魔王討伐戦で亡国の女帝をナンパしたら、めちゃくちゃ重たく愛されている勇者の俺

蒼山りと

文字の大きさ
2 / 23

あやしい男に君の気持ちはわかる、と言われた

しおりを挟む
 古代帝国アリストラストの深部、魔王の玉座が鎮座する暗黒の間。俺とイリスは、血と汗にまみれながら、ついにその場所に辿り着いた。黒い霧が渦巻く玉座の前で、魔王シュベリートが人間の姿で俺たちを迎えた。黒髪に鋭い瞳、穏やかな微笑みを浮かべた彼は、まるで貴族のように優雅だった。

「よく来たね、勇者レン。そして聖女イリス。長い戦いだっただろう」

 その声は低く、どこか疲れた響きを帯びていた。剣先を下げず、叫んだ。

「お前が魔王か! 帝国を滅ぼし、エリルを追い詰めた張本人だな!」

 シュベリートは静かに首を振ると、玉座に腰を下ろした。その仕草はあまりにも自然で、極悪な敵には似合わない穏やかさがあった。

「張本人、か。確かに我々がこの帝国を壊した。だが、君たち人間が自ら壊し合う姿を見ていたのも、また事実だよ」


 イリスが一歩前に出て、制するように手を上げた。

「何!? 私たちが分裂したからって、魔族が攻めてきた言い訳にはならないわ!」

 シュベリートは目を細め、二人の顔をじっと見つめた。そして、ゆっくりと立ち上がり、こう呟いた。


「やっと少しだけ君たちを理解できたようだ」

 剣を握る手に力を込める。こいつは何が言いたい?

「理解? 何を言ってるんだ?」

 魔王は小さく笑い、両手を広げてみせた。その姿は、確かに人間そのものだった。

「魔族はね、理解できた魔物に擬態できるんだ。かつては君たちを恐ろしい魔物としか見ていなかった。だが、この300年、君たちを見てきた。争い、裏切り、憎しみ……そして、時に見せる絆や優しさ。それが分かったから、いまも擬態している。人間という魔物にね」

 その言葉に、俺とイリスは一瞬言葉を失った。シュベリートの瞳には、憎悪でも嘲笑でもなく、深い思索の光があった。

 イリスが震える声で反論した。


「人間を魔物呼ばわりするなんて……! 私たちはただ生きようとしてるだけよ!」

 シュベリートは頷き、静かに答えた。

「そうだね。生きようとするその姿が、時に恐ろしく、時に美しい。だからこそ、私は君たちと戦うのをやめようと思ったんだ。レン、君がエリルにあのペンダントを渡したようにね」


「お前、あれを見ていたのか……?」

シュベリートは玉座の背に手を置き、遠くを見るような目で言った。

「そうだよ、レン。あの瞬間を見ていた。あの女帝――エリルにペンダントを渡し、『必ず助けに行く』と約束した君をね。あの優しさが、私に人間を少しだけ理解するきっかけを与えたんだ」


俺は剣を握る手に汗を感じ、声を荒げた。


「見ていたなら、なぜ止めなかった! エリルは今頃死んでいるかもしれない! お前の軍が彼女を追い詰めたせいで!」


シュベリートの微笑みが一瞬消え、深い影がその顔をよぎった。


「止められなかったさ。君たちの裏切りと分裂が、彼女を孤立させた。私はただ、その結果を見届けただけだ。だが、あの約束は私に問いを残した。人間は本当に魔物なのか、それとも何か別の存在なのか、とね」


イリスが一歩進み出て、癒しの光を手に宿したまま、鋭く問いかけた。

「それで? 私たちを理解した気になって、人間の姿に擬態してるっていうの? それが魔族の答えなの?」

シュベリートは静かに頷き、彼女を見つめた。

「そうだよ、聖女。この姿は、私が君たちに近づいた証だ。魔族は理解したものに擬態する。かつては獣や怪物にしかなれなかった。だが、今はこうして人間の姿で君たちと話している。それが、私の答えだ」

レンは剣を下ろし、混乱と怒りが混じった声で呟いた。

「人間を魔物って呼んでたくせに……今さら何だよ、その言葉は。偽善か? 結局、エリルを救えないんだろ? 俺の気持ちを理解しているのか!」

シュベリートは目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。そして、再び俺を見据えて言った。

「偽善ではないよ、レン。あの時、私はまだ君たちを理解していなかった。エリルの件は、私にとっても重い教訓だった。だからこそ、今ここで君たちに提案するんだ。戦いをやめないか?」

イリスが驚きに目を見開き、レンも一瞬言葉を失った。

シュベリートは続けた。

「この闘いの間、私は君たちをずっと見てきた。憎しみも、優しさも、裏切りも、絆も。その全てが、人間という魔物を形作っている。もうこれ以上、理解のために血を流す必要はないだろう?」

 暗黒の間は静寂に包まれた。俺の剣を握りしめる手は震え、イリスが手から放つ聖なる光がわずかに揺れた。二人は互いの顔を見合わせ、魔王の言葉をどう受け止めるべきか、答えを見つけられずにいた
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

処理中です...