読者がたった一人でも 〜万年一次選考落ちの俺のラノベを、従妹の少女だけは褒めてくれる……なんてことはなく、いつも無言で読まれます〜

宮野遥

文字の大きさ
8 / 11

第八話 ヒロイン

しおりを挟む
「え……?」

 驚いたように固まる花音。

「いくつもヒロインのキャラ設定は作ってみたんだけど、どれもしっくりこなかったんだよ。……俺にとって、可愛い従妹っていうのはお前以外にいないからさ」
「……っ!? ぇ、ぁ、ぁう、ぇぁ!?」

 花音は、鯉のように、真っ赤になって口をパクパクとさせる。

「絶対に最高の作品にするから。お前を、俺のヒロインにさせてくれ!」
「~~~~っ!? ~~~~~~っ!!」

 誠心誠意、心を込めて嘆願すると、花音は言語化できない叫びをあげた。
 目元は潤んで、耳まで赤く染まっている。普段は絶対に見せない顔だが、今日はよく見るなぁ。
 ……それもまた、どうしようもなく可愛くて。

 ああ、やべえな。気を抜くと、本気で惚れてしまいそうになる。
 絶対にダメだとわかっているのに、甘い誘惑が手招きをしてくる。

「凱にぃ……」

 とろけた表情。それはとても妖艶で、抗いがたい魅力を持っていた。
 思わず、桃色の唇に目がいってしまう。
 ……落ち着け、俺ぇ! ここでキスなんてしてみろ。花音に性犯罪者みたいな目で見られた上で早苗さんに通報されること間違いなしだぞ!
 踏みとどまれ、踏みとどまるんだぁ!!

「いい、よ……?」

 うわぁああああああああああ!!
 鼓膜をくすぐる甘ったるい囁きがぁ! 俺の心を溶かしていくぅ!
 まずい、このままでは——


「ご利用、ありがとうございました!」


「うぇっ!? あ、はい!」

 ふいに花音がいる方の扉が開き、その先にいる係員から声がかかった。
 どうやら、話したりしている間に一周回ってきてしまっていたらしい。

「お、降りるぞ、花音」
「う、うんっ」

 お互いに赤面しつつ、慌ててゴンドラの外に出ていく。

 恥ずかしくなって早足で観覧車のエリアから離れていくと、後ろからチッという舌打ちが聞こえてきた。
 驚いて振り返ると、そこにいたのは営業スマイルの係員さんだけ。
 …………。
 ……俺は聞いてない。にこやかな笑顔から飛び出した「◯ねやリア充が。見せつけやがって。勝手に家でやってろ猿ども、◯すぞ」なんて言葉、俺は聞いてないからな!

 とりあえず俺たちは観覧車に来る前にいたベンチに戻り、腰を落ち着けた。
 俺の左に座ってうつむいている花音に、なんて言えばいいのかは分からなかったが、沈黙よりはマシだろうと勢いで口を開いた。

「あー、なんというか、その、……結局景色見れなかったな」

 ……もっとなんか言うことなかったのか、俺。
 ああ、ダメだ。最適解とか全然わかんねえ。人生経験が少なすぎる。
 何もできずにあわあわしていると、花音はうつむいたまま、

「なんで……そう、思ったの……」
「え?」

 え、ど、どういうことだってばよ? 見れなかったって思ってるのは俺だけで、本当はちゃんと景色を見れてたってこと? それは違うよ!(セルフ)
 混乱していると、花音は補足するように次の言葉を言う。

「……私を、ヒロインのモデルにって」
「…………。ああ、そういうことか」

 小声でぼそぼそと聞き取りづらいが、理解できた。
 それは一応さっき言ったはずなのだが、もっと詳しくということだろうか。

「ほら、電話の時、俺は鬱ってただろ?」
「……うん。うざかった」
「う、うざっ……!? ま、まあいいや。……えーとな、それで、その時ああなってたのは、ヒロインのキャラをうまく作れなかったのが原因なんだよ」

 トーンを変えずに返答する花音にダメージを受けつつも、説明を続ける。そっかぁ……。うざかったかぁ……。

「ツンデレやら妹属性やらポンコツやら、思いつくものは全部試してみたんだけど、どうしても可愛くならなかったんだ。……いや、もしかしたらいいキャラは作れてたのかもしれないけど、俺が可愛いと思えなかった」

