読者がたった一人でも 〜万年一次選考落ちの俺のラノベを、従妹の少女だけは褒めてくれる……なんてことはなく、いつも無言で読まれます〜

宮野遥

文字の大きさ
4 / 11

第四話 電話

しおりを挟む
「うがぁああああああああ、書けねぇええええええええええッ!!」

 FM文庫から落選の知らせが届き、花音が俺の部屋を訪れた日の翌日の午前七時。
 俺は椅子の上に足を乗せ両手で頭を抱える、うずくまった体勢で咆哮していた。

「グゥゥゥゥ、ぅああああああああああああああああああ!!」

 思い通りに動かない手に対して抱いた憤りを、喉から出して獣のような叫びに変える。
 ……そう。俺は、あんなにもモチベーションを上げて全力で書くと誓った昨日の昼から、一文字たりとも新作の執筆を進められていないでいた。
 ……おい誰だ今そこで即落ち二コマとか言った奴。こっちは必死なんだよ。ぶっ飛ばすぞ。

「……えーと、ここをこうして……、あぁぁぁぁ……ダメだ、全然ダメだ……」

 そんな状態でも何とか頭を働かせて考えたヒロインのイメージを、しかし一瞬で脳内ゴミ箱に破棄した。全く納得がいく出来には持っていけておらず、文章に書き留めるまでもなく良いキャラにはならないと分かってしまう。
 更に試行錯誤してみるが、どうしても魅力的なキャラクターにすることが出来ない。

 昨日、花音が帰った後、俺はすぐに『紅と蒼魔のレクイエム』の改稿作業に取り組んだ。そして、それは予想をはるかに上回るくらいにすらすらと進み、夕飯前には終わらせて小説投稿サイトに予約投稿することができていた。
 そう、順調だったのだ。
 落選したあとは大抵何日間かまともに執筆することが出来ないくらいに心がやられるのだが、可愛い従妹と会話をして癒されたのだろうか。ありえないほどに進む筆。『もしかして俺って天才なんじゃね? 遂に覚醒しちゃった? もう川◯礫とか渡◯とか敵じゃねえわこれw』そんな勘違いを抱いてしまうほどの快調。
 正直に言おう。俺は調子に乗っていた。
 ……だが、そんな俺の伸びきった鼻は一瞬で元に戻る、どころか、縮みすぎて顔がへこんでるんじゃねってくらい落ちていくことになる。

 ――ヒロインが、可愛く書けない。

 新作であるラブコメのメインヒロイン。主人公の従妹の設定を、どうしてもうまく作れないのだ。
 既存のどの属性を当てはめたとしても、何かが違うような、そんな感覚に襲われる。
 原因はおそらく花音だろう。花音という実在する少女が、俺の中で従妹の代名詞となっているせいで、他のタイプの性格を従妹と結び付けられなくなっているのだ。
 とは言っても、さすがに花音の性格をそのままキャラクターにするわけにはいかない。そんなことで花音に嫌われたくはないし、早苗さんに殺されたくもないのだから。

「やっぱ、才能ねえのかなぁ」

 頭の回転を止めて、そんなことを一人呟く。
 才能。俺は自分にそれがあると信じてはいるのだが、毎回毎回一次選考落ちしているとなると、やはり考えないわけにはいかないのだ。
 もしかしたら、俺は凡才なのかもしれない。……いや、その程度の才能すらもなく、底辺のゴミクズなのかもしれない。
 最初からずっと成長できてないのだ。自分的には気をつけた点も全く評価されなかったり、逆に貶されたり。ネットでの評判はどんどん下がっているような気がする。
 あー、そっか。俺には才能がないのか。

「もう、作家目指すのやめようかな……」

 やはり、そんな馬鹿な夢は抱かず、今からでも就職活動を始めてみるべきなのだろうか。ああ、どこかの大学に入るっていう手もあるかもしれない。
 そもそも、なんでラノベ作家なんて限られた天才しかなれないような職業を目標にしてしまったのだろう。少し考えれば無理だということなどすぐに分かるはずなのに。
 こんな思考を始めてしまったらお終いだ。そう分かってはいるのだが、それでもネガティブになっていくのを止められない。
 潮時、なのかな。

