読者がたった一人でも 〜万年一次選考落ちの俺のラノベを、従妹の少女だけは褒めてくれる……なんてことはなく、いつも無言で読まれます〜

宮野遥

文字の大きさ
1 / 11

第一話 want to be

しおりを挟む
=====================

タイトル:紅と蒼魔のレクイエム
ペンネーム:江賀斧 施魁
本名:鳥羽 凱士
年齢:19歳
結果:落選

キャラクター:1.5点
ストーリー:2.0点
世界観:1.8点
構成力:1.5点
文章力:1.5点
総合評価1.7点

審査員Bコメント
良かったところ:予想外な展開を作れている。
悪かったところ:起承転結が滅茶苦茶で、キャラの性格が不明瞭。
アドバイス:奇想天外で面白いとは感じましたが、奇想天外すぎて意味不明です。万人に受け入れられるとは言わずとも、もう少し読者に配慮してみては?

=====================



「ぎゃああああああああああああっ!!」

 落選の二文字を見た瞬間、俺はパソコンの画面を閉じて思いっきり叫んだ。

「あああああ! クッソ、ああああああッ!!」

 そしてそのまま頭を抱えて床をごろごろとのたうち回る。
 壁や本棚にガンガンとぶつかるが、そんな痛みなど今の俺の絶望や悲哀に比べればなんてことはない。むしろ気をそらすのに役立ってくれているくらいだ。

「なんでだよ! なんでダメなんだよ! うわぁあああああっ!!」

 どうにもならない現実から逃避するために、悔しさを紛らわせるために、俺はそうして叫び続ける。
 今の俺は悲しみに暮れる狂戦士。本棚から本が落ちてこようが、本体そのものが倒れてこようが、そんなことは関係ない。力尽きるまで暴れ続けるのだ――

「……何やってんの、かいにぃ」
「うがぁああ……って、うぇぇ!?」

 目が回って変なテンションになっていた俺の耳に入ってきたのは、冷ややかな少女の声。俺一人しかいない部屋で聞くはずのない音であった。
 伏せの上体でびたっと静止し、相手の顔を確認してから問う。

「か、花音かのん!? お前なんでここに!?」
「……別に。暇だったから来ただけ」

 冷や汗だらだらの俺をジト目で見つめる少女――従妹いとこである静宮しずみや花音かのんはそう言った。
 とりあえず俺は立ち上がって、ぽんぽんと服についたほこりを払う。

「暇だったからって……どうして断りもせず俺の部屋に入ってきてるんだよ……」
「鍵がかかってなかったから」
「犯罪者みたいなこと言ってんじゃねえ。空き巣かお前は。せめてチャイムくらい鳴らせよ」

 動揺を隠しながら尋ねると、真顔でとんでもないことを言ってのける花音。
 っていうか、不法侵入なのだから、みたいではなく思いっきり犯罪者だ。アウトである。
 ……いや、まあ、親族相手に不法侵入がどこまで適用されるのかは知らないけど、多分鍵をあげてない相手だったら罪になるよな?

「あのなぁ、女子高生が簡単に一人暮らしの男の部屋なんかに簡単に入るなよ。お前可愛いんだから、何かされちまってもおかしくはないぞ?」
「何かするの?」

 呆れながらも割とまじめに忠告をすると、花音は純粋な瞳で聞いてきた。

「いや、そりゃ俺はしないけどなぁ……!」
「なら問題ない。凱にぃ以外の人の家に行ったりはしないから」

 そんなことを言いながら、無防備に俺の椅子に座る花音。

「……それよりも凱にぃ。今私のこと可愛いと言った?」
「え? ああ、まあそうだけど、それがどうしたのか?」

 俺をまっすぐ見つめ、なにやらシリアスな雰囲気で問うてくる花音に、少したじろぎながらもそう返す。
 実際、親戚の贔屓目を抜いても、花音はかなり可愛い。
 少々釣り目がちで冷たい印象を与えるが、しっかり整っている目鼻立ち。艶やかな黒い色の髪の毛。色白な肌に、引き締まった脚や腰。160cm超えの女子にしては少し高い身長もあいまって、スタイルは抜群だ。
 まあ、可愛いというよりは綺麗という方がしっくりとくる感じだが……あ、もしかして。

「可愛いっていうのが嫌だったか? 花音大人っぽいもんな、気に障ったなら悪い」
「……いや、大丈夫。なんでもない」

 花音は首を横に振って否定する。
 なんでもないなら何で聞き返したんだよ。女子高生の考えることは良く分からんな。
 ……ふぅ。さて。

「ところで、あのぅ、花音」
「なに?」
「えーとですね。……お前、いつからここにいた?」

 焦りながらそっと聞いてみる。
 すでに痴態を晒している事に変わりはないが、どこからだったかによって俺のダメージの度合いは変わってくるのだ。

「凱にぃが鼻歌を歌ってそわそわしながらパソコンを開いた時から」
「めっさ前からじゃねえか!?」

 平坦な口調で死刑宣告。
 パソコンを開いたときということは、画面を見て叫び始める十分くらい前である。逆になんで声かけられるまで気づかなかったんだよ俺。

「すごい楽しそうだったから、声かけづらくて」
「そこは気を遣わず来訪を教えてほしかったなぁ!」

 しおらしいことを言いつつも、まったく申し訳ないとは思っていなそうな声色の花音。
 どうやら醜態の一部始終を完全に見られてしまったらしい。マジで気づけよ過去の俺ぇ。

