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17話 女王の戯れ
しおりを挟む地下での炎は危険。
奴隷たちが窒息する恐れもありますし、何より救出対象のアルバートさんにまで炎が広がってしまったら危ないですもの。
そう判断した私エリザベスは、兵たちへの喉元に手刀を閃かせ、命を順調に奪ってゆきますわ。人族とはやはり脆く儚い生き物なのですね。
「おっと。昼間のねーちゃんじゃねえか」
次の得物へと手刀を振りかざせば、予想外な事に避けられてしまいましたわ。
その男はでっぷりとだらしなく突き出た小腹をゆさゆさと自らの手で叩きながら、私を下卑た目で見つめてきます。
「昼間のべっぴんさんがどうしてこんな所にいる? まさか上の騒ぎもねーちゃんたちの仕業か?」
「貴方のようなゴミ虫など、記憶にございませんわ」
人族は人族、蟻の一匹をそれぞれ把握できないように、私は彼の事を認識すらしていません。
「ははーん? あれだけ脅されてたのによぉ、あのフードのガキはいないのかよ?」
……フードのガキ?
あら。
思い出しましたわ。
私、不覚にも愛するロザリア様に無礼を働いたゴミ虫を忘れてしまうなんて……この不敬をどうかお許しください。
「それにしてもさっきの身軽な動き、ねーちゃんはアサシン系統の冒険者だったのか? ま、いいや。どのみちB級冒険者であるこのルーカスおじさんが、ねーちゃんをぐちゃぐちゃに犯してやるからなぁ。楽しみにしてなぁ!」
「その汚らわしい口を閉じるべきだわ」
「ねーちゃんよぉ~、どこまで粋がってるんだ? その綺麗な顔がいつまで保てるか見物だなぁ」
そう言ってゴミ虫はだらしない体型にあるまじきスピードで跳躍してきましたわ。
しかし、それも人族の範疇を出てない程度のもの。
所詮はゴミ虫なだけあって、私の目には虫が飛ぶような遅さで接近してきます。
「――我が手に宿れ、【火拳】!」
何をするかと思えば第一界級魔法ですか。
詠唱短縮は評価できますわね。それに、よほど炎を纏った拳を使い慣れているのでしょうか、ゴミ虫はスムーズな動きで私の顔に狙いをつけてはその腕を振り抜きましたわ。
もちろん、止まって見える遅さでしたので、身体を少し横に傾けて避けておきます。ゴミ虫が勢いあまって打ち抜き、爆発させてしまった壁には炎が燃え広がり始めましたので……ゴミ虫の横をすり抜けるついでに、無詠唱でゴミ虫の炎に干渉しておきますわ。
静かになさいと。
「おう? 素早さだけはなかなかのもんじゃねーか。ねーちゃんよぉ」
ゴミ虫が何か喋っているようですが、私は周囲へと意識を油断なく張り巡らしますわ。
まだ転生者らしき人物は感じられませんわね……逃げ惑う奴隷たちの中に紛れている線は捨てきれませんので、警戒は怠れません。
「だんまりしちまって、どうした? ビビったのか? 俺があまりにも体術と魔法を組み合わせるのが早ええってよぉ?」
そういえばロザリア様は、このB級冒険者から有用な力があれば、吸血してよいと仰っていましたわね。
こんなゴミ虫に真新しい能力なんてあるのか甚だ疑問ですが、ロザリオ様が言うのであればじっくりと観察してゆきますわ。
「アサシンなら魔術師相手に一歩先を行けるって思ってたんだろうが、あてが外れて残念だったなぁ。俺はなぁ、格闘魔術師よ! そこらのチンケな魔術師どもと一緒にしたのが大間違いだってなぁ!」
オラオラオラァ! なんて下品な豚声のごとく荒い息を連続させながら殴りかかって来るゴミ虫。
あらあら……どうやら第三界級魔法【情熱の衣】を全身に纏わせて、だらしない肉体にムチを打ってまで醜い動きを披露してくるゴミ虫には嫌気がさしますわ……。
ですが、ゴミ虫にはゴミ虫なりの長所がございますわね。私と遭遇する前から、身体強化を施す【情熱の衣】を自身にかけていたとすると、人族の中では飛び抜けた魔力量ですわ。
「手も足も出ないか、ねーちゃん! わははは!」
他にも何か面白い芸当が出て来ないか揺さぶってみましょうか。
なので少しだけ、撫でてあげましょう。
人族は内臓が詰まっている箇所を破裂させると死に至ってしまうので、右肩へ軽く触れてあげます。
あぁ、ほんの数瞬の間でも、このような汚らわしい存在に手を置くなんて……私とした事が、つい怒りに任せて力を入れてしまいそうでしたわ。
優雅にふんわりと、ティーカップに優しく手を添えてあげるように――――
「ぐぁあッ!?」
あらあら……やっぱりゴミ虫の脆さでは、どこかへ行ってしまわれたわ。
『ゴシャッガラガラガラッ、グシャシャーッゴツンッ!』
大したことでもないのに、ああも騒々しいと下品の極みですわね。地下施設のありとあらゆる物を壊しながら、石コロが転がっていくようにして奥の方まで飛ばされてしまったゴミ団子は……あら、血みどろになりながら立ちましたわ。
「ゴホッ……ね、ねーちゃんは、生粋の格闘家らしいな……」
さすがゴミ虫ですわね。
私がそんな野蛮な戦いを得意とするなんて、両目をくり抜いて差し上げたくなるほどの盲目さ加減ですわ。
私は純魔術師でありますわよ。
第十血位以下の始祖の中では、肉弾戦は最弱でしょうね。
「……バカが。ちょっと肉弾戦に自信があるからって、魔術師を吹き飛ばし……ゴホッ……距離を空けちまうなんて素人同然じゃねえか」
ゴミ虫はボロボロになりながらも何か独り言を呟いているようですが、本命の転生者はまだ現れませんわね。他のところに出現している気配もございませんし……。
「お前がこっちに辿り着く前に、俺は魔法の詠唱を完成させてやる!」
あら……?
