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第一話 want to be
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タイトル:紅と蒼魔のレクイエム
ペンネーム:江賀斧 施魁
本名:鳥羽 凱士
年齢:19歳
結果:落選
キャラクター:1.5点
ストーリー:2.0点
世界観:1.8点
構成力:1.5点
文章力:1.5点
総合評価1.7点
審査員Bコメント
良かったところ:予想外な展開を作れている。
悪かったところ:起承転結が滅茶苦茶で、キャラの性格が不明瞭。
アドバイス:奇想天外で面白いとは感じましたが、奇想天外すぎて意味不明です。万人に受け入れられるとは言わずとも、もう少し読者に配慮してみては?
=====================
「ぎゃああああああああああああっ!!」
落選の二文字を見た瞬間、俺はパソコンの画面を閉じて思いっきり叫んだ。
「あああああ! クッソ、ああああああッ!!」
そしてそのまま頭を抱えて床をごろごろとのたうち回る。
壁や本棚にガンガンとぶつかるが、そんな痛みなど今の俺の絶望や悲哀に比べればなんてことはない。むしろ気をそらすのに役立ってくれているくらいだ。
「なんでだよ! なんでダメなんだよ! うわぁあああああっ!!」
どうにもならない現実から逃避するために、悔しさを紛らわせるために、俺はそうして叫び続ける。
今の俺は悲しみに暮れる狂戦士。本棚から本が落ちてこようが、本体そのものが倒れてこようが、そんなことは関係ない。力尽きるまで暴れ続けるのだ――
「……何やってんの、凱にぃ」
「うがぁああ……って、うぇぇ!?」
目が回って変なテンションになっていた俺の耳に入ってきたのは、冷ややかな少女の声。俺一人しかいない部屋で聞くはずのない音であった。
伏せの上体でびたっと静止し、相手の顔を確認してから問う。
「か、花音!? お前なんでここに!?」
「……別に。暇だったから来ただけ」
冷や汗だらだらの俺をジト目で見つめる少女――従妹である静宮花音はそう言った。
とりあえず俺は立ち上がって、ぽんぽんと服についたほこりを払う。
「暇だったからって……どうして断りもせず俺の部屋に入ってきてるんだよ……」
「鍵がかかってなかったから」
「犯罪者みたいなこと言ってんじゃねえ。空き巣かお前は。せめてチャイムくらい鳴らせよ」
動揺を隠しながら尋ねると、真顔でとんでもないことを言ってのける花音。
っていうか、不法侵入なのだから、みたいではなく思いっきり犯罪者だ。アウトである。
……いや、まあ、親族相手に不法侵入がどこまで適用されるのかは知らないけど、多分鍵をあげてない相手だったら罪になるよな?
「あのなぁ、女子高生が簡単に一人暮らしの男の部屋なんかに簡単に入るなよ。お前可愛いんだから、何かされちまってもおかしくはないぞ?」
「何かするの?」
呆れながらも割とまじめに忠告をすると、花音は純粋な瞳で聞いてきた。
「いや、そりゃ俺はしないけどなぁ……!」
「なら問題ない。凱にぃ以外の人の家に行ったりはしないから」
そんなことを言いながら、無防備に俺の椅子に座る花音。
「……それよりも凱にぃ。今私のこと可愛いと言った?」
「え? ああ、まあそうだけど、それがどうしたのか?」
俺をまっすぐ見つめ、なにやらシリアスな雰囲気で問うてくる花音に、少したじろぎながらもそう返す。
実際、親戚の贔屓目を抜いても、花音はかなり可愛い。
少々釣り目がちで冷たい印象を与えるが、しっかり整っている目鼻立ち。艶やかな黒い色の髪の毛。色白な肌に、引き締まった脚や腰。160cm超えの女子にしては少し高い身長もあいまって、スタイルは抜群だ。
