魔王討伐戦で亡国の女帝をナンパしたら、めちゃくちゃ重たく愛されている勇者の俺

蒼山りと

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決戦、そしてアルの覚醒

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 両軍の距離が縮まり、いよいよ衝突の瞬間が迫っていた。俺は白馬に跨り、義勇軍の先頭に立っている。背後では詐欺師レンの命令で集められた農民や商人たちが、即席の兵士として不安げな表情を浮かべていた。

「あれを見ろ」

ナギが前方を指さした。帝国軍の陣営から巨大な御旗が掲げられる。風になびくその旗の下には、驚くほど精巧に作られた人形が飾られていた。最後の皇帝アリストラスト17世の像だ。金色に輝く冠をかぶり、威厳に満ちた表情で前方を見据えている。

「人形だ」と俺は呟いた。「皇帝は象徴でしかない」

アリストラスト17世はつまりは女帝エリルのことだ。その黄金の像は、夢で見た彼女の外見と確かに似ていた。しかし、そんな感傷に浸る余裕は当然ない。

シュベリートの言葉が蘇る。帝国には実在の皇帝はおらず、抽象的な存在としての皇帝があるだけなのだ。

御旗の下から、鎧に身を包んだ騎兵隊が一斉に動き出した。百頭ほどの馬が大地を震わせ、轟音を立てて迫ってくる。

「用意しろ!」俺は義勇軍に向かって叫んだ。

彼らは恐怖に表情を引きつらせながらも、武器を構えた。だが実戦経験のない彼らが相手するのは、訓練された帝国の精鋭部隊だ。

「このままでは皆殺しだ」ナギが俺の横で呟いた。

「ああ。だから—」

俺は白馬に鞭を入れた。「俺たちが先に突撃する!」

ナギも理解したように頷き、自分の馬を駆った。二人だけで敵の騎兵隊に向かって突進していく。

「アル、目標は?」

「旗の下の指揮官だ!」

帝国の騎兵隊が目を見開いた。たった二人で突撃してくる姿に、一瞬混乱したようだ。だがすぐに槍を構え直し、こちらに向かってくる。

「フレイム!」

叫びと共に俺の右手から炎が放たれた。その熱波が敵の最前列を直撃し、数頭の馬が驚いて騎士を振り落とす。

同時にナギも薙刀を振り回した。「東方旋風の術!」

彼女の薙刀から渦を巻く風が生まれ、砂埃とともに敵の視界を奪う。その隙に俺たちは敵陣に突入した。

俺の体が反射的に動く。まるで何百年も戦いの中で鍛えられてきたかのように。剣を振るい、槍を払い、次々と敵を倒していく。同時に自動無意識の魔法シールドが俺を守り、どんな攻撃も弾き返していた。

「アル、そこだ!」

ナギの声に顔を上げると、御旗の下に豪華な甲冑を身につけた男が立っていた。彼こそがこの軍の真の指揮官に違いない。

「行くぞ!」

俺とナギは一気に駆け抜け、敵の中央部隊へと突入した。敵兵が次々と襲いかかるが、俺たちの連携が彼らを寄せ付けない。

ついに御旗の下まで到達した俺たちは、馬から飛び降り、指揮官に迫った。

「お前が指揮官か!」

俺の叫びに、指揮官がゆっくりと兜のマスクを上げた。そこにあったのは横柄な、人を命令することに慣れきった髭面の中年の顔だ。彼は口をゆがめ、冷たい笑みを浮かべていた。

