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エリルの昔話
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頭目の最後の言葉が気になってた。俺はそいつの懐に手を伸ばし、黒いマントの下をまさぐった。指先に紙の感触があって、引っ張り出すと、折り畳まれた紙切れだった。開いてみると、こう書かれてた。
「エリルという女を生け捕りにしろ。私自ら罰を与える。失敗は許さぬ。ルシアン」
紙を彼女に見せるとエリルの顔が一瞬真っ白になった。目を見開き、手が震えて竪琴を落としそうになってた。
「アルさん…」
と掠れた声で呟いたきり、彼女は黙り込んだ。俺は紙を握り、
「ルシアンって誰だ?」
と聞いたけど、エリルは目を伏せて答えない。代わりに馬車に乗り込み、俺も後を追った。馬車が動き出すと、車輪の軋む音が森の静けさを切り裂いた。
馬車の中で、エリルが竪琴を膝に置いて、静かに言った。
「ね、エリルのもうひとつの悲劇について歌っていいかしら」
「ああ、聞かせてくれ」
彼女は竪琴をそっと爪弾き、しっとりした声で歌い始めた。
「その昔、ルシアンという貴族の男の館に、アリアという住み込みの娘がおりました」
「ルシアンは彼女を不憫に思い、実の娘として育てました」
「アリアの新しい名前が決まりました、エリルと呼ばれました」
「そのときに彼女の運命は決まっていたのかもしれません」
俺は息を呑んだ。命令書と同じ「エリル」だ。エリルの声に哀愁が混じった。
「ルシアンはとてもエリルによくしてくれました」
「偽りの父ルシアンは、エリルに王家で働くように命じます」
「それは王子様たちのお嫁様候補になるということでした」
「エリルは従いました。ルシアンにいうように王子に尽くしました」
「尽くした王子は、なぜかみんなすぐこの世からいなくなりました」
「やがて罪が見咎められ、エリルは牢に囚われました」
「この鈴を渡しておくよ。鈴を3回鳴らしたら、私が必ず助けに行くからね」
「ルシアンはそういって彼女に鈴を渡してくれました」
「エリルは鈴を鳴らそうとしましたが、思いとどまりました」
「ルシアンを危険にさらしたくなかったからです」
「やがて王女がエリルのいる牢獄に来ました」
「エリルは鈴を取り上げられ、王女が言いました」
「3回鳴らすと爆発する魔法の鈴じゃない」
「そう、あなた死ぬ気だったのね」
「ルシアンの家は潰され、彼は帝国へ逃げました」
「運命は決まっていたのかもしれません」
「しかし、みなさまご安心ください、今回のエリルは勇者レンによって救われます」
歌が終わり、エリルは竪琴を膝に置いた。俺は言葉を失ってた。アリアがエリルになり、暗殺の罪を負い、ルシアンに裏切られる話。鈴が爆発の罠だったって知らされても、エリルはルシアンを危険にさらしたくなくて鳴らさなかった。これは彼女の過去だ。俺はそれを確信したけど、聞くのはためらった。彼女の潤んだ目と震える手を見て、胸が締め付けられた。
「エリル…いい歌だった」
「昔話だよ、アルさん。気にしないで」
そんなのってありかよ……。
この歌と命令書が繋がってるなら、ルシアンって奴がエリルを狙ってるのは確かだ。
エリルの手をそっと握ると、彼女は驚いた顔で俺を見たが、すぐに目を伏せて握り返してきた。
馬車が王国の城壁に近づくと、衛兵が道を塞いだ。
「馬車を調べる」
「リファイア王女の使者よ。いそぎの用なの通してもらえる?」
と穏やかに返すと、衛兵は渋々頷いた。馬車が動き出す。
「もうすぐ着くね」
「ああ、エリル……結婚の話だけど。なかったことなんかにするなよな?」
「……!」
「なに驚いているんだよ? あたりまえだろ。だって俺は勇者レンでエリルを救うために300年前から時間転移してきたんだから」
「アルさん……。ありがとう!」
気づけば朝日がとても美しかった。リファイア王女はもう起きているだろうか?
