転生者殺しの眠り姫

星屑ぽんぽん

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15話 月の輝き

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『閃光のなんたら』という冒険者から詳しいことを聞いた私達は、情報量代わりに金貨1枚を渡す。


「えっ、これってガリオン金貨じゃない! これ1枚で白金貨100枚分の価値があるわよ!?」

 ガリオン金貨? ふむ……どこかで聞いたような通貨名だ。
 今までこの辺で流通している銀貨や銅貨しか使う機会がなかったから、失念していた。

 かなり貴重な情報を『閃光』さんはなぜか喋ってくれるものだから、これぐらいは渡してもいいと思っての報酬だったけど、どうやらこの時代では……って、この金貨、やばいな……魔法を無力化させる【金冠の魔消石マジカ・マドール】、使われてない?

 この特殊かつ希少性の高い金属が使われている金貨と言えば……ガリオン金貨だ!
 古来、征服王で名を馳せたアレキサンドラの治世で作られた金貨で、彼が統治下に治めた領土は広大。ならば貨幣も統一しようと考えて金貨を鋳造したはいいものの、当時は魔法で金貨を偽造する輩が横行したらしい。それに対抗して作られたんだっけ……こんなものがアストラ歴3024年に発掘されたら国宝級ものだ。

 そんな金貨がニコラ・テスラからもらった小袋にぎっしりと詰め込まれている……。


「ガリオン金貨って言えば、不純物が含まれてない【金冠の魔消石マジカ・マドール】がふんだんに使われてるって……私も古代の遺跡でしか見た事ないのに……」

 閃光のなんたらさん。
 驚いてるところ悪いのだけれど、その価値を知っているのならば正直返してほしい。

 素直に自分から返してって言うべき?
 いやいやいや……エリザベスやジャンヌが後ろで控えている今、私がそんなケチくさいことをしたら……君主として失望されないだろうか?
 ここは潔く、太っ腹に気にせずガリオン金貨をあげちゃうべきか? 小袋にはまだ数十枚は入ってるわけだし。いや、でもこれは超文化遺産の一つでもある。ぜひ一枚でも、残しておくのが歴史学者として今するべき事なのでは? 文化の継承は歴史学者としてッッ!


「こんなものを気軽にほいって渡せちゃう貴方達って……一体何者なの?」

 閃光のなんたらさんがとどめを刺してくる。
 これでは引くに引けない。
 なので私は泣く泣く……顔はあくまで凶悪さを意識して笑いかける。

 
「それも含めて口止め料ですよ」

 私達が質問したことも、あなたが話した内容も、私達の存在も、何もかも一切をなかったことにしろと。
 これだけの莫大な財産を支払える私達の要求を断わりでもしたら……あなたは一体どうなってしまうのでしょうねぇ。
 そんな脅しを込めた台詞に閃光のなんたらさんは『ヒクッ』と喉を鳴らして縮こまってしまう。

 きっと彼女は冒険者ギルドの中でも大した人物ではないのだろう。それでも少し話しただけで、わかるぐらいに人柄がとてもいい。きっと絡んできたモヒカン男を一喝で退散させたのは、彼女の仁徳が成せる技なのかもしれない。
 そんな事を考えながら閃光さんとはお別れをし、私達はミルコ一団と待ち合わせている宿屋へ向かった。





 アルバート・アインスタイン。
 未来の奴隷王にして、現【ケネディア黒宝都市群シュバルス】の都市長ロドリコ・アインスタイン黒宝卿の1人息子。黒宝卿が治めていた【南の黒鉄都市】は三カ月前に、アインシュタイン新総統率いる軍が攻め立て、今は【白輝主義国家ヴァイストヘイティス】の支配下に入っている。

 おそらくは実効支配後、元の権力者であるロドリコ黒宝卿を従順にさせるための人質となったのが子息のアルバートなのだろう。

【ケネディア黒宝都市群シュバルス】は七つあるうちの大都市を既に三つ、アインシュタイン新総統が指揮する軍によって落とされている。今は四つ目の都市を目指し、3万の軍が【西の黒城都市】に進軍中だそうだ。


「ミルコさん。アルバート君の居場所がわかりましたよ」
「なんと……!」

 約束していた宿屋で合流すれば、さっそく互いに仕入れた情報交換会を行う。
 私の報告を聞いて、初老にさしかかった人族の男は泣きながらお礼を述べてきた。余程、アルバート君のことが心配だったのか『坊ちゃまが、坊ちゃまが生きておられる』と連呼しながら部下の騎士たちと何度も喜びを分かち合っていた。

「お喜びのところ、申し訳ないのですが。アルバート君はかなり劣悪な環境下で過ごしているようです」
「なに!? やはり噂は本当だったのですね……」

「奴隷第二地区で強制労働に従事させられているとか」
「許せぬ……まだ十歳の坊ちゃまをそんな過酷な環境下に置くなど、到底許せぬ所業だ! アインシュタインという男は悪魔か何かなのか?」

 ミルコさんの気持ちはわかるけど、声をあまり荒げてほしくはない。宿屋の中の密室とはいえ、どこで誰が聞き耳を立てているのかわかったものじゃない。


「ミルコさん、落ち着いてください」
「あぁ……すまなかった……」

 
 それから私達は作戦をじっくり練った。
 本当は私とエリザベス、ジャンヌの3人だけでも救出はできそうな気がしたけど……ミルコという現代に生きる権力者と共闘し、恩を売っておく方が得策だ。後々にアルバート君の近況を把握するためにも、彼とは長い付き合いになる気がする。
 
