読者がたった一人でも 〜万年一次選考落ちの俺のラノベを、従妹の少女だけは褒めてくれる……なんてことはなく、いつも無言で読まれます〜

宮野遥

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第二話 俺と従妹

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「その前に、凱にぃ」

 せっかくやる気が湧いてきた俺を止める花音。
 出鼻をくじかれてがっくりときつつも、「どうした」と返事をする。

「この小説、私にも読ませて?」

 花音は、画面の評価シートを指さして言った。

「あ、ああ、別にいいけど、こんな評価をされるような出来だぞ?」
「大丈夫。凱にぃの酷さには慣れてるから」
「ナチュラルに罵倒するのやめてくれない!?」

 何度も言うけど俺のライフはとっくに0だから。そんな追撃しても意味ないから。
 涙目になりながらも、Wordを起動して小説のページを開く。

「ほら、存分に読みたまえ」
「うん、ありがとう」

 花音は俺にお礼を言った後、食い入るようにパソコンの文字をたどり始めた。

「…………」

 集中して読んでいる花音。
 落選した小説を見せるのはいつものことなのだが、やはりいまだに気恥ずかしいものがある。自分の性癖を思いっきり晒してるんだもんなぁ。

 ……さて、俺はどうしていようか。
 メインの執筆用機械であるPCは取られてしまったが、スマートフォンはあるので、小説を書くということもできる。
 ただまあ、隣で読まれている状況なのだ。面白いと思ってもらえているかが心配で、集中して書くなんてできない。
 気が散って中途半端な内容になると推敲が面倒になるから、今はやめておくか。どうせ花音が読み終わるまで二時間もないだろうし。

 今回FM文庫大賞に応募した俺のライトノベル『紅と蒼魔のレクイエム』は、いわゆる異世界が舞台ハイ・ファンタジーの小説だ。
 封印から目覚めた孤高の吸血鬼の主人公が、人間の間では忌み子とされる蒼い髪をした少女と出会った所から始まる、王道バトルストーリー。
 見所は、中盤まで圧倒的な力を誇っていた主人公が、ドラゴンにボコボコにされて心が折れる場面だ。それまで主人公に辛く当たっていたヒロインが一気にデレデレになって、その姿に癒された主人公が愛の力でドラゴンを撃破する。
 その手に汗握る激闘は、SA○のヒース○リフ戦に勝るとも劣らないと自分では思っているくらいに良く書けた。
 やっぱり、もともとラスボス用に考えていた相手であるドラゴンを先に出したのが良かったのかな。迫力すごいもんなぁ。
 その分、ドラゴンのいないラスボス戦は少し微妙になってしまったのだが、そこはダイジェスト風にカットして主人公とヒロインの結婚式の場面に飛ばしておいた。あれは我ながら英断だった。つまらないラスボス戦をやるよりも、主人公とヒロインが十二人の娘に囲まれて幸せに過ごしている姿を描くほうが、読者も嬉しいだろうからな。
 うん、こうして振り返ってみると、とても素晴らしい作品である。
 ……なぜか一次選考で落とされたけど。
 いや、本当なんで落とされたんだろう。あんなに面白いのに。

 首をひねりながら何十分も延々と審査員への悪口をつぶやいていると、花音のマウスを操る手が止まった。どうやら読み終わったらしい。

「………………」

 無表情かつ無言でうなずいている花音。俺の小説を読み終わった後、彼女が毎回やる仕草だ。

「それで、その……どうだった?」

 緊張気味に問うと、

「……いつも通りだった」

 褒めてるのか貶してるのか分かんないコメント来た。
 ……いや、さっき酷いとか言ってたし、貶してるのかなこれは。
 うん。せっかくぼかした感想にしてくれたわけだし、藪蛇にならないようにこれ以上は突っ込まないでおこうか。

「それじゃあ、小説を書きたいから、ちょっとどいてもらっていいか?」
「うん、わかった」

 聞き分けよく椅子から降りる花音。
 椅子に座って背伸びをし、執筆のために気合を入れていると、後ろから「ぐぅ~」とお腹が鳴る音がした。

「あー、腹減ったか。もう十二時だもんな。昼食にするか」

 時計を見てから、花音にそう言うと、

「……なんのこと?」
「へ? いや、今お腹が鳴って——」
「なんのこと?」
「あ、はい、なんでもないです」

 俺氏、花音の威圧に屈する。

「そ、それじゃあ、新作に取りかかるとするか!」
「……その前に、お昼ご飯」
「えぇ!? いや、だってさっきお前」
「お腹が鳴ってないって言っただけ。空腹じゃないとは言ってない」

 ――くぅ~

「……とにかく、お昼ご飯」

 空気を読まない二度目の腹鳴に、赤面しつつそう言う花音。

「はいはい、かしこまりました。って言っても、今家にカップラーメンくらいしかないけど、それでいいか?」
「大丈夫」

 花音はこくんとうなずいて、食卓の座布団に座った。
 俺はカップ麺の容器を少し開け、沸かしておいたお湯を入れる。二つ目も同じようにして、テーブルに置いた。

「……さすがにこれだけだと味気ないよな。確か冷蔵庫に少し野菜残ってたはずだから、サラダでも作るか」
「なくていい。要らない」
「いや、でもほら、何か女子高生の間で流行ってるんじゃねえの? 野菜スティックを生で食べる的な」
「そんなことをするのは異世界人だけ。流行るなんてありえない」
「お前の中では異世界って身近なんだな」

