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第61話 換金すると……
しおりを挟む「……やってしまった。でも……俺悪くないよな?」
冒険者ギルドで、怒りに任せて魔力を解放してしまった。
だが、ただ抑えていた魔力を解き放っただけで、あそこまでの事態になるとは正直思わなかった。
『マスター、あの小娘と獣っ娘も、早めに鍛えておかねばなりませんよ。
でなければ、いつマスターと同じようなことをしでかしてもおかしくありませんからね』
(ああ……よく分かったよ。あり金はたいてでも生活道具を揃えて、さっさと拠点に引きこもろう)
『大概の者は、口で言ってもなかなか理解しづらいものですからね。
実際に体験してみてこそ、その言葉の意味が身にしみるのです。今回はまさにその例ですね』
耳がいたい……
それから街を巡り、生活道具や食糧を買いそろえていった。
ひと通り必要な物は揃ったが、女の子たちの服だけは買えなかった。
そのあたりは、ミーシャが戻ったら、二人に選んでもらうつもりだ。
買い物を終えて猪熊亭に戻ると、
「「いらっしゃいませー!」」
と、ユリアちゃんとユメカちゃん二人の元気な声が迎えてくれた。
カナドは厨房にいるらしく、カウンターの奥から耳だけがひょっこりと見えていた。
みんな忙しそうにしているので、俺だけ休んでいるわけもいかず、洗い場に行き食器の片付けを手伝った。
しかし、ふと疑問に思う。
なんで宿屋で働いてんだ、俺……
『マスター、お人好しのMVPですね』
まあ、何もしないよりはいいかもしれない。
『マスター、高校生なのに既に社畜の匂いがします』
(どんな匂いだ!こらっ!それにこの場合、社畜じゃなくてワーカーホリックだと思う)
そんなわけで、その日も忙しく動きまわるのだった。
翌日、猪熊亭の親父さんから「ミーシャは午前中には帰ってくる」と聞かされた。
それを機に、猪熊亭での手伝いはひとまず終わりだ。
冒険者ギルドであんな騒ぎを起こしてしまった以上、余計な面倒ごとに巻き込まれる前に、早めに街を離れたい。
そのことは、みんなにもすでに伝えてあるが、ギルドの件は話していない。
あとは女の子たちの服を買うだけだ。
「カナド、悪いがユメカちゃんとユリアちゃんを連れて、二人の服を買ってきてくれないか?」
「いいけど……どうしてケンさんが行かないんだ?」
「ちょっとな、いろいろあるんだよ。金はこの魔法鞄に入ってるから」
そう言って、師匠から譲り受けた魔法鞄をカナドに預けた。
その間、俺は部屋に戻り、エイシスに語りかけた。
(なあ、エイシス。冒険者ギルド以外で、魔石を換金できるところはないか?)
『商業ギルドでも換金できますよ。あとは商会や、個人で経営している魔道具屋などですね』
(そうか、なら商業ギルドに行くか)
あのダンディな紳士なら、きちんと対応してくれるはずだ。
「善は急げ」という言葉どおり、俺はすぐに商業ギルドへと向かった。
◆
商業ギルドに入ると、冒険者ギルドとは対照的に、どこか厳かで落ち着いた空気が漂っていた。
その雰囲気に、俺は思わず安心感を覚える。
そして、お目当ての人物のもとへ行き、声をかけた。
「すみません、魔石の買取はできますか?」
「はい、可能です」
「お願いしたいのですが、量が多くて、どこに出せばいいでしょうか?」
「では、こちらへどうぞ」
案内されたのは、応接セットが置かれた静かな部屋だった。
「こちらの台の上にお出しください」
ストレージから直接、魔石を取り出した。
「確かに量が多いですね。査定に、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「どのくらいかかりますか?」
「お昼までには査定額を提示できると思います」
「わかりました。では、お昼にまた来ます」
「あ、お客様。預かり証を発行いたしますので、お名前をお願いできますか?」
「ケンイチロウと言います」
「ケンイチロウ様ですね。こちらが預かり証になります。これを提示していただければ、私が席を外していてもすぐに対応できるようにいたします」
預かり証を受け取り、俺は商業ギルドをあとにした。
猪熊亭の部屋に戻り、エイシスに問いかけた。
(冒険者ギルドの対応と、まるで違うんだが、なぜだろう?)