まあ、可愛いというよりは綺麗という方がしっくりとくる感じだが……あ、もしかして。
「可愛いっていうのが嫌だったか? 花音大人っぽいもんな、気に障ったなら悪い」
「……いや、大丈夫。なんでもない」
花音は首を横に振って否定する。
なんでもないなら何で聞き返したんだよ。女子高生の考えることは良く分からんな。
……ふぅ。さて。
「ところで、あのぅ、花音」
「なに?」
「えーとですね。……お前、いつからここにいた?」
焦りながらそっと聞いてみる。
すでに痴態を晒している事に変わりはないが、どこからだったかによって俺のダメージの度合いは変わってくるのだ。
「凱にぃが鼻歌を歌ってそわそわしながらパソコンを開いた時から」
「めっさ前からじゃねえか!?」
平坦な口調で死刑宣告。
パソコンを開いたときということは、画面を見て叫び始める十分くらい前である。逆になんで声かけられるまで気づかなかったんだよ俺。
「すごい楽しそうだったから、声かけづらくて」
「そこは気を遣わず来訪を教えてほしかったなぁ!」
しおらしいことを言いつつも、まったく申し訳ないとは思っていなそうな声色の花音。
どうやら醜態の一部始終を完全に見られてしまったらしい。マジで気づけよ過去の俺ぇ。
「それで、凱にぃ。結果はどうだったの?」
崩れ落ちる俺に追撃を仕掛けるように尋ねてきた。
「なあ、ずっと俺の姿見てたなら、聞くまでもなさすぎねえかそれ」
「…………」
「やめてぇ!? そこで無言になるのやめてぇ!?」
花音は何かを察したような表情を浮かべ、やさしげな微笑をたたえながら沈黙した。
さっきの俺の姿を思い出してドン引いたのか、それとも同情して気遣っているのかは分からないが、どちらにしろライフを削られる。城○内の命がいくつあっても足りない。
「……まあ、この有様だよ。笑うなら笑え」
ため息をつきながら、俺はパソコンの画面を開いて花音に見せた。
そこに表示されているのは、FM文庫大賞の運営から送られてきた、自作のラノベの審査結果と忌々しい落選の文字。
「……そう、ダメだったんだ」
「ああ、いつも通り、一次選考落ちだよ」
はは、と自嘲気味に笑う。
「FMめ、この俺を簡単に落とすとはなんて見る目のない……。そんなんで編集の仕事が務まると思ってんのか!」
「凱にぃ、それ他の文庫にも言ってた」
「ああ、そうだよ。稲光文庫も、ソックス文庫も、府市見もラララもGUもオガラも、どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ!」
花音の冷たい視線に答えるように、半ばやけくそ気味に叫ぶ。
「凱にぃこそ、編集さんの悪口ばかり言ってアドバイスは取り入れてない……。そんな状態じゃ作家になるなんて夢のまた夢」
「ぁぐはッ!!」
小さな口から出た完全な正論が、俺の腐った根性にクリティカルヒット。
特に最後の一言は、ただの音のはずなのに、物理的攻撃力を持っているかのように俺の心にダメージを与えてきた。
俺は頭を抱えて、呻くように口を開く。
「……このままじゃダメなんてことは、分かってるんだ。とっくに分かってるんだよ……」
「ならどうして直さないの?」
花音はその大人っぽい容姿に反して、無垢な輝きを放った目で聞いてきた。
……なぜ直さないかって? それはな、それはなぁ……。
「……できないんだよ。俺だってなんとか変えようとしている。だけどなぁ、何をどう直せばいいか、全く理解できないんだ」
「……奇想天外をやめろって書いてある」
「奇想天外って何だよ。なにかしら目新しいものがないと、受賞なんて狙えねえだろ!」
どうせあれだろ? 平坦なストーリーにしたら『テンプレ的でオリジナリティを感じませんでした』とか言うんだろ?
