読者がたった一人でも 〜万年一次選考落ちの俺のラノベを、従妹の少女だけは褒めてくれる……なんてことはなく、いつも無言で読まれます〜

宮野遥

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第三話 ラブコメディ

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 俺、鳥羽とば凱士かいとは、ずっと言っているようにライトノベル作家を目指している。俗に言う『ワナビ』だな。日夜ラノベを書き続け、それを様々な文庫の新人賞に送りつける毎日だ。
 ……で、まあ、いつも一日中ラノベを書いているということは、つまり学生でも社会人でもないということで。
 要するに、高校を卒業してからは、アルバイトすらしていない完全な無職であるのだ。
 親から仕送りしてもらっている金で、ワンルームマンションを借りて一人暮らしをしている。……うん、分かってるよ。俺クズだよな、本当。
 そういえば、早苗さんにマジギレされた一番新しい記憶は、俺が進学も就職もせずにラノベ作家を目指すと宣言したときだったっけ。
 しかも、こんな立場になっておいて、プロになれる目処は一向に立たないんだもんなぁ。よく両親から見捨てられてないな、俺。もし自分の子がこんなんだったら、即座に勘当してる自信あるぞ。

「……せめてバイトくらいはしたほうがいいのかな」
「普通に考えたらそう……だけど、あの伯父さん伯母さん相手だと、そうは言い切れない」
「……まあ、それもそうだよな」

 こんな息子なのに、両親から見捨てられる気配がない。それはつまり、ありえないくらいに溺愛されているということを意味する。

「あの二人だと、もし凱にぃが働こうとしたら、『凱ちゃんが働くなど言語道断。好きなことだけして生きてなさい!』か、『凱ちゃんが働かないといけないほど、うちの家計は貧しくないよ。だから、働くなんて言わないで!』って言って止めそうな気しかしない」
「全く否定できないのが、嬉しいというか困るというか」

 俺の両親は限界を超えた親バカであり、その甘さっぷりは常識で測ることなどできはしない。マジで俺、怒られたことねえもん。
 その分早苗さんに叱られたりしてたから、一応人格はそこまで歪んでないと思ってはいるのだが。それでもやはり、あの甘さに頼りっきりになってしまっているという事実は否めない。

「少なくとも、あの甘さは確実に凱にぃを駄目にしてると思う」
「……うん、まあ、それはそうかもなぁ」

 遠い目をしながら答える。
 本当にありがとうな、母さん父さん。いつか必ず恩返しするから。

「それはそうと、凱にぃの次の小説はどんなジャンルになるの?」
「ん? ああ、一応ラブコメにしようかなと思ってる。最近はバトル系ばっかだったからな」

 一番好きなジャンルであるファンタジーバトルも、流石にずっと書いていたら飽きてくる。そのため、俺は定期的にラノベの二大ジャンルのもう一つであるラブコメディを書くようにしていた。

「そ、そうなんだ……!」

 俺の返答を聞いた後、なぜか微妙に嬉しそうな表情になり、明るい声で返事をする花音。

「あれ、お前、ラブコメ好きだったっけ?」

 そう聞くと、花音は一瞬ちょっと困ったような顔になってから、

「……幼馴染がメインヒロインのは結構好き。ずっと思い続けてたのが報われるのは、嬉しいから」
「……うん、なんだろう、なぜかすごい罪悪感が」

 俺があまり書かないジャンルだからか、申し訳ない気分になってくる。
 今時、全くとは言わないけど、基本的に幼馴染エンドのラノベって少ないもんなぁ。ニーズはあるんだろうが、他のものが結構多い。

「妹系はどうなんだ? ある意味その亜種とも言えそうだけど」
「場合による。義理の兄妹だと微妙」
「ああ、確かに義理だと昔から一緒ではないパターンがあるか。……考えてみれば、血の繋がった兄妹って最強の幼馴染なんだな。生まれた時からずっと一緒なわけだし」
「でも、それだと結婚はできない」
「おお、まあそりゃそうだな。あの京○兄貴でさえ、その壁の前には膝を屈したんだもんな。……そう考えると、本物の兄妹のように育ちつつ血は繋がっていない姫○路兄妹のパターンが最強なのか?」
「あれはあれで犯罪チックだから……兄妹よりも一歩引いた関係であり、法律的にも何も問題がない従妹が一番」
「なるほど。従妹がメインヒロインってあんまり聞かねえけど、そう言われてみるとありだな」

