リーネリア様は生きる意味と死んだ理由を知りたい

暗い灯り

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第14章 光の泉と再会

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ノクスの塔、深層のさらに奥。
ミズキに導かれて進むと、そこには静謐な光の泉が広がっていた。澄んだ水面のように揺れる光が、絶え間なく立ち昇り、淡い輝きを放っている。

「……これが、記憶?」
リーネリアは思わず息を呑んだ。

「うん。触れればわかるよ。ただし……」
ミズキは真剣な表情でリーネリアを見つめた。
「一度触れたら、最後まで見届けなきゃいけない。途中でやめることはできないの」

リーネリアはごくりと喉を鳴らす。
胸の奥がざわめいていた。だが、そのざわめきは恐怖だけでなく、強い衝動を伴っている。
――知りたい。自分が、どこから来たのかを。

「……わかった」

そっと、リーネリアは光に手を伸ばした。

その瞬間、世界が一変した。
視界が反転し、無数の景色が流れ込み、心臓を締めつけるような重圧が襲う。

――そして。

………。

光がふっと消えた時、リーネリアは再び泉の前に立っていた。

ほんの一瞬。
ミズキの目には、ただ彼女が光に触れて、すぐに手を引いたようにしか見えなかった。だが――。

「……はぁ、はぁ……っ……」
リーネリアは荒い息を吐き、汗で額を濡らし、膝が崩れそうになるのを必死で堪えていた。

「リーネリア!」
慌てて支えるミズキ。その瞳を見て、息を呑む。

――子供のように怯えていた瞳が、いつの間にか深い影と静けさを帯びている。
それは、長い歳月を生きた者の目だった。

「……何十年も……生きたみたい……」
リーネリアは震える声で呟く。

ミズキはそっと頷いた。
「そう。外の時間は一瞬。でも、精神は全部を生きるの。」

リーネリアは言葉を失った。
理解を超える感覚に戸惑いながらも、確かに“自分が変わってしまった”ことを感じていた。

「リーネリア。一度、外に出よう。私、マルヴァに報告する仕事があるの。一緒に行きましょう」

放心するリーネリアは小さく頷いた。

ノクスの外に出る。そこは何も変わらない美しい森に包まれた場所だった。

「おーい!」
声をかけてきたのは、ルアンとイサリだった。


「あら、今日は笛は持ってないのか?」

「持ってない」ルアンはそっけなく答えた。

リーネリアが首をかしげると、ミズキは小さく笑った。
「まあ、昔ちょっと色々あったの。……それよりリーネリアに用があるんでしょう?」

リーネリアはルアンとイサリから、ファルマスというマルヴァの商人がここへ来て、招待状を預かったという話を聞いた。

「ファルマス様はマルヴァの大商人で、街では英雄よ。孤高の女商人で、女性の憧れなの」

リーネリアはその言葉を聞いて、思わず胸の奥が高鳴るのを感じた。
――英雄で、憧れられる存在。どんな人なのだろう。なぜ私に…

「変わり者の誘いだ。ゆっくり決めるといい」ルアンは言った。

リーネリアは招待状のこととは関係なくミズキとマルヴァに行くことをイサリとルアンに伝えた。

リーネリアは精緻な細工のある招待状を受け取った。

その夜、旅立ちの支度のためにミズキはいったん離れた。
リーネリアも自分の荷をまとめ終え、少しの余裕があったので、森の中を散歩することにした。

リーネリアは森の奥、小さな集落を歩いていた。鳥の声と子どもたちの笑い声が混じり合う、穏やかな午後。

ふと見えた広場で、エルフの子どもたちと何かを蹴って遊ぶ大人がいた。
長い銀髪をなびかせ、袖をまくって泥まみれで笑っている。

――スィリナだった。

「ったく、そっちじゃねぇ! 球は足で蹴るっつってんだろ!」
「スィリナ様、すごい跳び方!」
「へっ、りゃ!」

その様子に呆気にとられていたリーネリアを、スィリナが気づいて手招きした。
「おーい、記録オタク。お前もこっち来いよ」

リーネリアが歩み寄ると、スィリナは笑いを収めて静かに立ち上がった。
そして、柔らかく語りかけた。

「……前の世界で、お前はなんて名だった?」

リーネリアは少し驚いたように答えた。
「……リナ」

スィリナはにやりと笑う。
「リナ。いい名だ。あたしと似てる。響きも、雰囲気も。……でも、今は“リーネリア”なんだろ?」
「……はい」

スィリナはそっと、リーネリアの手を取った。
そして両手で、ゆっくりと包み込むように握った。泥だらけの手。
なぜか安心する声。

「いいか、リーネリア。師を見つけろ。心から尊敬できて、会うと胸の奥があったかくなる奴を。そういう存在がいないと、お前は、自分の心を置く場所がわからなくなる」

その言葉が、まるで鐘のように胸に響いた。
スィリナの手のひらは、あたたかかった。確かに“今ここにある”と感じさせてくれる温度だった。

「……そのぬくもりを、忘れるなよ」

――あのとき、泣きそうな私にエルダは言ってくれた。
私、あなたと友達になりたいわ。
私のことをちゃんと名前で呼んでくれた。一緒に笑って、怒って、励ましてくれた。

「……会いたいな」
ポツリと、リーネリアがこぼした。

気づけば、頬にひとすじ、涙が伝っていた。
スィリナはその涙を拭わずに、そっと背を撫でた。

「……エルダ。いい子じゃないか……」

驚くリーネリアが問いかけようとした瞬間、スィリナは人差し指でリーネリアの唇をそっと押さえた。
「しーっ……」

にやりと笑ってから、スィリナは真剣な眼差しに変わる。

「いい女になるには、まずいい友達を思い出すことだ。忘れるなよ。それが、あんたの道しるべだ」

空は青く、木々の間から光がこぼれていた。
風が吹いて、子どもたちの声が遠くで響いた。

リーネリアはその場で静かに目を閉じ、もう一度、エルダの笑顔を思い出していた。

――そして、イサリ、ルアン、ミズキ、リーネリアの四人は、マルヴァへと旅立った。
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