俺知ってるもん。実際に言われたことないけど。
「……やりすぎってこと、じゃないの?」
首をこてんと傾ける花音。
「簡単に言うなって……。どこまでが許容範囲でどこからがアウトなのかなんて、全然わかんないんだよ。本当あいつら、ちゃんと具体的に言わねえから」
「万年一次選考落ちの凱にぃなんて、審査員からしたらアウトオブ眼中。わざわざ細かく教えてあげる義理はない」
「ぎゃぁああああああ、やめてぇええええええええ!!」
花音の唐突な口撃に、耳を塞ぎながら絶叫する。
あー、あー、聞こえなーい。現実なんて目に入らなーい。……ぐすん。
「……よしよし」
落ち込んで涙ぐむ俺の姿を哀れんだのか、爪先立ちになって俺の頭をなで始めた花音。
……なんだろう、この敗北感と安心感と罪悪感がごちゃ混ぜになった気持ち。
「……凱にぃがライトノベルを書き始めたのはいつ?」
戸惑いながらも花音の柔らかな手を堪能していると、そんなことを聞いてきた。
「中学二年生から、だけど?」
「今は何歳?」
「じゅ、19歳」
急にどうしたのだろうか。そんなこと確認するまでもなく花音も知っているはずなのだが。
「何回新人賞に応募した?」
「え? た、たぶん50回くらい」
そのまま続けて放たれた言葉は、これまでと少し毛色が違っていた。
「何回一次選考落ち?」
「ふ、ふぇええええ」
「……何回?」
「ふぇぇぇ」
「…………」
「……全部です」
なんだこれ。俺の心を砕きに来てるの?
もしそうだとしたら、効果抜群すぎて四倍ダメージ食らってるからすぐにやめてほしいなぁ。
うなだれていると、花音は俺の頭をなでる手を止め、椅子に座りなおした。
「落ちるたび、毎回同じアドバイス言われてる」
「まあ、そうだな」
「なら、なんで学習しない?」
一撃必殺。凱士は死んだ。
「い、いや、あのね? 個人的に、一応ちょっとずつマイルドにしてるつもりなんですよ?」
「結果が出ないなら意味ない」
「ですよねー」
悔しいけど、何も言い返せない。
実際花音の言うとおりで、俺がどう工夫しようが、評価が変わらないのなら意味がない。……とは言っても、現状俺にできる全てをつぎ込んでいるわけで。
「まあ、愚痴なんか言ってる暇があるなら、書きまくって上達するしかないよな」
そう零すと、花音はうんうんとうなずいてくれる。
「どんなことであっても、目標への近道は努力だけ」
ただの女子高生が何知ったような口きいてんだと思ったけど、突っ込んだら言い負かされる気しかしないので黙っておく。
「ああ、そうだな。そうと決まったら早速、次の小説を書き始めるか!」
俺はそう宣言した後、腕をまくって、机の上のパソコンに手を伸ばした。
タイトル:紅と蒼魔のレクイエム
ペンネーム:江賀斧 施魁
本名:鳥羽 凱士
年齢:19歳
結果:落選
キャラクター:1.5点
ストーリー:2.0点
世界観:1.8点
構成力:1.5点
文章力:1.5点
総合評価1.7点
審査員Bコメント
良かったところ:予想外な展開を作れている。
悪かったところ:起承転結が滅茶苦茶で、キャラの性格が不明瞭。
アドバイス:奇想天外で面白いとは感じましたが、奇想天外すぎて意味不明です。万人に受け入れられるとは言わずとも、もう少し読者に配慮してみては?
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「ぎゃああああああああああああっ!!」
落選の二文字を見た瞬間、俺はパソコンの画面を閉じて思いっきり叫んだ。
「あああああ! クッソ、ああああああッ!!」
そしてそのまま頭を抱えて床をごろごろとのたうち回る。
壁や本棚にガンガンとぶつかるが、そんな痛みなど今の俺の絶望や悲哀に比べればなんてことはない。むしろ気をそらすのに役立ってくれているくらいだ。
「なんでだよ! なんでダメなんだよ! うわぁあああああっ!!」
どうにもならない現実から逃避するために、悔しさを紛らわせるために、俺はそうして叫び続ける。
今の俺は悲しみに暮れる狂戦士。本棚から本が落ちてこようが、本体そのものが倒れてこようが、そんなことは関係ない。力尽きるまで暴れ続けるのだ――
「……何やってんの、凱にぃ」
「うがぁああ……って、うぇぇ!?」
目が回って変なテンションになっていた俺の耳に入ってきたのは、冷ややかな少女の声。俺一人しかいない部屋で聞くはずのない音であった。
伏せの上体でびたっと静止し、相手の顔を確認してから問う。
「か、花音!? お前なんでここに!?」
「……別に。暇だったから来ただけ」
冷や汗だらだらの俺をジト目で見つめる少女――従妹である静宮花音はそう言った。
とりあえず俺は立ち上がって、ぽんぽんと服についたほこりを払う。
「暇だったからって……どうして断りもせず俺の部屋に入ってきてるんだよ……」
「鍵がかかってなかったから」
「犯罪者みたいなこと言ってんじゃねえ。空き巣かお前は。せめてチャイムくらい鳴らせよ」
動揺を隠しながら尋ねると、真顔でとんでもないことを言ってのける花音。
っていうか、不法侵入なのだから、みたいではなく思いっきり犯罪者だ。アウトである。
……いや、まあ、親族相手に不法侵入がどこまで適用されるのかは知らないけど、多分鍵をあげてない相手だったら罪になるよな?
