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十日伊予

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1564 旅路

赤毛と青い目

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 昼の公演を終え、皆が片付けをしている。ツィオは観客席の下に潜り、麻袋を片手に客の残していったゴミを片付けていた。他にもその仕事をしている下働きはいるが、それぞれ広いテントのあちこちに散らばっていて、顔を合わせることはない。
「兄貴、ここにいた」
 アルバは自分も客席の下に潜り、ツィオを見つける。何しに来たとツィオが首を傾げると、彼はにやついた顔で寄ってくる。
「好き。好きー。大好き」
 アルバはツィオの腕にしがみつき、顔を彼の頭に擦り付ける。ツィオは呆れた表情でそれをふりほどいた。
「やめろ。こんなところで」
「誰も見てないよ?」
 嫌がるツィオにそう言い、彼の手をまた触る。ツィオはそれも振り払った。
「とにかく外でするな」
 彼に拒まれ、アルバは不満で頬をちょっと膨らませる。
「でも、兄貴はぼくのこと大好きだもんね?」
 ツィオから離れ、声を落としてそう尋ねる。ツィオは「はいはい」と面倒くさそうに返事をした。
 アルバが旅団に入って、もうすぐ一年と半年になる。ツィオとは相変わらずの関係だ。自分がツィオに愛情を伝える、その対価を言葉でもらいたい気持ちはあるが、アルバは今の状態に甘んじていた。不安になる時も、ツィオを怒らせる時も相変わらずある。けれど、自分はツィオの恋人なんだと思うと、全てが些細なことに思えた。それに、色んなことを言葉にしてくれないが、その代わりツィオはアルバが不安定になるといつも抱きしめてくれる。人のぬくもりに飢えて育ったアルバは、抱擁一つで簡単に黙った。
「ねえ、アルバ! どこ!」
 舞台の方から、芸人の誰かがアルバを呼ぶ。アルバはそれを無視しようとしたが、ツィオに睨まれたので渋々返事をする。こっちに来いよと言われ、嫌そうに客席の下から出ていった。ツィオはまたゴミ拾いの仕事に戻る。
「アルバ、今日良かったよ」
 舞台の方から、芸人とアルバの話し声が聞こえてくる。
「なんていうか、艶が出てきた。どんどん魅力的になってきてる。恋人でもできた?」
「えへへ、どうだかね」
 芸人にからかわれ、アルバが照れている。ツィオは気分が良くなった。性別のせいで周りにこそ言えないものの、人気芸人のアルバに好かれていることは彼の自信になっている。
「本当、良かったよ」
 他の芸人が口を挟んだ。
「お前、あの赤毛にべったりで女の子に興味持ってなかっただろ。せっかく青い目に生まれたのに、もったいないと思ってたんだよ。その目ほどモテるもんはないぞ、若いうちに楽しめよ」
 その言葉に、アルバは気分が悪くなる。が、ツィオの口止めを思い出して、文句を言うのは我慢した。アルバの気持ちも知らず、その場の芸人たちはアルバが女性に興味を持たなかったことがどれだけもったいないか話し始める。アルバの父親譲りの容姿を並べ立て、それがどれだけ女好きがするかを彼に説く。
 客席の下で、ツィオはうつむいていた。耳が熱く、顔が赤くなっているのが自分でもわかる。芸人に「赤毛」と呼ばれたことがあまりに屈辱だ。アルバは気づいていなかったが、芸人の口調はツィオを嘲笑していた。彼は、高貴な血筋のアルバが醜い「赤毛」に夢中だったことを笑っていた。ツィオは自分の髪に触れる。アルバも自分も、父親の種ではない間違った子のはずなのに。アルバは皆が讃える青い目に生まれ、かたや自分は皆にばかにされる赤毛だ。
 黒い感情が湧き上がるが、ツィオは首を横に振ってその気持ちを抑える。誰にばかにされようと、「尊い」アルバは俺に熱を上げている。俺の言うことならなんでも聞くし、ちょっと顔色を変えるだけで振り回すことだってできる。俺はアルバ以上の存在だ。そう自分に言い聞かせた。
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