現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風

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第39話 働け、若人よ。

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「働けど働けど我が暮らし楽にならざり、じって手をみる……」

『石川啄木ですか』

「何でそんな事まで知ってるんだよ」

『私は大賢者の叡智システムです。高い知性を持っているのです。知らないことはほぼ無いのです』

「はい、はい、わかりましたよ」

『貧乏なのはマスターのせいでは?もっと効率の良い稼ぎ方があると思うのですが』

「このバイトは一時凌ぎだよ。俺の家計が緊急事態だったの。知っててそういうことを言うな」

『貧乏ですね』

「おい!どうせ貧乏だよ」

バイトの日給が良いとはいえ、最近の物価高で稼いでも食費や雑費で消えてしまう。

「おい!白いの。自分の手を見てねえで動け!若いうちは四の五の言わずに働くんだよ!貧乏なのは俺も同じだ。だけどなあ、働けば金は後からついてくるんだよ」

どうも、エイシスとの会話がこえに出てたようだ。
20歳前後の金髪で腕にタトゥーの入った筋肉質の兄ちゃんにそう言われた。

「はい、すみませんでした」

今回の現場は、水道管が破裂して水が漏れ出した現場だ。
早急に対処しないと地域の人達が水を使えない。

その為、現場の人達もピリピリしており、荒い口調が俺たちだけでなく、あちこちで飛び交っている。

『魔法なら直ぐに対処できるのに、大変ですね、マスター』

(使ったら怒るくせにそんなふうに言うなよ、というか、どうやって水道管を魔法で直せるんだよ)
 
『マスターは、まだあの魔法をマスターしてませんでしたね』

(そうやって、韻を踏んで揶揄うのはやめろ!また、怒られるだろう?)

スコップでユンボ(油圧ショベル)から溢れたアスファルトや土砂を掬って一輪車に積み込む。

「ほら、早くしねーと次が来るぞ」

ダンプカーがやって来て、またユンボが土砂を掬いダンプカーに載せ始めた。

「隣のガス管に気をつけろよー」

現場監督の真さんがユンボの運転手にそう話しかけた。

道路の下には、水道管や下水管、それとガス管などが埋設されている。
場所によっては、電線や通信ケーブなどもあり、慎重に掘らないと二次被害が出る場合がある。

ユンボが漏れ出している水道管付近の土砂を掬おうとした時、最悪のタイミングでこの地方に震度5の地震が起きた。

「地震だ。作業を一旦中止して安全確保しろーっ!」

現場監督の大きな声が届いたその時、地震の揺れでユンボがむき出しになっていたガス管に接触してしまった。

「ボンッ!」

現場に大きな爆発音と衝撃波が襲ったのだった。



「凄い音がしたけど何があったの?」

黒塗りの高級車の中でうたた寝をしていたその男は、その音で眼を覚ました。

「この音は、近くの現場でガスが爆発したのかもしれやせん」

運転しているのは、ガタイの良い如何にもそのスジの人とわかる人物だった。

「揺れたと思ったらガス爆発ね~~、マンガみたいな状況だわね」

「少し周り込みますが行ってみますか?」

「そうね、早く家に帰っても暇だし見るだけならね。もしかして、掘り出し物があるかもしれないし」

「うちで使えるような若い女は工事現場にはおりませんぜ」

「違うわよ。わたしに対しての掘り出し物よ。この間の子は、直ぐに壊れちゃったし、今わたしはフリーだしね」

(またかよ、勘弁してくれ)

運転手は、そう思いながらハンドルをきったのだった。

その現場近くでは、怪我を負った人達で溢れていた。

「まだ交通規制されてねえみたいです」

「本当にガス爆発みたいね。しかし、いいわねー、肉体労働者の身体って。
筋肉痛で汗臭くてきっと抱かれたらクラクラしちゃうわね」

「若の趣味にとやかく言うつもりはありませんが、若ももう28歳です。この間、頭《かしら》に言われたんすよ。組を継ぐ者として、相応しくなるようにお前がきっちり若の手綱を握れって」

「岩田、頭じゃなくて社長でしょ。それに、わたしは組を継ぐつもりはないわ。弟の雄二か妹の牡丹に婿をとって継がせればいいのよ」

「勘弁して下さいよ。頭…社長にドヤされますから」

(弟の雄二さんは、チャカが撃てねえ日本はつまんねーって言ってアメリカの海兵隊に入っちまったし、恐らく日本には戻って来ない。妹の牡丹お嬢は、探索者高校に行ってしまったし、跡取りには若しかいねーってわかっててそう言うんだからタチが悪い。
それに若は天才というか化け物なんだ。探索者になってあっという間に日本で数名のSランクになるし、頭も凄く良い。こんな人物、若以外見たことねー)

