
「ぼくは考えてる! ばかな母親と一緒にするな!」
息子の前なのも忘れ、顔を赤くしてつばきを飛ばして怒鳴る。エポシと連絡に来た使用人がギョッとして目を丸くし、ブロンディは急に怒り出した父親にポカンとした。それも束の間、小さなブロンディは顔を歪めて泣き出してしまう。
「ご、ごめ──」
アルバが謝る間もなく、エポシはブロンディを抱いてホールに向かってしまう。文句を言うアルバを、連絡の使用人が無理に肩を貸す形で、ほとんど強制的にエポシの後を追わせる。刺された後遺症があるアルバは、抵抗もできずに連れて行かれるしかなかった。
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