39 / 125
第39話 働け、若人よ。
しおりを挟む「働けど働けど我が暮らし楽にならざり、じって手をみる……」
『石川啄木ですか』
「何でそんな事まで知ってるんだよ」
『私は大賢者の叡智システムです。高い知性を持っているのです。知らないことはほぼ無いのです』
「はい、はい、わかりましたよ」
『貧乏なのはマスターのせいでは?もっと効率の良い稼ぎ方があると思うのですが』
「このバイトは一時凌ぎだよ。俺の家計が緊急事態だったの。知っててそういうことを言うな」
『貧乏ですね』
「おい!どうせ貧乏だよ」
バイトの日給が良いとはいえ、最近の物価高で稼いでも食費や雑費で消えてしまう。
「おい!白いの。自分の手を見てねえで動け!若いうちは四の五の言わずに働くんだよ!貧乏なのは俺も同じだ。だけどなあ、働けば金は後からついてくるんだよ」
どうも、エイシスとの会話がこえに出てたようだ。
20歳前後の金髪で腕にタトゥーの入った筋肉質の兄ちゃんにそう言われた。
「はい、すみませんでした」
今回の現場は、水道管が破裂して水が漏れ出した現場だ。
早急に対処しないと地域の人達が水を使えない。
その為、現場の人達もピリピリしており、荒い口調が俺たちだけでなく、あちこちで飛び交っている。
『魔法なら直ぐに対処できるのに、大変ですね、マスター』
(使ったら怒るくせにそんなふうに言うなよ、というか、どうやって水道管を魔法で直せるんだよ)
『マスターは、まだあの魔法をマスターしてませんでしたね』
(そうやって、韻を踏んで揶揄うのはやめろ!また、怒られるだろう?)
スコップでユンボ(油圧ショベル)から溢れたアスファルトや土砂を掬って一輪車に積み込む。
「ほら、早くしねーと次が来るぞ」
ダンプカーがやって来て、またユンボが土砂を掬いダンプカーに載せ始めた。
「隣のガス管に気をつけろよー」
現場監督の真さんがユンボの運転手にそう話しかけた。
道路の下には、水道管や下水管、それとガス管などが埋設されている。
場所によっては、電線や通信ケーブなどもあり、慎重に掘らないと二次被害が出る場合がある。
ユンボが漏れ出している水道管付近の土砂を掬おうとした時、最悪のタイミングでこの地方に震度5の地震が起きた。
「地震だ。作業を一旦中止して安全確保しろーっ!」
現場監督の大きな声が届いたその時、地震の揺れでユンボがむき出しになっていたガス管に接触してしまった。
「ボンッ!」
現場に大きな爆発音と衝撃波が襲ったのだった。
◆
「凄い音がしたけど何があったの?」
黒塗りの高級車の中でうたた寝をしていたその男は、その音で眼を覚ました。
「この音は、近くの現場でガスが爆発したのかもしれやせん」
運転しているのは、ガタイの良い如何にもそのスジの人とわかる人物だった。
「揺れたと思ったらガス爆発ね~~、マンガみたいな状況だわね」
「少し周り込みますが行ってみますか?」
「そうね、早く家に帰っても暇だし見るだけならね。もしかして、掘り出し物があるかもしれないし」
「うちで使えるような若い女は工事現場にはおりませんぜ」
「違うわよ。わたしに対しての掘り出し物よ。この間の子は、直ぐに壊れちゃったし、今わたしはフリーだしね」
(またかよ、勘弁してくれ)
運転手は、そう思いながらハンドルをきったのだった。
その現場近くでは、怪我を負った人達で溢れていた。
「まだ交通規制されてねえみたいです」
「本当にガス爆発みたいね。しかし、いいわねー、肉体労働者の身体って。
筋肉痛で汗臭くてきっと抱かれたらクラクラしちゃうわね」
「若の趣味にとやかく言うつもりはありませんが、若ももう28歳です。この間、頭《かしら》に言われたんすよ。組を継ぐ者として、相応しくなるようにお前がきっちり若の手綱を握れって」
「岩田、頭じゃなくて社長でしょ。それに、わたしは組を継ぐつもりはないわ。弟の雄二か妹の牡丹に婿をとって継がせればいいのよ」
「勘弁して下さいよ。頭…社長にドヤされますから」
(弟の雄二さんは、チャカが撃てねえ日本はつまんねーって言ってアメリカの海兵隊に入っちまったし、恐らく日本には戻って来ない。妹の牡丹お嬢は、探索者高校に行ってしまったし、跡取りには若しかいねーってわかっててそう言うんだからタチが悪い。
それに若は天才というか化け物なんだ。探索者になってあっという間に日本で数名のSランクになるし、頭も凄く良い。こんな人物、若以外見たことねー)
「あっ!居た。掘り出し物が」
若の好きそうな人物を探すと、
「あのタトゥーの入った若者ですか?」
「岩田、どこを見てるの?ほら、怪我した人を担いで安全な場所まで移動させてる子よ」
「まさか、あの白い髪のガキですか?」
(若、勘弁して下さい。まだ高校生ぐらいのガキじゃねえですか……)
「そう、そいつ。華奢そうな身体してるのに自分より大きな男を余裕で担いでるのよ。きっと脱いだら凄いと思う。
それに、無垢そうなのに少し陰のある顔立ちもいいわ。わたし色に染めてみたいかも」
「確かに力はありそうですが、まだ未成年ですぜ、あのガキ」
「それがいいのよ。岩田、あの男の子の素性を調べて」
「未成年はマズいです。でも、若が組を継ぐ気があるんなら調べます」
「組じゃないわよ。会社でしょ。会社なら継いでもいいわよ。だから、調べて」
「本当ですか?今度は壊さないで下さいよ」
「わかったわよ。でもね、あれは相手が悪いのよ、わたしのこと気持ち悪いんだよ、このオカマ、なんて言われて深く傷ついたのよ。だから、相手にもわたしと同じく傷ついてもらっただけなの。あの白い少年はきっとそんなことを言わないわ。だから岩田、とにかく早急にお願いね」
(この趣味がなけりゃあ、完璧なんですがねー)
その黒塗りの高級車は、救急車が後方から近づいて来たため、その場をあとにしたのだった。
◇
「大丈夫ですかー?」
突然の爆発で、周りは怪我人だらけだ。
たまたま、俺とタトゥーの兄ちゃんはトラックの後ろにいたので被害を免れたが、タトゥーの兄ちゃんは耳をやられたらしく、今は周りの音がよく聞こえないようだ。
