魔王討伐戦で亡国の女帝をナンパしたら、めちゃくちゃ重たく愛されている勇者の俺

蒼山りと

文字の大きさ
12 / 23

密偵の掟をやぶったエリル

しおりを挟む
「王国の密偵には、絶対の掟があります」

シュベリートの声が、突如として鋭さを帯びた。
「正体が露見した場合、その事実を知る者は......消さねばならない」

俺の背筋が凍る。エリルの手が、かすかに震えている。

「私は重要な相手国の大使ですから、例外でしょう」

シュベリートは静かに続ける。
「しかし、アルはどうでしょうか」

その言葉に、エリルの震えが強くなる。

「あなたは......アルを殺すのでしょうか。それとも......」

シュベリートの問いかけに、一瞬の沈黙が流れる。エリルの手が俺の手を強く握る。

「殺すわけないじゃないですか」

エリルの声は、意外なほど強かった。

「そうですか」

シュベリートの目が細まる。
「しかし、もともと彼はあなたの殺しのターゲットでしたよね?」

エリルは深いため息をつくと、俺の方を向いた。

「正直に話します。最初、私はアルさんのことを、ただのレンのそら似だと思っていました」

彼女の声に力が入る。
「もし本当に勇者レンなら......証拠が欲しいとも思います。それが本当なら、殺しはしませんが、私は彼を許せません」

エリルが俺の手を離し、シュベリートの方を向く。

「それは、私の芸名でお分かりにならないのですか?」

俺は少し驚いていた。自分が殺害対象だったなんて。でも......。

「俺は......エリルという名の女の子なら、殺されてもいい」

思わず口から出た言葉に、エリル自身が驚いたように振り返る。

「アル......?」

シュベリートが、満足げな表情を浮かべていた。まるでこの会話こそが、彼の本当の目的だったかのように。

「私は、エリルを信じるためにこの会話を続けていました」

シュベリートの声が柔らかくなる。
「そして確信が持てました。エリル殿は、信用できる」

いつしか、窓から差し込む夕陽が三人の影を長く伸ばしていた。

「気をつけて」

シュベリートは窓の外を見やる。
「もう、出発するのが賢明でしょう。夜の関所は......より危険になります」

「でも」

俺は思わず口を開いていた。

「なぜ、わざわざ火種を作るのですか?」

シュベリートは静かに目を閉じ、深いため息をついた。

「アル......いや、レン。300年前の約束は、まだ完全には果たされていない。人間と魔族の真の和平は、まだ道半ばです。 わかっているよ。君には見抜かれているんだね。私がまだ人間を信じきれずにいて、試していることを」

人間である俺は、火種があれば必ず、戦争が起きるとだろうと思う。
仮に魔鏡が火種であるならば、だ。

しかし、魔王はひょっとしたら戦争は起きないのではないか?と信じたいのかもしれない。
宮殿を出て、馬車に乗り込むまで、俺たちは言葉を交わさなかった。

エリルは窓の外を見つめたまま、時折レプリカの魔鏡に目を落とす。その表情には、複雑な思いが交錯していた。

「エリル」
「......はい」
 彼女は俺の方を向かず、答えた。

「本当のことを話してくれて、ありがとう」

その言葉に、エリルの肩が小さく震える。
「どうしてそんな優しい言葉を? 私はすべてを話したわけではないのに」
「エリルは、それでも本当のことを話してくれたんだから」

馬車が石畳を進む音だけが、しばらく続く。

「私は......密偵よ。あなたを殺そうとした暗殺者。そして......」
エリルの声が途切れる。
「あなたを騙していた嘘つき」
「そんなところも含めて全部、俺はエリルが好きだ」

涙が、彼女の頬を伝う。
エリルは両手で顔を覆った。その肩が、小刻みに震えている。

「私の芸名......なんで、エリルか分かります?」

彼女の声は掠れていた。

「わたしは悲恋の女帝エリルではありません。でも、すごく共感しちゃうんです……」

「ああ」

俺は静かに頷く。

「だから、俺が殺しのターゲットではなく、レンだったとしても、エリルは俺を許せないんだろう?」
「ええ。でも......」

エリルが顔を上げる。瞳には、まだ涙が光っていた。

「今のあなた.....アルさんは、私の話と無関係なこともわかっているのです.」

言葉が途切れる。でも、その想いは確かに伝わってきた。

馬車は、夕暮れの帝都を走り続けていた。関所での危険が待ち受けているのは分かっている。でも今は、この時間が大切だった。

エリルの手が、そっと俺の手を握る。

きっと彼女も、女帝エリルと同じような思いをしたのだろう。昨夜の夢で見た、あの地下牢獄での絶望。誰かを待ち続け、裏切られ、そして一人で死んでいく......。だから俺は、たとえ彼女にとってのレンではなくても、せめて優しくしてやりたかった。

エリルの手を握り返しながら、俺は夕陽に照らされた空を見上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...