 花音の言葉に感心してうなずく。
 ラノベで従妹がメインヒロインっていうのは本当に聞いたことがないから、斬新なアイディアとしてもいいかもしれない。純粋に俺が不勉強で知らないだけかもしれないが。

「……そう。従妹は最強。神。ぽっと出の同級生ヒロインなんかより数億倍魅力的」
「お、おう。億までいくか。俺は同級生も嫌いじゃないんだけどな、某冴えない彼女ヒロインとか可愛いし」
「従妹のほうがずっと良い。これからの凱にぃのラノベヒロインは、全て従妹にするべき」
「そこまで推すの!? ま、まあ新作はそうしてもいいんだけど……いやでもなんか複雑だな。実際に従妹がいる身でやると、倫理的に問題があるような気が……」
「大丈夫、私は気にしないから存分に従妹とイチャイチャする話を書いて。 なんなら、現実でも従妹をヒロインにして構わない
「……え? 悪い、最後のほう声が小さくてよく聞こえなかった。もう一回言ってもらっていいか?」
「……大したことじゃないから気にしないで」
「あ、ああ、お前がそう言うならいいけど……」

 マジで大丈夫なのかな? 花音が許したとしても、もし俺が従妹たんhshsなラブコメを書いたということを早苗さんに知られたら、最悪の場合マミられることも覚悟しておかないと。
 いや、でもやっぱりいいアイディアだもんなぁ。自分の中では従妹をヒロインにしたいという気持ちが膨れ上がっている。創作者志望としては、この欲求を形にするのが吉か。

「よし、次のメインヒロインは従妹でいくぞ!」
「全力で応援する。頑張れ」

 花音から心強い宣言をもらった所で、俺たちはカップラーメンをほぼ同時に食べ終わった。

「っぷはぁ、ごちそうさまー」
「ごちそうさま」

 笑顔で箸を置く花音。

「……たまにはこういう食事も悪くない」
「毎日だと飽きが来るけどな」

 満足げにお腹をさする花音の姿を横目に、俺はカップ麺の容器と箸を台所に持って行く。
 適当に洗ってから容器はゴミ箱に捨て、箸は水分をふき取って食器棚の中に入れておいた。

「それじゃあ、凱にぃは今から小説を書くの?」
「いや、先に『紅と蒼魔のレクイエム』をネットに投稿しようと思ってる」

 俺は毎回必ず落選した作品をウェブ小説として公開することにしている。たまに……まあ叩きも多いけど、「面白かったです」みたいな感想をもらえたりするし、何よりもしネットで人気を博すことができれば書籍化されることがあるのだ。一度落ちた作品だろうと、まだ完全に本にするのを諦めたわけではないのである。

「そうなんだ。……私はもう帰るから、執筆頑張って」

 まだ来てから3時間くらいしか経っていないが、何か予定でも入っているのだろうか。
 花音は座布団から立ち上がり、そう言って帰る支度を始めた。……まあ、荷物も何も持ってきていないので、服装を整えているだけだが。

「おう、そうか。じゃあ、気をつけて帰れよ」
「うん。今日はありがとう」

 花音は玄関に行って靴を履き替え、「またね」と言ってドアを開けた。
 俺はそれを手を振りながら見送り、花音がマンションの外階段を下りていくのを確認してから、部屋に戻る。

 そして、背伸びをしながら椅子に腰掛けた。

「さぁて、書きますか!」

 まずは『レクイエム』の改稿作業だ。公募用からネット用に少し文章の構成を変えなければいけない。
 今の俺はなんとなく絶好調な気がするので、一気に書き進めることができるだろう。っし、頑張るぞ!
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