 頑なに野菜を拒否する花音は、すっと立ち上がり俺の前に来て、冷蔵庫までの道を塞いだ。
 そこまでやるかおい。

「そういえば、花音って野菜苦手だったなぁ……」
「別に嫌いじゃない。普通に食べる」
「まあ、確かに出されたものは普通に食ってるけど、お前バイキングとかじゃ絶対野菜取らないじゃねえか」
「……気のせい」

 目を逸らしながら否定する花音。
 昔から花音は野菜嫌いで、今でこそ食べるようになったものの、苦手意識は消えていないようだ。

「ほら、ここに来るたびに栄養偏った食事摂らせてたら、俺が早苗さなえさんに怒られちゃうだろ?」
「……大丈夫。お母さんには適当なメニューを言っておけば問題ない」
「実の母親を騙すなよ。早苗さん、怒ると怖いんだから、マジで下手に刺激するのはやめてくれ。お前だってあの地獄を味わいたくはないだろ?」

 花音の母親で、俺の叔母である静宮しずみや早苗さなえさんは、基本的におっとりとして優しい人だ。だが、一度怒らせると手がつけられず、俺も花音も幾度となく死ぬほど怖い目にあっている。

「……くっ、仕方がない、好きにするがいい。だが、そんな脅しで私の心まで自由にできるとは思うなよ……っ!」
「何で女騎士チックなんだよ。俺がオークみたいに醜い男だって言いたいのか、あ゛?」
「……さすがにそんな裏の意味は込めてない。凱にぃ被害妄想激しいよ」

 花音にドン引かれた。
 いやまあ、自分でも今のリアクションはちょっとあれだなぁって思ったけどさ。

「……さっき落選知ったばかりだから、まだ自分のことを全否定された気分から抜け切れてないんだよ」
「あぁ、いつもの……。凱にぃご愁傷様」

 一次選考で落とされたとき、毎回俺は錯乱モードになってからネガティブモードに移行する。
 自分の子供のように大切に思っている作品が、出来損ないだと判断されたのだ。怒りもするし、悲しくもなる。
 大体三日くらいはそれに引きずられてマイナス思考気味になるので、その期間内はあまり人と接触しないようにしていた。今日みたいな突発的な遭遇は例外だが。

「悪いな、変なテンションで。……って、そんなことはどうでもいいんだ。野菜野菜っと」

 優しい目で見つめてくる花音に気恥ずかしさを覚えつつも、横を通って冷蔵庫の前に行く。そして、しゃがんで小さめの冷蔵庫を開けると――

「あ。ごめん野菜切らしてた」
「えぇっ!? ……え。えぇえええ!?」
「あっはっは、残ってると思ってたんだけどなぁ。気のせいだったわ、悪い悪い」

 いつもなんだかんだ冷静な花音が取り乱している。これはだいぶレアな光景だ。
 これは是非とも脳内に焼き付けておかねば。

「何だったの、今までの問答……」
「いやぁ、無意味だったなぁ。……でもまあ、時間つぶしにはなったし、ほら。もうそろそろ三分だろ?」
「それはそうだけど……釈然としない」

 少しむくれたような表情になりながら、再び座布団の上に腰を下ろす花音。
 それを横目に見ながら、二人分の箸を持ってきて食卓に乗せた。
 花音がここに来る頻度がかなり高いせいで、なぜかうちには花音用の箸が存在していたりする。つまり俺はいつでも女子高生の使用済み箸を舐めることができるのだ。……いや絶対しねえけど。

「それじゃ、いただきまーす」
「いただきます」

 食前の挨拶をした後、すぐに花音は食べ始めた。勢いよく麺を吸い込んだが、猫舌なのではふはふ言っている。
 本当、見た目に比べて言動が子供っぽいよな、こいつ。無駄に冷静ではあるけれど。
 まあ、まだ高校生だもんな。そんなもんか。…………ん? 高校生?

「お、おい花音!」
「どうしたの?」
「お前、学校行かなくていいのかよ!? まさか、登校拒否してここに来てるんじゃないだろうな!?」

 最初が最初だったのですっかり頭から抜け落ちていたが、今は思いっきり授業をしているはずの時間である。
 あれ、これやばくね? もし学校に行く振りしてここに来てるとかだったら、あとでそれを知った早苗さんの怒りを想像するだけでやばたにえん。
 血の気が失せていくのを感じながら、大慌てで花音に問いかけると、

「凱にぃ……。今日日曜日だよ……?」
「え……あ……あっ! そ、そうか」

 花音のジト目が突き刺さってくる。

「いくら凱にぃが引きニートで曜日感覚が狂ってるっていっても、さすがにそれはまずい。本当に大丈夫?」
「うっ……。ひ、人のこと引きニートとか言うなよ! 傷つくだろ!」
「事実」
「ま、まあ、それはそうだけども!」

 事実とは、時として残酷なものである(白目)。
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