人族であるゴミ虫が、あの傷で魔法を行使できるのはいささか疑問ですわね?
集中力を増幅させる権能でもお持ちなのでしょうか?
ゴミ虫から魔力の流れを感じた私は、ほんのわずかにゴミ虫の方へと意識を向けます。なにやら長ったらしくもごちゃごちゃと詠唱を口ずさんでいたので、この際だから距離を一瞬にして詰めてさしあげようか迷ってしまいますわ。
あくびが出るほどの遅さ、詠唱短縮での3秒ほどでしょうか。
ようやく詠唱を終えたゴミ虫の掌から、『第四界級魔法』である【打ちよせる炎海の波】が放たれましたわ。
「はははー! バカみたいに近接戦を好むやつにはこれが一番だぜえええ! 手も足も出ないまま焼け死ねえええ!」
迫りくる火の手に溜息しか出ませんわね。
このような地下で炎は御法度ですわ。
ですので、私は無詠唱にて無力化してあげましょう。
ゴミ虫が放った魔法の二界上位、『絶界級魔法』である【炎神の許可章】なら、四界級以下の火属性魔法は、私の許可なくその炎を灯すことはできませんわ。
真っ赤に燃える炎が私の波動に触れれば、瞬く間に鎮火してゆきます。
「なんだと……? 今、何を……?」
この程度で驚いているとなると、やはりゴミ虫はゴミ虫なのでしょう。
ですがロザリオ様がじっくり戦えと仰ったのです。なればこそ、真新しい魔法が出てくるのか実験をしていましょうか。
「くっ、この!」
めげずにゴミ虫は必死になって詠唱を早口で結びましたわ。人族であの魔法制御力はなかなかに有能かもしれませんが……結局、発動してきたのは『第四界級魔法』である【十字の炎槍雨】でしたので落胆せざるをえません。
溜息を吹きかけるようにして、【炎神の許可章】で消してあげますわ。
「お前っ!? 格闘家の分際で、俺の魔法に何を……している……? くそくそくそおおお!」
それから何度もありきたりな魔法を、がむしゃらに放ってくるゴミ虫の姿は大変見苦しいですわ。できることなら、すぐさまこの戦いを終わりにしてさしあげたいのですが……まだ本命が釣れていませんので、しばらくはこの茶番にお付き合いしてあげますわ。
「どうして!? 俺の魔法が、ことごとく消える!? これは何だ!?」
この隙に転生者が襲ってきても万全を期すため、『王界級魔法』である【炎獄の四柱拷問】を即座に発動できるための『炎算』も仕掛けてありますわ。
「俺はこの街の頂点に近い、火属性魔術師だぞ!? 変なフードのガキにひっついてた女に負ける俺じゃねえええ!」
変なフード……?
あらあら、いい加減、飽きてきましたわね……。
このゴミ虫をかたづけるには、『第三界級魔法』あたりが妥当かしら。
「熱し、穿て、炎神の指よ――――【焔線の一針】」
あえて詠唱短縮で呟きますわ。なぜなら私が何の魔法を使っているのか、ゴミ虫に教えてあげるために。
そしてロザリア様を侮辱したゴミ虫へ、私の怒りを何度も全力で込めるために。
「……『焔線の一針』、『焔線の一針』」
合計三本の熱光線がゴミ虫へと瞬時に伸びていきますわね。
あぁ、この程度の罰では足りませんわ。
「なっ、第三界級魔法ごときッ! ぐぁッ!」
左肩を刺され、右手を焼き抜かれ、左ふとももを抉りましたわ。
あぁ、ゴミ虫の身体がビクビクと跳ねること跳ねること。
「……『焔線の一針』、『焔線の一針』、『焔線の一針』……」
「なんだ!? なぜっ詠唱はッ、あぢぃッ! ぎゃぁっ!」
「『焔線の一針』、『焔線の一針』、『焔線の一針』、『焔線の一針』、『焔線の一針』」
「連続でッ馬鹿なッ、ひぐぅうっ!」
ガクガク、ガクガクとよく奏でますこと。
熱線に貫かれては踊るその醜態さ、本当に面白い余興ですわね。
「た、たっ、たすけてッ……ぎゃっ、ひぃっ、こっ、もうっ、殺してッくでッ」
ゴミ虫の鳴き声が夜の地下室にこだまする。
あぁ、なんて風情のない音色かしら。
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