「あのなぁ、女子高生が簡単に一人暮らしの男の部屋なんかに簡単に入るなよ。お前可愛いんだから、何かされちまってもおかしくはないぞ?」
「何かするの?」
呆れながらも割とまじめに忠告をすると、花音は純粋な瞳で聞いてきた。
「いや、そりゃ俺はしないけどなぁ……!」
「なら問題ない。凱にぃ以外の人の家に行ったりはしないから」
そんなことを言いながら、無防備に俺の椅子に座る花音。
「……それよりも凱にぃ。今私のこと可愛いと言った?」
「え? ああ、まあそうだけど、それがどうしたのか?」
俺をまっすぐ見つめ、なにやらシリアスな雰囲気で問うてくる花音に、少したじろぎながらもそう返す。
実際、親戚の贔屓目を抜いても、花音はかなり可愛い。
少々釣り目がちで冷たい印象を与えるが、しっかり整っている目鼻立ち。艶やかな黒い色の髪の毛。色白な肌に、引き締まった脚や腰。160cm超えの女子にしては少し高い身長もあいまって、スタイルは抜群だ。
まあ、可愛いというよりは綺麗という方がしっくりとくる感じだが……あ、もしかして。
「可愛いっていうのが嫌だったか? 花音大人っぽいもんな、気に障ったなら悪い」
「……いや、大丈夫。なんでもない」
花音は首を横に振って否定する。
なんでもないなら何で聞き返したんだよ。女子高生の考えることは良く分からんな。
……ふぅ。さて。
「ところで、あのぅ、花音」
「なに?」
「えーとですね。……お前、いつからここにいた?」
焦りながらそっと聞いてみる。
すでに痴態を晒している事に変わりはないが、どこからだったかによって俺のダメージの度合いは変わってくるのだ。
「凱にぃが鼻歌を歌ってそわそわしながらパソコンを開いた時から」
「めっさ前からじゃねえか!?」
平坦な口調で死刑宣告。
パソコンを開いたときということは、画面を見て叫び始める十分くらい前である。逆になんで声かけられるまで気づかなかったんだよ俺。
「すごい楽しそうだったから、声かけづらくて」
「そこは気を遣わず来訪を教えてほしかったなぁ!」
しおらしいことを言いつつも、まったく申し訳ないとは思っていなそうな声色の花音。
どうやら醜態の一部始終を完全に見られてしまったらしい。マジで気づけよ過去の俺ぇ。
「それで、凱にぃ。結果はどうだったの?」
崩れ落ちる俺に追撃を仕掛けるように尋ねてきた。
「なあ、ずっと俺の姿見てたなら、聞くまでもなさすぎねえかそれ」
「…………」
「やめてぇ!? そこで無言になるのやめてぇ!?」
花音は何かを察したような表情を浮かべ、やさしげな微笑をたたえながら沈黙した。
さっきの俺の姿を思い出してドン引いたのか、それとも同情して気遣っているのかは分からないが、どちらにしろライフを削られる。城○内の命がいくつあっても足りない。
「……まあ、この有様だよ。笑うなら笑え」
ため息をつきながら、俺はパソコンの画面を開いて花音に見せた。
そこに表示されているのは、FM文庫大賞の運営から送られてきた、自作のラノベの審査結果と忌々しい落選の文字。
「……そう、ダメだったんだ」
「ああ、いつも通り、一次選考落ちだよ」
はは、と自嘲気味に笑う。
「FMめ、この俺を簡単に落とすとはなんて見る目のない……。そんなんで編集の仕事が務まると思ってんのか!」
「凱にぃ、それ他の文庫にも言ってた」
「ああ、そうだよ。稲光文庫も、ソックス文庫も、府市見もラララもGUもオガラも、どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ!」
花音の冷たい視線に答えるように、半ばやけくそ気味に叫ぶ。
「凱にぃこそ、編集さんの悪口ばかり言ってアドバイスは取り入れてない……。そんな状態じゃ作家になるなんて夢のまた夢」