 ――プルルルル

 泥沼にはまっていると、唐突にスマホが鳴り始めた。
 画面を確認すると、静宮花音と表示されている。
 とりあえず電話に出て、耳元にスマホを当てた。

『おはよう、凱にぃ』
「おう、おはよう」

 スピーカーを通して聞こえてくる可憐な声に、幾らか癒されながら挨拶する。
 このタイミングで電話か。ちょうどいい、少し相談してみようかな。

「なあ、花音。俺ワナビやめようと思ってるんだけど、どう思う?」
『…………。えっ?』

 俺の言った言葉が理解できていないかのような反応をする花音。

「いや、やっぱどう考えても俺才能ねえし、プロになんてなれっこないんだから、もう続けても意味ないかなって」
『……ああ、ネガティブモード。どうせ明々後日には黒歴史になるんだから、そういうこと言わなければいいのに』

 補足すると、ため息とともにそんな返答が来た。

「いやいや、今回はいつもと違ってガチだぞ? なんなら、今から親にその報告をしようかと思ってたくらいだし」
『絶対後悔するからやめておいたほうがいい』
「それを言うなら、ただいま絶賛後悔中だぜ。アホみたいな夢のために数年を無駄にしちまったんだからな」
『……無駄なんかじゃない、と思うけど』
「いーやぁ、無駄だろー。俺って才能ないんだから。ストーリーの構成は甘くて、変な方向に話が飛んでいっちゃうし、キャラには魅力のかけらのない上に全然活かせないし、そもそも基盤となる文章力がゴミだし。あー、改めて考えると、俺本当ゴミだなー。あははー」
『……ほんとだ。いつもと違ってガチだ……』

 自分で言ってて悲しくなっていると、電話口の向こうから本気で引いている気配が。
 流石にやりすぎだったか。……でも、これが今の本心だ。それだけは変えようもない。
 少しだけ後悔していると、花音が話題を変える。

『だったら凱にぃ、気分転換に遊園地行かない?』
「遊園地……?」

 急にどうしたのだろうか。遊園地が連想されるようなことを言った覚えはないのだが。
 首を傾げていると、花音が理由を告げた。

『お母さんが、知り合いからディスティニーランドの一日無料券を二人分もらってきたから』
「……へぇ、早苗さんが。まあ、別に構わないけど、いつ行くんだ?」
『今日』
「今日!? いやお前今日は普通に学校あるんだろ!? まさか今度こそ本当に登校拒否するつもりか!?」

 そこまで遊園地に行きたいのかとびびりながら聞くと、

『……今日は他クラスで研究授業があるから、私は午前授業で終わり。午後はフリー』

 と冷静な声で返ってきた。
 なるほど、学校ってたまにイレギュラーな短縮があるんだったな。一年前まで学生だったはずなのに忘れてたわ。

『もともと昨日はそれを誘いに凱にぃの部屋に行ったんだけど、落選後の凱にぃの動きのインパクトがすごすぎて頭から抜け落ちてた』
「ら、落選後の動き? な、何のことかな?」
『床ゴロゴロ』
「…………」
『駄々っ子みたいで面白かった』
「俺が悪かった。頼むからそのことを掘り返すのはやめてくれ」

 そのままのトーンで俺に口撃をしかけてくる花音に、情けなく返す。……いやだって仕方ないじゃん。あの時はああやって叫びたい衝動に駆られたんだよ。

『……それじゃあ、今日の十三時にディスティニーランド前の広場で集合』
「おう、分かった」
『またね』
「ああ」

 別れの挨拶の後、ぷつんと切れた電話。
 ……遊園地か。ニート生活では一切縁がないものだし、たまにはそういうのもいいかもな。

 んじゃあ、花音と話をして若干モチベーションも上がったことだし、時間になるまでは一応新作の構想を考えてみるとするか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...