「奴隷第二地区は大半が地下施設となっているそうです。地下に繋がる見張り砦への襲撃をみなさんにはお願いしたいと」
「では我々は今夜、外壁の見張りを倒して陽動をかけると」

「はい。事前に私達3人が奴隷第二地区に潜入しますので、ミルコさん達の合図を機にアルバート君を救出します」


 彼らは10人にも満たない少数。奴隷第二地区の内部深くへと入ってしまえば、全滅する恐れがある。ならば外部で騒ぎを起こしてもらい、頃合いを見て逃走。また襲撃、逃走の小競り合いを繰り返してもらった方がいい。


「しかし……夜間はB級冒険者が3人も監督をしているのだろう?」
「それに加えて見張りの兵士たちが中に30人もいるなんて……到底突破は不可能じゃ……」
「地下施設の広さはかなりのものなんだろう? そんな簡単にアルバート様を見つけられるのか?」

 騎士たちが不安な顔をし出す。
 しかしそこは冒険者タグの見せどころ。

「大丈夫ですよ。私達もB級冒険者ですから」
「しかし……相手も同じく……」

 私が天下の宝刀、B級冒険者タグを見せても彼らは納得がいってなさそうだった。唯一、肯定的だったのはミルコさんだけで、『みな、ロザリオ殿たちなら大丈夫じゃ』と騎士たちをなだめていた。


「みなも見たであろう? 50騎近くの精強な追手を一瞬にして無力化した腕前を。ここはエリザベス殿とジャンヌ殿、そしてロザリオ殿に坊ちゃまの命運を託そうではないか。おそらく、御三方はB級冒険者以上の力をお持ちだ」

『本音を言えば自らの手でお救いしたのですが……』とミルコは悔しそうにつぶやく。


「しかし、わしらが突入するよりもロザリオ殿が行った方が……可能性は高いじゃろうて。みなもわかっているのだろう?」
「は、はい……」

「ロザリオ殿……我が命、坊ちゃまのことを託しましたぞ」
「ええ、もちろんです」

 それからこの救出作戦にあたり、報酬額の交渉に入った。
 正直、こちらはこちらで歴史修正をするために動いているので報酬などいらなかったのだけど、冒険者として報酬をもらわないのは逆に何か裏があると勘ぐられてしまう。
 なのでそちらの言い値で構わないと伝えておくに留めた。





「おかしい……」

 夜も更け、部屋にエリザベスとジャンヌ、そして私の三人のみがいる。
 あと1時間もしたら、奴隷第二地区へと潜入作戦を始める。
 その準備を丹念に確認していたのだけど、一つだけ気がかりな事があった。

「ロザリオ様、どうかされましたか?」

 相変わらずエリザベスは様付けがなおらない。

「何か御不安になることでもございましたか? ロザリオ様」

 ジャンヌも同じだ。

 まぁ突入間近のこのタイミングでそういった些細な事を注意する気にもならなかった私は、素直に自分が感じている疑問点をぶつける。

 
「ここが敵の本拠地、首都ワシントであるのに……不快な匂いが・・・・・・一つしか・・・・しない」

【紅貴なる地城説】にいた時に感じ取った転生者・転移者の匂いは、数十はくだらなかった。方角はこちらの地域で合っていたはず。しかし、いざ【白輝主義国家ヴァイストヘイティス】の領域に入ってみれば……不快な匂いはバラバラに点在していた。

白輝主義国家ヴァイストくみしている転生者のほぼ全員が、アインシュタイン新総督の軍と一緒に従軍している……?」

 いや……方角はバラバラであるし、それはありえない……か。
 しかし、首都に1人だけしか転生者を残していない、というのも不自然だ。

「わかっているのは、ここに1人……転生者・転移者がいるって事だけか……」


 窓より差し込む月明かりに誘われ、私は夜空へと視線を移す。
 
「今宵も月が輝いている……夜は我らの領域だ」

 何としてでも転生者は殺す。その前にアルバート救出が最優先事項だけど……転生者を見つけ次第、全力でかかれと目だけで2人に語る。

「狩りの時間だ。しかし、油断はするでないぞ」

 天を睨み、まだ見ぬ転生者を幻視しながら君臨者らしく気合いを入れる。
 臣下たちにも私の気持ちが伝わればと思い、言葉の一つ一つに力を込めたつもりだ。

「あぁロザリオ様……なんとお美しい」
「……あぁ、我がしゅよ。なんと気高きお姿でしょうか」
 
 しかし2人の反応は私の予想の斜め上を行き、なぜだか褒め殺しである。
 急に美しいなんて言い出す2人に私は思わず照れてしまう。


「2人だって、とっても綺麗だし可愛いッッ、である……コホン」

 本音がもろに出てしまった私の返しに、エリザベスとジャンヌ、双方の顔には可憐な笑顔が咲いた。

「まぁ! 嬉しいですわ!」
「ふふふ……主に褒められました」

 まるでこれからお花畑に散歩に行くかのような、陽気な空気が流れだす。
 これから死闘になるかもしれないのに、なんとも緊張感のない夜だった。
 

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