「よく来たな、偽勇者よ」

その時、側近の一人が叫んだ。「ルシアル様、ご無事で!」

「ルシアル?」俺は目を細めた。「お前がエリルの元養父か」

「なに?」ルシアルは一瞬驚いたように見えた。「どうやってそれを知った?」

「お前が帝国軍を率いているとは」俺は剣を構えた。

ルシアルは肩をすくめた。「私は皇帝の代理人として行動しているだけだ。いまは皇帝という概念が私に命じている。だから私は指揮官ではない」

ナギが薙刀を構えながら言った。「詭弁をいうものだ。おまえはエリルの元養父だろう。彼女を利用して王子たちを暗殺させた男だ」

「そうだ」ルシアルの目が鋭く光った。「私が彼女を育てた。優秀な暗殺者としてね」

「そして裏切った」俺の怒りが込み上げてきた。

ルシアルは不敵に笑った。「世の中そういうものだ。彼女は道具だった。お前もそうだ」

「詐欺師レンと手を組んだのもお前か?」

「そうとも言える。それに彼の見せる芝居は面白かったからね」

俺とナギは一歩一歩と近づいていく。周囲の兵士たちは命令を待つように固まっていた。

「これ以上近づくと」ルシアルが警告するように言った。「私が死ねば、エリルも死ぬぞ。今頃、彼女の処刑が準備されている」

俺の足が止まった。「なに?」

「それだけではない」ルシアルの瞳に冷たい光が宿る。「お前の故郷、レンの村も今ごろ別働隊が攻めているだろう。懐かしい顔が見られるかな? 双子の妹か?」

エルの顔が脳裏に浮かんだ。彼女は村に残っている。もし本当なら……。

「故郷の仲間をお前は見捨てるというのか?」ルシアルが問いつめる。
「エリルを助けたいか? 故郷だって守りたいだろう。私を殺したとき、それはもう叶わなくなるがな。くっくく、さぁ。どうする?」

その瞬間だった。体の奥深くから何かが目覚める感覚。300年前の記憶が鮮明に蘇ってきた。魔王シュベリートとの戦い、女帝エリルとの出会い、約束。そして転生の選択。

俺は——勇者レンは——目を開いた。

「くだらない脅しはよせ」

声のトーンまで変わっていた。深く、落ち着き、何百もの戦いを経験してきた者の声だ。

「約束を破る男としておまえは定評がありそうだ」

ルシアルの顔に驚きの色が浮かんだ。
「なに?」

電光石火の動き。俺の剣が空を切り、ルシアルの喉元に迫る。彼は間一髪で身をかわしたが、肩口に深手を負った。

「ぐっ!」ルシアルが血を噴きながら後退する。

ナギも同時に動いていた。薙刀が風を切り、ルシアルの側近を次々と薙ぎ倒す。

「お前は、本物の……」ルシアルの目が恐怖で見開かれた。

「そうだ」
俺は静かに答えた。
「俺は勇者レン。300年前、女帝エリルに約束した男だ」

ルシアルは帝国軍の側近に命じた。「総攻撃だ!この男を倒せ!」

だが、勇者レンの力が完全に目覚めた今、もはや敵わないことをルシアルも悟ったのだろう。彼は混乱する兵士たちの陰に隠れ、逃げようとしていた。

「逃がさん!」

俺は跳躍し、ルシアルの前に着地した。彼の目に恐怖が浮かぶ。

「言っておくが、エリルは死なない。お前の言葉など信じん」

剣が閃き、ルシアルの胸を貫いた。彼の目が見開かれたまま、その体が地面に倒れる。

「アル!」ナギが駆け寄ってきた。「周囲が混乱している。今なら、この混乱に乗じて詐欺師レンのもとへ戻れる」

俺は頷いた。「エリルを救わねば」

帝国軍は指揮官を失い、混乱に陥っていた。俺たちは敵の馬を奪い、来た道を引き返す。

背後では、義勇軍と帝国軍の戦いが続いていた。だが俺の心はもはや一つのことしか考えていなかった。

エリルを救うこと。そして300年前の約束を、今度こそ果たすこと。
そのためには、詐欺師レンを生かして返すわけにはいかなかった。
あいつは戦場のどこにいるだろうか? 
歴戦の勇者として思う、あいつほど戦場に似合わない男はいないなと。
カンがひらめく、やつなら必ずそうするはずだというカンが。
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