「それで、凱にぃ。結果はどうだったの?」

 崩れ落ちる俺に追撃を仕掛けるように尋ねてきた。

「なあ、ずっと俺の姿見てたなら、聞くまでもなさすぎねえかそれ」
「…………」
「やめてぇ!? そこで無言になるのやめてぇ!?」

 花音は何かを察したような表情を浮かべ、やさしげな微笑をたたえながら沈黙した。
 さっきの俺の姿を思い出してドン引いたのか、それとも同情して気遣っているのかは分からないが、どちらにしろライフを削られる。城○内の命がいくつあっても足りない。

「……まあ、この有様だよ。笑うなら笑え」

 ため息をつきながら、俺はパソコンの画面を開いて花音に見せた。
 そこに表示されているのは、FM文庫大賞の運営から送られてきた、自作のラノベの審査結果と忌々しい落選の文字。

「……そう、ダメだったんだ」
「ああ、いつも通り、一次選考落ちだよ」

 はは、と自嘲気味に笑う。

「FMめ、この俺を簡単に落とすとはなんて見る目のない……。そんなんで編集の仕事が務まると思ってんのか!」
「凱にぃ、それ他の文庫にも言ってた」
「ああ、そうだよ。稲光文庫も、ソックス文庫も、府市見もラララもGUもオガラも、どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ!」

 花音の冷たい視線に答えるように、半ばやけくそ気味に叫ぶ。

「凱にぃこそ、編集さんの悪口ばかり言ってアドバイスは取り入れてない……。そんな状態じゃ作家になるなんて夢のまた夢」
「ぁぐはッ!!」

 小さな口から出た完全な正論が、俺の腐った根性にクリティカルヒット。
 特に最後の一言は、ただの音のはずなのに、物理的攻撃力を持っているかのように俺の心にダメージを与えてきた。
 俺は頭を抱えて、呻くように口を開く。

「……このままじゃダメなんてことは、分かってるんだ。とっくに分かってるんだよ……」
「ならどうして直さないの?」

 花音はその大人っぽい容姿に反して、無垢な輝きを放った目で聞いてきた。
 ……なぜ直さないかって? それはな、それはなぁ……。

「……できないんだよ。俺だってなんとか変えようとしている。だけどなぁ、何をどう直せばいいか、全く理解できないんだ」
「……奇想天外をやめろって書いてある」
「奇想天外って何だよ。なにかしら目新しいものがないと、受賞なんて狙えねえだろ!」

 どうせあれだろ? 平坦なストーリーにしたら『テンプレ的でオリジナリティを感じませんでした』とか言うんだろ?
 俺知ってるもん。実際に言われたことないけど。

「……やりすぎってこと、じゃないの?」

 首をこてんと傾ける花音。

「簡単に言うなって……。どこまでが許容範囲でどこからがアウトなのかなんて、全然わかんないんだよ。本当あいつら、ちゃんと具体的に言わねえから」
「万年一次選考落ちの凱にぃなんて、審査員からしたらアウトオブ眼中。わざわざ細かく教えてあげる義理はない」
「ぎゃぁああああああ、やめてぇええええええええ!!」

 花音の唐突な口撃に、耳を塞ぎながら絶叫する。
 あー、あー、聞こえなーい。現実なんて目に入らなーい。……ぐすん。

「……よしよし」

 落ち込んで涙ぐむ俺の姿を哀れんだのか、爪先立ちになって俺の頭をなで始めた花音。
 ……なんだろう、この敗北感と安心感と罪悪感がごちゃ混ぜになった気持ち。

「……凱にぃがライトノベルを書き始めたのはいつ?」

 戸惑いながらも花音の柔らかな手を堪能していると、そんなことを聞いてきた。

「中学二年生から、だけど?」
「今は何歳?」
「じゅ、19歳」

 急にどうしたのだろうか。そんなこと確認するまでもなく花音も知っているはずなのだが。

「何回新人賞に応募した?」
「え? た、たぶん50回くらい」

 そのまま続けて放たれた言葉は、これまでと少し毛色が違っていた。

「何回一次選考落ち?」
「ふ、ふぇええええ」
「……何回?」
「ふぇぇぇ」
「…………」
「……全部です」

 なんだこれ。俺の心を砕きに来てるの?
 もしそうだとしたら、効果抜群すぎて四倍ダメージ食らってるからすぐにやめてほしいなぁ。
 うなだれていると、花音は俺の頭をなでる手を止め、椅子に座りなおした。

「落ちるたび、毎回同じアドバイス言われてる」
「まあ、そうだな」
「なら、なんで学習しない?」

 一撃必殺。凱士かいとは死んだ。

「い、いや、あのね? 個人的に、一応ちょっとずつマイルドにしてるつもりなんですよ?」
「結果が出ないなら意味ない」
「ですよねー」

 悔しいけど、何も言い返せない。
 実際花音の言うとおりで、俺がどう工夫しようが、評価が変わらないのなら意味がない。……とは言っても、現状俺にできる全てをつぎ込んでいるわけで。

「まあ、愚痴なんか言ってる暇があるなら、書きまくって上達するしかないよな」

 そう零すと、花音はうんうんとうなずいてくれる。

「どんなことであっても、目標への近道は努力だけ」

 ただの女子高生が何知ったような口きいてんだと思ったけど、突っ込んだら言い負かされる気しかしないので黙っておく。

「ああ、そうだな。そうと決まったら早速、次の小説を書き始めるか!」

 俺はそう宣言した後、腕をまくって、机の上のパソコンに手を伸ばした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...