早く会いたい。話すことがたくさんある。
「エリルという女を生け捕りにしろ。私自ら罰を与える。失敗は許さぬ。ルシアン」
紙を彼女に見せるとエリルの顔が一瞬真っ白になった。目を見開き、手が震えて竪琴を落としそうになってた。
「アルさん…」
と掠れた声で呟いたきり、彼女は黙り込んだ。俺は紙を握り、
「ルシアンって誰だ?」
と聞いたけど、エリルは目を伏せて答えない。代わりに馬車に乗り込み、俺も後を追った。馬車が動き出すと、車輪の軋む音が森の静けさを切り裂いた。
馬車の中で、エリルが竪琴を膝に置いて、静かに言った。
「ね、エリルのもうひとつの悲劇について歌っていいかしら」
「ああ、聞かせてくれ」
彼女は竪琴をそっと爪弾き、しっとりした声で歌い始めた。
「その昔、ルシアンという貴族の男の館に、アリアという住み込みの娘がおりました」
「ルシアンは彼女を不憫に思い、実の娘として育てました」
「アリアの新しい名前が決まりました、エリルと呼ばれました」
「そのときに彼女の運命は決まっていたのかもしれません」
俺は息を呑んだ。命令書と同じ「エリル」だ。エリルの声に哀愁が混じった。
「ルシアンはとてもエリルによくしてくれました」
「偽りの父ルシアンは、エリルに王家で働くように命じます」
「それは王子様たちのお嫁様候補になるということでした」
「エリルは従いました。ルシアンにいうように王子に尽くしました」
「尽くした王子は、なぜかみんなすぐこの世からいなくなりました」
「やがて罪が見咎められ、エリルは牢に囚われました」
「この鈴を渡しておくよ。鈴を3回鳴らしたら、私が必ず助けに行くからね」
「ルシアンはそういって彼女に鈴を渡してくれました」
「エリルは鈴を鳴らそうとしましたが、思いとどまりました」
「ルシアンを危険にさらしたくなかったからです」
「やがて王女がエリルのいる牢獄に来ました」
「エリルは鈴を取り上げられ、王女が言いました」
「3回鳴らすと爆発する魔法の鈴じゃない」
「そう、あなた死ぬ気だったのね」
「ルシアンの家は潰され、彼は帝国へ逃げました」
「運命は決まっていたのかもしれません」
「しかし、みなさまご安心ください、今回のエリルは勇者レンによって救われます」
歌が終わり、エリルは竪琴を膝に置いた。俺は言葉を失ってた。アリアがエリルになり、暗殺の罪を負い、ルシアンに裏切られる話。鈴が爆発の罠だったって知らされても、エリルはルシアンを危険にさらしたくなくて鳴らさなかった。これは彼女の過去だ。俺はそれを確信したけど、聞くのはためらった。彼女の潤んだ目と震える手を見て、胸が締め付けられた。
「エリル…いい歌だった」
「昔話だよ、アルさん。気にしないで」
そんなのってありかよ……。
この歌と命令書が繋がってるなら、ルシアンって奴がエリルを狙ってるのは確かだ。
エリルの手をそっと握ると、彼女は驚いた顔で俺を見たが、すぐに目を伏せて握り返してきた。
馬車が王国の城壁に近づくと、衛兵が道を塞いだ。
「馬車を調べる」
「リファイア王女の使者よ。いそぎの用なの通してもらえる?」
と穏やかに返すと、衛兵は渋々頷いた。馬車が動き出す。
「もうすぐ着くね」
「ああ、エリル……結婚の話だけど。なかったことなんかにするなよな?」
「……!」
「なに驚いているんだよ? あたりまえだろ。だって俺は勇者レンでエリルを救うために300年前から時間転移してきたんだから」
「アルさん……。ありがとう!」
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