「ぁぐはッ!!」
小さな口から出た完全な正論が、俺の腐った根性にクリティカルヒット。
特に最後の一言は、ただの音のはずなのに、物理的攻撃力を持っているかのように俺の心にダメージを与えてきた。
俺は頭を抱えて、呻くように口を開く。
「……このままじゃダメなんてことは、分かってるんだ。とっくに分かってるんだよ……」
「ならどうして直さないの?」
花音はその大人っぽい容姿に反して、無垢な輝きを放った目で聞いてきた。
……なぜ直さないかって? それはな、それはなぁ……。
「……できないんだよ。俺だってなんとか変えようとしている。だけどなぁ、何をどう直せばいいか、全く理解できないんだ」
「……奇想天外をやめろって書いてある」
「奇想天外って何だよ。なにかしら目新しいものがないと、受賞なんて狙えねえだろ!」
どうせあれだろ? 平坦なストーリーにしたら『テンプレ的でオリジナリティを感じませんでした』とか言うんだろ?
俺知ってるもん。実際に言われたことないけど。
「……やりすぎってこと、じゃないの?」
首をこてんと傾ける花音。
「簡単に言うなって……。どこまでが許容範囲でどこからがアウトなのかなんて、全然わかんないんだよ。本当あいつら、ちゃんと具体的に言わねえから」
「万年一次選考落ちの凱にぃなんて、審査員からしたらアウトオブ眼中。わざわざ細かく教えてあげる義理はない」
「ぎゃぁああああああ、やめてぇええええええええ!!」
花音の唐突な口撃に、耳を塞ぎながら絶叫する。
あー、あー、聞こえなーい。現実なんて目に入らなーい。……ぐすん。
「……よしよし」
落ち込んで涙ぐむ俺の姿を哀れんだのか、爪先立ちになって俺の頭をなで始めた花音。
……なんだろう、この敗北感と安心感と罪悪感がごちゃ混ぜになった気持ち。
「……凱にぃがライトノベルを書き始めたのはいつ?」
戸惑いながらも花音の柔らかな手を堪能していると、そんなことを聞いてきた。
「中学二年生から、だけど?」
「今は何歳?」
「じゅ、19歳」
急にどうしたのだろうか。そんなこと確認するまでもなく花音も知っているはずなのだが。
「何回新人賞に応募した?」
「え? た、たぶん50回くらい」
そのまま続けて放たれた言葉は、これまでと少し毛色が違っていた。
「何回一次選考落ち?」
「ふ、ふぇええええ」
「……何回?」
「ふぇぇぇ」
「…………」
「……全部です」
なんだこれ。俺の心を砕きに来てるの?
もしそうだとしたら、効果抜群すぎて四倍ダメージ食らってるからすぐにやめてほしいなぁ。
うなだれていると、花音は俺の頭をなでる手を止め、椅子に座りなおした。
「落ちるたび、毎回同じアドバイス言われてる」
「まあ、そうだな」
「なら、なんで学習しない?」
一撃必殺。凱士は死んだ。
「い、いや、あのね? 個人的に、一応ちょっとずつマイルドにしてるつもりなんですよ?」
「結果が出ないなら意味ない」
「ですよねー」
悔しいけど、何も言い返せない。
実際花音の言うとおりで、俺がどう工夫しようが、評価が変わらないのなら意味がない。……とは言っても、現状俺にできる全てをつぎ込んでいるわけで。
「まあ、愚痴なんか言ってる暇があるなら、書きまくって上達するしかないよな」
そう零すと、花音はうんうんとうなずいてくれる。
「どんなことであっても、目標への近道は努力だけ」
ただの女子高生が何知ったような口きいてんだと思ったけど、突っ込んだら言い負かされる気しかしないので黙っておく。
「ああ、そうだな。そうと決まったら早速、次の小説を書き始めるか!」
俺はそう宣言した後、腕をまくって、机の上のパソコンに手を伸ばした。
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