俺は怪我人を安全な場所まで移動させ、こっそりヒールをかけていた。
『マスター、重篤な人以外はヒールを控えて下さい』
確かに、エイシスの言うことはわかるが目の前で苦しんでる人を放っておいたら目覚めが悪い。
『わかりました。完治はさせないようにこちらで調整します』
エイシスの補助があるので、担ぎながら遠慮なくヒールをかけて運ぶ。
その繰り返しをしてる時にやっと救急車が来た。
最後のひとりは穴の中にいた気の良いおっちゃんだった。
火傷と石が飛んできて当たってできた傷が酷い。
「おっちゃん、俺の声が聞こえる?」
「うう……」
意識はあるようだが、おっちゃんも耳をやられているようだ。
デカい身体を担いで穴から出る。
その時もヒールをかけておいたので、命の危険はないだろう。
現場は、救急隊員や警察が来て大騒ぎになっている。
被害の少なかった俺とタトゥーの兄ちゃんは、当時の状況を警察官に聞かれたので説明し、念の為に病院に行くよう指示された。
「おい、白いの。お前、すげーな。みんなが無事だったのは、お前のおかげだぜ。そう言えば、名前なんだっけ?」
「御門賢一郎です」
「じゃあ、ケンだな。サンキューな。ほんと助かったわ」
『マスター、良かったですね。初めてのお友達ですよ』
(初めてじゃない、昔はいたわ……あれ、いた気がしたけど……)
小学生の時、児童館で一緒にゲームした子がいたんだ。
だけど、名前も顔も思い出せない。
あの頃の俺は、ゲーム機を持ってなくて、その子が持ってたゲーム機を借りて一緒に遊んだんだ。
あいつって誰?
『雷に打たれた時に記憶の一部が飛んだのでは?医者に行くべきですね』
(言われなくても、これから行くんだよ。今日行ったばかりなのに、ついてない)
「おい、ケン。俺たちはタクシーで病院に行くぞ」
タトゥーの兄ちゃんからそう言われて会社が手配したタクシーに乗り込む。
料金は、勿論、会社負担だ。
「そう言えば、名前教えてもらえませんか?」
「言ってなかったけ?俺は瀬戸海航平、20歳。ボクシングミドル級でいずれ世界の頂点に立つ漢だ」
こうして、変な縁でボクシングで世界を目指すタトゥー兄さんと知り合いになったのだった。
そう言えば、これってバイト代どうなんの?
149
あなたにおすすめの小説
七億円当たったので異世界買ってみた!
コンビニ
ファンタジー
三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。
ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。
「異世界を買ってみないか?」
そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。
でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。
一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。
異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。
チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。
駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ
壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。
幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。
「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」
泣きじゃくる彼女に、彼は言った。
「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」
「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」
そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。
※2019年10月、完結しました。
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
ゲームちっくな異世界でゆるふわ箱庭スローライフを満喫します 〜私の作るアイテムはぜーんぶ特別らしいけどなんで?〜
ことりとりとん
ファンタジー
ゲームっぽいシステム満載の異世界に突然呼ばれたので、のんびり生産ライフを送るつもりが……
この世界の文明レベル、低すぎじゃない!?
私はそんなに凄い人じゃないんですけど!
スキルに頼りすぎて上手くいってない世界で、いつの間にか英雄扱いされてますが、気にせず自分のペースで生きようと思います!
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています
封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する
鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。
突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。
しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。
魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。
英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる