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1567 復讐
やぶれかぶれ
しおりを挟む翌朝、何も知らないリザモンドがメイドを連れてアルバの部屋を訪れる。彼女は護衛たちがあちらこちらにいてアルバに近寄らせてくれないことを不審に思うが、それ以上に彼への報告が嬉しくて、この状況を深く考えはしない。
「アルバさま……?」
ベッドに横たわり寝息を立てるアルバに、遠い距離から彼女は声をかける。アルバは目を覚ますが、起き上がりはしない。彼がかなり落ち着いたことで、拘束はされない。
「子どもができたの」
頬を紅潮させ、リザモンドが自分の下腹部をさする。アルバはどうしようもない気持ちになって、目を閉じた。
「そう、よかったね」
冷たく言い、リザモンドを突き放す。アルバが大喜びすると思っていたリザモンドは、眉をひそめた。
「嬉しくないの……?」
「ぼくはだめだ」
悲しそうなリザモンドに。アルバは首を横に振る。その目には涙が滲んでいる。
「リザのことも、その子のことも愛せない。だから親にはなれない」
命をかけて自分を愛してくれたナャのようにはなれない。自分は父親であれる人間なんかじゃない。
アルバの本音に、リザモンドはひどく傷つく。「でも、恋文は」「私のこと愛してるって」とぶつぶつ言うと、やがて泣き出してしまった。彼女は部屋を飛び出した。メイドが慌ててその後を追う。アルバは少しだけ泣き、リザモンドに届けなければいけない謝罪の言葉をその場だけで口にした。
メイドが追いつく前に、リザモンドは廊下でメルに出くわす。
「お嬢さま、もうお一人のお体ではないのですから、走ってはいけません!」
メルはリザモンドを止め、たしなめる。彼女はわっと声を上げて泣き出して、メルの胸にすがった。
「アルバさまが私のこと愛せないって言うの! この子のことだって! ひどいわ!」
リザモンドはそう叫び、メルの胸元に顔をうずめて泣きじゃくる。メルは動揺し、思わずリザモンドを抱きしめてしまう。
「私はお嬢さまを愛しています……!」
リザモンドの頭をかき抱き、自分の首元に寄せてそう言ってしまう。リザモンドが目を見開いた。
「アルバさまからの手紙は、全て私が書きました。お嬢さまにお伝えした言葉も何もかも、私の思いの丈です。私はずっと、お嬢さまのことを──」
メルが最後まで言う前に、リザモンドは彼を自分から引きはがす。自分のメイドがようやく追いついたので、メイドの後ろに自分の体を隠した。メルの行為を目撃していたメイドは、彼を警戒してリザモンドを守ろうと両腕を広げる。
「お嬢さま……」
泣き出しそうな顔で、メルが呼びかける。リザモンドは嫌悪をあらわにして、彼を見返した。
「メルは使用人じゃない」
メイドに隠れ、不相応な懸想をするメルに軽蔑を向ける。メイドはリザモンドを後ろに隠したまま、彼女をこの場から離れさせようとする。
「アルバさまは!」
去っていこうとするリザモンドに、メルは大きな声を出してしまう。
「御子息さまに復讐をするために民を皆殺しにしようとするような、そのためにお嬢さまにも御子息さまも誑し込む、そんな卑劣な男です!」
リザモンドが想うほどの価値などないと伝えようとする。自分が愛されなくとも、アルバは彼女から愛想を尽かされてほしい。そう願っている。
彼の暴露に、リザモンドは足を止める。御子息さま──突然出てきたラスの存在に、脳天を打たれたようなショックを受ける。自分を愛していないと言ったアルバ。彼が執着する元恋人のラス。静かな、しかし腹の底で煮えたぎるような怒りがリザモンドの心を支配する。
昼前に、アンジャンドとジーグリッドが城へと発つ。それを見計らい、リザモンドは家に一つだけある電話を使う。
「アルバさまがラスさまに会いたがっていますの。どうしてもって。お伝えして頂戴」
彼女は役所にそんな電話をかける。貴族からの直接の電話ということで、所長はすぐにラスのアトリエに使いをやった。
ラスは伝言を聞くと、目を輝かせて喜ぶ。ずっと待っていた連絡に舞い上がり、リザモンドのことなど気にもならず、それがアルバの本心だと信じてやまない。彼は念入りに身支度をすると、もしかしてアルバは抱いてくれるかもしれないと、そんなことまでを期待して馬を出す。その耳元には、いつかお揃いで買ったピアスがある。ネッドが心配し、彼にスタンガンを持たせる。ラスはそれを断ろうとしたが、ネッドがしつこく言ってくるので、しょうがなく鞄の底にしまった。
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