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十日伊予

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1567 復讐

ショック

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「アルバさまはラスさまに復讐しようとなさっているの」
 心を躍らせてザラス家の屋敷を訪れたラスに、玄関先でリザモンドはそう言い放った。
「え……?」
 ラスの顔が、笑顔のままこわばる。リザモンドはほくそ笑み、自分の腹をさすった。
「私、そんなことは望みませんわ。お腹の子を人殺しの子にしたくない」
 眉根を寄せ、じっとりとした目つきで長身のラスを見上げる。ラスの顔から血の気が失せた。
 なんで。アルバは私を愛しているのに。そんなのおかしい。リザモンドが妊娠なんて。アルバは上手くいってないって。私のこと、今でも愛しているって……。
 ラスはひどく混乱し、目をかっぴらいて立ち尽くす。怒りはわかず、深い悲しみだけが体中を染み渡っている。
 目の前のリザモンドは悲劇のヒロインのように悲しそうな顔をして、しかしその奥には満足を隠している。ラスはそれを読み取り、全て嘘だったことをようやく理解する。アルバのために高級な服も宝石もみんな売ってしまい、今は質素なシャツしかもっていない。ここには、その中でもいっとう綺麗なものを着てきた。靴だってそうだ。ピアスだって大切な思い出を身に着けて、抱かれる準備だってしてきたのに……。ラスは自分があまりに滑稽で惨めなのかをひしひしと感じ取り、うつむく。リザモンドの口角が上がった。
「……アルバと話してくる」
 不意に、ラスがふらりと歩き出す。リザモンドが止めようとするが、乱暴にそれを振り払った。その勢いでリザモンドが転び、身重の彼女になんてことをとメイドたちが悲鳴を上げた。慌てて駆けつけ、ラスを止めようとする護衛に、「父さんに言いつけるよ」と脅して一人でアルバの元へと向かう。もう、何もかもどうでもいい。途中で廊下の花瓶の手入れをしていた使用人を捕まえ、使用人が腰に提げていた作業用のナイフを取り上げる。使用人が拒もうとすると、ラスは「婿養子一人死ぬのと、家ごと潰されるの、どっちがいい?」と薄ら笑う。
 アルバは自室で眠っていた。ラスは父親の名前を出して、無理やりに人払いをする。二人きりになると、鞄からスタンガンを出して背中に隠し、ナイフはベッドのそばに置いて、アルバの名前を呼んだ。
 アルバは目を覚まし、ベッドサイドにラスが立っていることに気づくと、これは夢かと目をこする。ラスは両手を背中に隠し、彼に微笑んで見せた。
「……何しに来たんだ!」
 これが夢ではないことがわかると、アルバは激昂してベッドを飛び降りる。ラスの置いたナイフに気がつくと、バッとそれを握った。刃先をラスに向け、肩で荒く呼吸をして彼を睨みつける。
「もうやめよう? 私たちは救われるよ」
 ラスは唇に笑みを浮かべ、相対したアルバに小首を傾げて見せる。アルバは更に憤怒した。
「黙れ! この因縁で何も失っていないおまえにはわからない!」
「君を失ったよ、アルバ」
 怒鳴るアルバに、ラスが悲しげにつぶやく。ハハッと、アルバの口から乾いた笑い声が漏れた。
「よくもそんなことが言えるな。今ここで殺してやろうか?」
 嘲りの笑みを見せ、アルバはナイフを握る手に力を込めた。ナイフの刃先は震えている。
 アルバが切りつけようと思うよりも先に、ラスは突然、アルバに飛びついた。アルバの首元に顔をうずめて、彼の体を強く強く抱きしめる。
「離せ! 気持ち悪い、お前を愛してなんか──」
 アルバの罵声は、ラスが彼の背中に押し付けたスタンガンの一撃で途切れる。感電し、アルバは意識を失った。彼の手からナイフが滑り、カランと音を立てて床に落ちる。ラスは彼を抱きとめたまま、しばらくの間そのぬくもりを味わう。やがて気が済むと、アルバをベッドに仰向けに寝かせた。
「愛しているよ。誰よりも、私が一番君を想っている」
 そうつぶやき、床に落ちたナイフを拾い上げる。一瞬、躊躇をして、しかしラスはナイフをアルバの胸に振り下ろした。突き刺したナイフを引き抜くと血が吹き出て、ラスは涙が止まらなくなる。鼻水を垂らして泣きながら、何度もアルバにナイフを突き立てた。何度も何度もめった刺しにして、ようやく手を止めると返り血でぐっしょり濡れた手で自分の鼻を拭う。
「一緒に行くからね。もう君を一人にしないよ」
 そう言い、ラスは涙と血でぐしゃぐしゃな顔に笑みを浮かべる。そして、アルバを刺したナイフで自分の腹を突き刺した。



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