 まあ、いつもは可愛いヒロインを作れているのかと聞かれると、自信はないとしか返答はできないのだが、今回はそれが顕著だったのだ。

「それってさ、何度も言うようだけど、俺の中での『可愛い従妹』のイメージが花音に固定されているせいだと思うんだよ」
「……っ! そ、そう……」

 肩をビクンと揺らして、上ずった声で相槌を打つ花音。

「だから、従妹をヒロインにした小説で最高のものを目指すなら……、最高の従妹を描くなら、花音をモデルにするしかない、そう思ったんだ」

 結構早い段階でそれを思いついてはいたのだが、花音に引かれる可能性を考えると口にはできなかった。だけど、やっぱりそれしかないのだ。観覧車の中で、そう、確信した。

「……なんて、やっぱ流石にダメだよな。気持ち悪いだろうし」

 反応が悪い花音に、忘れてくれと笑いかける。

「……よ」

 花音が本当に小さな声で、何かを呟いた。

「いいよ、凱にぃ。私をヒロインにして」
「えぇ!? マジでっ?」

 今度ははっきりと聞こえたその言葉に、驚愕し、真意を確認する。

「……観覧車の中にいる時にいいって言ったのに、聞いてなかったの?」

 返ってきたのはそんな声。
 え、そんなことあったっけ?
 人差し指で側頭部をとんとんと叩きながら思い返してみると……。

『いい、よ……?』

 ……あ、言ってたわ。
 ああ、なるほどなるほど。そういう意味だったのね。
 いやいやいや、もちろんわかってたんですよ? 誤解なんてしてませんし、邪な意味に受け取ったわけでもありませんよ?
 うん、決してキスしていいよってことだと思ってたとか、そういうのじゃないから。そもそもあれはただの俺の妄想であって……。
 …………。うん。
 花音、ごめんなさい。

 心の中で花音に全力土下座をして謝っていると、彼女は急に頭をあげて顔を俺の方に向けた。

「……とにかく、私を出していいから、そのかわり絶対面白くして」

 強い意志を持った瞳。試すような視線に、俺はふっと笑い、拳を天に突き上げ、

「おう、もちろんだ!」

 そう、宣言した。


「——それで、この後どうする?」

 数分後、とりあえず立ち上がって時計を見た。まだまだ閉園まで時間はあるので、いくつかのアトラクションを回ることができる。

「お化け屋敷、行く?」

 花音が遠慮気味に提案してきた。だが、俺は余裕のある表情で首を横に振る。

「いや、ジェットコースターに乗ろうぜ」
「っ! ……でも、待ち時間が」

 花音は一瞬喜色を浮かべたものの、そう言って否定した。
 ……ああ、確かにそれがネックだったな。だけど、今の俺は違うのだ。今ならば、時間を潰すための完璧なプランを使うことができる。

「小説を書いてれば、時間なんてあっという間に過ぎていくさ」
「凱にぃ、私はその間どうしていろと……?」

 あ、やっべ、花音のことが頭から抜け落ちていた。
 完璧なプラン(笑)。
 まずい、どうしよう。これでは花音に俺が自己中であると思われてしまう。何か案を出さなければ。

「……花音も小説を書いてみる、とか?」

 自分でもどうかと思う提案。あ、これは完全にやらかしたわ。
 白けてしまった空気に固まっていると、花音はぽかんとした後に笑い始めた。

「それ、いいかも……」
「え?」

 今、なんて言った?

「私もライトノベルを書いて、新人賞に応募してみる」
「えぇえええええええええ!?」

 まさかの急展開。え、嘘だろ? え、えぇ?

「ほら、凱にぃ、早く並ぼう」

 呆然としていると、花音は俺に向かって右手を差し出してきた。

「……えーっと? この手は……?」

 手を見つめて困惑する。
 そんな俺を見た花音は、からかうように、そして恥ずかしげに言った。

「手を繋いで、行こう?」
「……お、おう」

 突然の提案にどう返していいかわからなくなったが、一応首肯して左手で花音の柔らかい右手を握った。
 ……なんだこの青春っぽい感じ。すごいドキドキする。
 子供の時にはよく手を繋いでいたが、それとはきっと全く別の意味を持った行為なのだろう。

 俺と花音は、二人仲良くジェットコースターに向かって歩き出したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...