「あっ!居た。掘り出し物が」

若の好きそうな人物を探すと、

「あのタトゥーの入った若者ですか?」

「岩田、どこを見てるの?ほら、怪我した人を担いで安全な場所まで移動させてる子よ」

「まさか、あの白い髪のガキですか?」

(若、勘弁して下さい。まだ高校生ぐらいのガキじゃねえですか……)

「そう、そいつ。華奢そうな身体してるのに自分より大きな男を余裕で担いでるのよ。きっと脱いだら凄いと思う。
それに、無垢そうなのに少し陰のある顔立ちもいいわ。わたし色に染めてみたいかも」

「確かに力はありそうですが、まだ未成年ですぜ、あのガキ」

「それがいいのよ。岩田、あの男の子の素性を調べて」

「未成年はマズいです。でも、若が組を継ぐ気があるんなら調べます」

「組じゃないわよ。会社でしょ。会社なら継いでもいいわよ。だから、調べて」

「本当ですか?今度は壊さないで下さいよ」

「わかったわよ。でもね、あれは相手が悪いのよ、わたしのこと気持ち悪いんだよ、このオカマ、なんて言われて深く傷ついたのよ。だから、相手にもわたしと同じく傷ついてもらっただけなの。あの白い少年はきっとそんなことを言わないわ。だから岩田、とにかく早急にお願いね」

(この趣味がなけりゃあ、完璧なんですがねー)

その黒塗りの高級車は、救急車が後方から近づいて来たため、その場をあとにしたのだった。





「大丈夫ですかー?」

突然の爆発で、周りは怪我人だらけだ。
たまたま、俺とタトゥーの兄ちゃんはトラックの後ろにいたので被害を免れたが、タトゥーの兄ちゃんは耳をやられたらしく、今は周りの音がよく聞こえないようだ。

俺は怪我人を安全な場所まで移動させ、こっそりヒールをかけていた。

『マスター、重篤な人以外はヒールを控えて下さい』

確かに、エイシスの言うことはわかるが目の前で苦しんでる人を放っておいたら目覚めが悪い。

『わかりました。完治はさせないようにこちらで調整します』

エイシスの補助があるので、担ぎながら遠慮なくヒールをかけて運ぶ。
その繰り返しをしてる時にやっと救急車が来た。

最後のひとりは穴の中にいた気の良いおっちゃんだった。

火傷と石が飛んできて当たってできた傷が酷い。

「おっちゃん、俺の声が聞こえる?」

「うう……」

意識はあるようだが、おっちゃんも耳をやられているようだ。

デカい身体を担いで穴から出る。
その時もヒールをかけておいたので、命の危険はないだろう。

現場は、救急隊員や警察が来て大騒ぎになっている。

被害の少なかった俺とタトゥーの兄ちゃんは、当時の状況を警察官に聞かれたので説明し、念の為に病院に行くよう指示された。

「おい、白いの。お前、すげーな。みんなが無事だったのは、お前のおかげだぜ。そう言えば、名前なんだっけ?」

「御門賢一郎です」

「じゃあ、ケンだな。サンキューな。ほんと助かったわ」

『マスター、良かったですね。初めてのお友達ですよ』

(初めてじゃない、昔はいたわ……あれ、いた気がしたけど……)

小学生の時、児童館で一緒にゲームした子がいたんだ。

だけど、名前も顔も思い出せない。
あの頃の俺は、ゲーム機を持ってなくて、その子が持ってたゲーム機を借りて一緒に遊んだんだ。

あいつって誰?

『雷に打たれた時に記憶の一部が飛んだのでは?医者に行くべきですね』

(言われなくても、これから行くんだよ。今日行ったばかりなのに、ついてない)

「おい、ケン。俺たちはタクシーで病院に行くぞ」

タトゥーの兄ちゃんからそう言われて会社が手配したタクシーに乗り込む。

料金は、勿論、会社負担だ。

「そう言えば、名前教えてもらえませんか?」

「言ってなかったけ?俺は瀬戸海航平、20歳。ボクシングミドル級でいずれ世界の頂点に立つ漢だ」

こうして、変な縁でボクシングで世界を目指すタトゥー兄さんと知り合いになったのだった。

そう言えば、これってバイト代どうなんの?

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