リーネリア様は生きる意味と死んだ理由を知りたい

暗い灯り

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第十章 ノクスの塔の前で

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 エルフの森・ノクスの塔

陽の光が木漏れ日となり、白い石畳に複雑な葉の影を落としていた。鳥のさえずりすらも遠く、塔の中庭には沈黙がよく似合っていた。

イサリが静かに背を向けて佇んでいると、ルアンが現れた。

「……リーネリアは、今、ノクスの記録室で、自分と向き合っているわ。きっと、あの子なりに“世界”とも。」

「……そうか。君が、そうしてくれたのか。」

ルアンの声は、風に紛れるほどかすかだったが、その奥に安堵と悔いが混ざっていた。

「ありがとう、イサリ。僕が……あの夜、彼女を助けられなかったのは、ファルマスの魔力のせいだ。あれは、国家を脅かすレベルの脅威だった。通常の観察任務を放棄してでも監視すべき存在だった」

「ファルマスと会ったのね。」とイサリは言った。

ルアンは黙って頷いた。
 
「あなたは今、何を背負っているの?」

ルアンは肩を落とし、石のベンチに腰を下ろした。

「……リーネリアの心は、思っている以上に不安定だ。君は知っているか? あの子の魂は、この世界のものではない。フェンによって、別の世界——おそらく現代の人間社会から、呼ばれた魂だ」

「別の……?」

「その魂は、偶然にもゴブリンとして転生した。だが言葉を覚え、知識を得て、人間のような姿へと変容した。変化は苦痛の連続だっただろう。けれど、あの子は受け入れた。必死に。——ただ、“何のために生きるのか”をまだ、見つけられていない」

イサリの瞳が、少しだけ揺れた。

「そう……」

「前の記憶が断片的に現れるとき、悩み揺れている」

「……だからこそ、私が話した。あの子に、森を、人を、痛みを見せた」

ルアンは頷いた。

「君の行動には、救いがあった。僕には、彼女を助ける資格はなかった。」

その言葉にイサリは軽く首を振る。

「じゃあ教えて。フェンは何をしようとしているの?」

ルアンの目が一瞬、鋭く光る。そしてゆっくりと問う。

「……ノクスでフェンの妻の記録があったのを見たか?」

 
イサリは少しだけ目を細め、静かに答えた。

「……見た。すべてが断片だった。魂の構造、意識の転移、クローン生成と同調……言葉だけが、並んでいた」

「それが鍵だ。フェンは、自分の魂を“器”に移すことに、すでに何度も挑戦している。人間の亡骸に、自我を移植しようとした形跡もあった。
 ——つまり、彼はまだ“完成していない”。それでもなお、リーネリアという魂に興味を持ち続けている。

なぜか? その理由は……彼女が“器として完全だから”だ」

イサリは息を呑んだ。だが声にはせず、ただ遠くを見た。

「……世界を欺くには、神を欺くには、魂の境界を超えるしかない。フェンは、きっとそれを——」

ルアンはその続きを語らず、立ち上がった。

「イサリ、私はここで独り言を言っていた。そうだろ?」

「そうね.....」

風がまた、中庭を撫でた。二人の間に、言葉よりも深い沈黙が流れていた。
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