魔王討伐戦で亡国の女帝をナンパしたら、めちゃくちゃ重たく愛されている勇者の俺

蒼山りと

文字の大きさ
8 / 23

勇者を騙る詐欺師

しおりを挟む
帝国領への街道。王国の辺境でもある。
馬車の窓から見える荒々しい岩肌や、遠くに連なる山脈に目を奪われていると、エリルが俺の腕を軽く叩いた。

「ねえ、アルさん、あれ……」

彼女の視線を追うと、街道沿いの広場に大勢の人だかりができているのが見えた。その中心で、一人の男が演説をしていた。馬車を少し停めさせると、彼の声が群衆の上に響き渡ってきた。

「みんな今は平和だと思っているよな?  でも勇者である俺は300年前からここにきた。理由は魔王が復活するからだ!」

俺は息を呑んだ。その男は俺と似ているな、と一瞬で思った。顔立ち、背丈、声の響きまで……まるで鏡に映った俺みたいだった。民衆は半信半疑の表情で彼を見つめている。でも、その男の言葉には不思議な説得力があり、徐々に人々の目が真剣なものに変わっていくのが分かった。俺は目を凝らして彼を見た。俺、本当に勇者なんだろうか。そんなわけないよな。俺はただの果樹園を世話する村人だろ……。

その男の傍らに立つ少女に、俺の視線が自然と引き寄せられた。黒い髪に、紺色のくりくりした瞳が印象的な少女で、エルにそっくりだった。白い祭服のような装いは、伝説の聖女イリスを模しているように見えた。彼女が誰なのかは誰も知らないようだったけど、エルに似ているせいで、俺はついつい見てしまう。

 彼女の黒髪、細い輪郭、静かな佇まい……エルと重なって、胸が締め付けられた。そして、その時――彼女と目が合った。一瞬だけだったが、彼女の瞳が俺を捉え、鋭く凝視してきた。その視線があまりにも強く、まるで俺の奥底を見透かすようで、俺はつらかった。何だ、この感覚は……。彼女から目を逸らせなかった。まるでエルに怒られているような気持ちがしてしまう。俺の妹であるエルへの罪悪感が、そう思わせているのかもしれない。

「伝承の……勇者レンそっくりですね」

エリルの声が、ほんの一瞬だけ低く冷たくなった。横目で彼女を見ると、その瞳が鋭く光っているのが見えた。今まで見たことのない、冷酷な眼差しだ。王国一の歌姫らしい優雅さや無邪気さはそこになく、まるで別の人間のようだった。でも、次の瞬間、彼女は急に目を丸くして、明るい声で言った。

「ねぇ、アル! おもしろそうだから、馬車降りて演説聞いてみない?」

その無邪気な口調に、俺は一瞬戸惑った。さっきの冷たい視線が嘘みたいに、彼女は子供のようにはしゃいで俺の腕をつかんだ。俺は少し首をかしげた。

「あ、ああ……いいけど」

「やった! 早く早く!」

エリルが俺の手を引っ張って馬車を降りると、彼女は軽い足取りで群衆の近くまで歩いて行った。俺は少し遅れてついていきながら、彼女の後ろ姿を見ていた。さっきの冷酷な目は何だったんだろう。あの演説する男を見て、何か感じたのか? でも、今のエリルはただ楽しそうに笑っていて、疑う気も薄れてしまう。彼女の態度が少し雑になってる気がした。いつもより気楽で、投げやりな雰囲気さえある。でも、それが自然すぎて、俺には何が本当の彼女なのか分からない。

馬車から降りて近づくと、演説の声がさらに鮮明に聞こえてきた。あの男はまだ話し続けている。俺は改めて彼を見た。やっぱり俺と似ているな。俺、本当に勇者なんだろうか。そんなわけないよな。俺はただ果樹園の世話をしてるだけの村人だ。エリルが何度も「勇者レンの生まれ変わり」って言うけど、そんな大それた存在のはずないだろ……。でも、あの少女の視線が頭から離れなくて、胸がざわついた。

「演説あきちゃった。ねぇ、アル、お腹すいたー」

エリルが甘えるような声を出して、俺の肩に寄りかかってきた。随分とくだけてきたな。これが普段の彼女なのかもしれない。馬車の中で「ハッピーエンドだよ!」と無邪気に笑った時とは少し違う、気楽な雰囲気が漂ってる。でも、その声にはどこか軽い響きがあって、俺にはそれが彼女の本心なのか分からない。

「アル、聞いてる? お腹すいたってば」

エリルが俺の腕を軽く叩いて、ちょっとふてくされたように言った。俺は苦笑して答えた。

「ああ、悪い。なんか探すよ」

「やっと聞いてくれた! 早くしてよね」

彼女の声がさらに砕けて、まるで面倒くさそうにさえ感じた。俺は少し首をかしげたけど、エリルは群衆の方をチラッと見て、鼻歌でも歌うように呟いた。

「帝都、楽しみだなー。アルはどう?」

「まあ……楽しみだよ」

俺の返事に、エリルは小さく笑っただけだった。その笑顔に、どこか冷めたものが混じっている気がして、俺は目を逸らした。彼女の態度は雑だ。安心しきっている感じにも思えた。エリルの気楽な声にまた引き戻される。あのエルとそっくりだった少女の凝視が、頭から離れなかった。

食事を終えると再び馬車に乗り、帝都への旅を再開することにする。
エリルさん、食べっぷり、すごかったな。豪快というか、よほどお腹へっていたんだな。結構、実は雑な性格なのかもしれない。

いつしか、帝都アリストルの高い城壁が、遠くに見え始めていた。エリルの肩が俺に触れ、その温もりに少しだけ安心しながら、俺はまだ答えの見えない思いに沈んでいた。エリルの横顔をふと見ると彼女も俺の方をちらっと見た。
エリルは満面の笑顔でいう。

「眠くなっちゃった。少し寝るね?」

そういうとエリルは目をつむり、無防備に僕によりかかってきた。
そんな彼女がとても愛おしい。
彼女が目を覚ます頃、帝都アリストルに到着していることだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...