リーネリア様は生きる意味と死んだ理由を知りたい

暗い灯り

文字の大きさ
6 / 14

第六章 灰と光の狭間で

しおりを挟む
 第六章

 第六章:灰と光の狭間で

「……ここまでだね」

イサリは森の木漏れ日の中で立ち止まり、振り返った。淡い陽光が彼女の銀白の髪を照らし、まるで霧の中に立つ精霊のようだった。

「私はノクスに戻る。役目があるの」

リーネリアは思わず問いかけた。「また、会えるの?」

イサリは微笑んで首を傾げる。

「森を抜けて、ノクスに来て。……もし、本当に会いたいと思ったら」

「ノクス……?」

「私たちは“選ばれた者”しか近づけない場所だと言われてきた。でも、あなたはきっと辿り着ける」

そう言って、イサリはローブの内ポケットから小さな銀のイヤリングを取り出した。

「これ、片方だけ。お守りとして持ってて」
「……え?」
「いつか、あなたのことを思い出す時に、きっと役に立つ気がするから。いつ来るかはわからないけど——そういう予感って、大事だと思うの」

リーネリアは驚きつつも、それを受け取った。手のひらに乗せると、かすかに温もりがあり、まるで、言葉にできない何かを込められたような気がした。

「ありがとう……大切にするね」

少し離れた木陰で、ルアンがそのやりとりを静かに見つめていた。視線は一瞬だけイヤリングに向いたが、何も言わず、そのままそっと目を逸らした。

 ⸻

マルヴァの町は、思っていたよりも穏やかだった。リーネリアは石畳の広場を抜け、町の中央にある図書館を訪れた。

そこには、**かつてフェンの書棚にあった本の“原本”**が並び、彼女の目は飢えるように文字を追っていた。

『ゴブリン進化と魔法言語形成の可能性』
『エルフェルの樹と記憶の還元理論』
『ノクス塔調査報告(神歴1332年版)』

それは、歴史ではなく“記録”だった。
人々の解釈が混ざる前の、乾いた事実。

(エルフは死なない。だけど……消える)

ページに描かれた図と、旅の中で見たイサリの瞳が重なった。

(ゴブリンは、増える。そして忘れられる)

何かが、胸の奥でつながった。

 ⸻

その晩、宿の灯の下で、ルアンと食卓を囲んでいた。

「あんた達もノクスが目当てかい?」と店主が皿を並べながら話し出す。

「けっこう旅人が寄るんですよ。商人も、ちらほらと」

リーネリアは飲みかけた水を止めた。「ノクスって、近いんですか?」

「近いっちゃ近いが、あそこは……エルフの森の向こう。普通の人間が入れる場所じゃないって聞きますよ」

ルアンは黙って食事を続けていた。

「お客さんはエルフかと思ったが、違いますよね?」

店主の声に、ルアンは静かに答えた。

「違います」

その声音があまりに即答で、会話の流れが少しだけ止まった。

店主は笑って「いやーははは、あんまり男前だからついね」と笑って下がっていった。

食器の音だけが、静かに響く。

「……ルアンさん」
リーネリアはこっそり尋ねた。

「エルフってこと、隠した方がいいの?」

ルアンはふと手を止めた。その顔に浮かんだのは、ほんの一瞬の影だった。

「……リーネリアさんは、歴史の授業で何を学びましたか?」

「エルフは神の民。ノクスの塔を守り、世界を観察する種族。誰からも尊敬され、触れられない存在——」

「ええ。教科書はそう書いています。けれど、現実は少し違う」

彼の瞳がランプの火に照らされ、わずかに揺れた。

「人間の一部は、エルフを“理解できないもの”として恐れてきました。だから、彼らは理解しようとせずに……所有しようとした」

リーネリアの息が詰まった。

「誘拐、隔離、解剖。反神派の中には、“神の証”を奪いたいと願う者もいる。それが彼らの“証明”になるから」

「……そんなの、信じたくない」

「でも、あなたは旅をしてきた。きっと、この先でそれを“見てしまう”。そのとき、信じるかどうかは……あなた次第です」

ルアンは再び食事に戻った。その背に、見えない何かを背負っているように見えた。

 ⸻

その夜、宿の裏路地にて。

黒衣の男が、静かに窓辺を見上げていた。

「リーネリア……フェン…」

袖口から、細く光る毒針がこぼれた。

「セレスタ様の命令は、絶対だ。“過去を変えようとする者”は、排除する」

夜風がカーテンを揺らした。

気づかぬまま、リーネリアは小さく寝息を立てていた。

 ⸻
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

いつか彼女を手に入れる日まで〜after story〜

月山 歩
恋愛
幼い頃から相思相愛の婚約者がいる私は、医師で侯爵の父が、令嬢に毒を盛ったと疑われて、捕らえられたことから、婚約者と結婚できないかもしれない危機に直面する。私はどうなってしまうの? 「いつかあなたを手に入れる日まで」のその後のお話です。単独でもわかる内容になっていますが、できればそちらから読んでいただけると、より理解していただけると思います。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

醜悪令息レオンの婚約

オータム
ファンタジー
醜悪な外見ゆえに誰からも恐れられ、避けられてきたレオン。 ある日、彼は自分が前世で遊んでいたシミュレーションRPGの世界に転生しており、 しかも“破滅が確定している悪役令嬢の弟”として生きていることに気付く。 このままでは、姉が理不尽な運命に呑まれてしまう。 怪しまれ、言葉を信じてもらえなくとも、レオンはただ一人、未来を変えるために立ち上がる――。 ※「小説家になろう」「カクヨム」にも投稿しています。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...