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十日伊予

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1566 蜜月

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 アルバは自分の馬車で目を覚ます。枕元にはツィオの着ていた服がある。ツィオの残り香が消えないように洗濯していないので、今やアルバの涙やよだれがしみ付いて薄汚くなっている。アルバは夢うつつに、ツィオの服に顔を埋めた。ツィオはこの服を長いこと着ていたのだろう、年季の入った生地は柔らかく肌に当たる。
 馬車には、まだツィオの物を全部そのままにしている。数少ない普段着や物売りをする時の衣装に、作業用の小刀、財布にしていた巾着袋、街で時々買ってきていた細々とした物たち。ツィオはいつ帰ってきても以前と同じように暮らせるだろう。アルバは、彼は帰ってこないと心の底でわかっているが、それらを捨てることはできない。どれだけラスに心を解されても、一人になればツィオの残したものを見つめてたそがれることをやめられない。アルバはツィオの思い出を抱いて、彼を思い、それからラスへ不安を覚える。ラスは彼のようにいなくならないでほしい。
 アルバが寝床を抜け出て、スースの持ってきた朝食を食べていると、いつもより早くラスが迎えにきた。今日は都に遊びに行く約束をしている。
「そうそう、しっかり私の腰に腕を回してね」
 ラスは彼を愛馬の後ろに乗せる。見送りに来たダイモンは隠し切れないほどいらだっているようだ。ラスの手前、外出の許可は出したものの、本心はアルバを外に出すなんてトラブルの元だと思っていた。スリスリと両手を擦って笑顔を浮かべても、その顔はひきつってしまう。アルバは馬上からそんなダイモンを見下ろして、「ざまあみろ」と笑って見せる。ラスは彼を気にも留めておらず、アルバがちゃんと乗ったことを確認すると馬を歩かせ始めた。
 二十分ほど馬に乗り、都に到着する。
 都の景色にアルバは息をのんだ。立派な馬車が整備された道路を優雅に通り過ぎていく。街の人々は誰もが上等な生地の服を着て、使用人を連れて歩く者もいる。使用人や、道の馬糞を片付けている掃除夫までがそれなりに良い服を着ている。建物は皆レンガ造りで、きれいに塗られた屋根や壁、軒先に飾られた花など、どこもきちんと手入れされている。レンガ造りの家はこれまでに巡業した大きな街にも点々とあったが、都のように密集して建てられてはいない。建物はどこまでも立ち並び、そのずっと先に、貴族の居住地を囲む円形の城壁と大きな城が見える。都も塀に丸く囲まれているが、城の方の城壁はもっと背が高い。
「すごい、すごいよ! こんな都会、見たことない!」
「気に入ってくれたんだね。よかった」
 はしゃぐアルバに、ラスはにっこりと微笑みかける。
 二人が大きな役所に向かうと、たちまちに役人が飛び出してくる。その中には、アルバが見てもお偉方だとわかるような者もいる。お偉方たちはアルバを気にして、顔色をうかがいながらもあれこれと言ってくる。ラスはそれを受け流し、アルバを馬から下ろすと役人に馬を預けた。
「帰る時にまた来るから、それまでこの子をお願いね」
 愛馬を軽く撫でてやり、ラスが言う。彼がアルバの手を引いて役所を後にしようとすると、役人たちはお偉方さえも頭を下げて見送りをする。
「お前、いつもああなの?」
 ラスと手を繋いで歩きながら、アルバが尋ねる。
「うん、そうだよ。仰々しいよね。馬を預かってもらうだけなのに、毎回、みんな出てくる」
 なんてことないようにラスは答える。それはラスの親が大物だからだろ、アルバはそう言おうとするが思い直して口をつぐむ。ラスは時々、自分の立場が周りを萎縮させることに無自覚だ。その立場による恩恵にも。それに気づくたびアルバは胸がもやもやとするが、ラスは身分のことを言われるのは嫌だろうと言わずにいた。
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