『商人は入手先などに関係なく、提示された品が価値あるものかどうかを判断しますからね。その違いでしょう』
(雰囲気にしても、対応の丁寧さにしても冒険者ギルドとは雲泥の差だな。これからは商業ギルドで買い取ってもらうか)
『マスター、今回対応した方が優れていただけですよ。商業ギルドといえど、人によっては冒険者ギルドとさほど変わりませんからね』
(そうか……結局は相手次第ってことか)
そんなことを考えているとみんなが戻って来た。
「ケン様、お洋服買っていただいてありがとうございます」
「ケン兄さん、ありがとう。たくさんかっちゃったけどお金大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。気にするな」
それから買い忘れたものがないか、みんなで話し合い、お昼を迎えたのだった。
◆
再び商業ギルドを訪れた。
あの紳士の姿はなく、代わりに別の受付嬢へ預かり証を提示する。
「ケンイチロウ様ですね。お話は伺っております。こちらへどうぞ」
通されたのは、先ほど魔石を出した部屋だった。
「ただいま査定額の明細書をお持ちいたしますので、少々お待ちください」
そう言った受付嬢は、明細書と現金を載せた台車を押して、すぐに戻ってきた。
「ケンイチロウ様の魔石は、一等級が3個、二等級が286個、三等級が181個。合計で470個となります。
一等級の買取価格は金貨8枚、二等級が金貨3枚と大銀貨5枚、三等級が大銀貨8枚です。
合計で大金貨110枚と金貨69枚、それと大銀貨8枚になります」
(え……?)
「あの……白金貨11枚にした方がよろしかったでしょうか?白金貨はあまり流通してませんので使いずらいとこちらが勝手に判断しました。何か問題でもございましたでしょうか?」
「いえ、問題ないです……」
(そんなに高く買い取ってくれるの?)
『相場どおりじゃないですか。何もおかしくありませんよ』
「ケンイチロウ様、ひとつご提案がございます。
もしよろしければ、商業ギルドにご登録なさいませんか?
登録いただきますと、ギルドに口座をお持ちいただけます。商取引の際、口座同士でやり取りが可能となり、とても便利でございますよ」
登録か……
「すみません。少し考えてからまた来ます」
「そうでございますか。それでは、またのご来店をお待ちしております。
それから、ケンイチロウ様を担当させていただきましたのは、私シェリーと申します。次回お越しの際には、私シェリーか、あるいはギルドマスターが対応いたしますので、どうぞお気軽にお立ち寄りくださいませ」
「先ほど対応してくださった紳士の方は、ギルドマスターなのですか?」
「はい、そうでございます。今は用事で外出しておりますが、何かご用でしょうか?」
「いえ、なんでもないです」
(できる人っているんだなぁ……)
そう思いながらストレージに現金を入れてみんなの待つ猪熊亭に帰るのだった。
◆
「坊ちゃん、こちらです」
「ああ、わかっている」
暗闇に紛れるように馬車から降り立った二人組は、路地の奥にある一軒の家へと入っていった。
「んだぁ! 誰だ、おまえら!」
顔に傷のある若い男が、入ってきた二人を牽制する。
「この不届き者め! ここは闇ギルドだろ? 誰か来たらまず客だと思わんのか!」
少し小太りの少年が、臆することなく言い放った。
「おい、ゲン。やめろ。その方はお客人だ」
奥から片目に黒い眼帯をした男が姿を現した。
「依頼がある」
「坊ちゃん、ここは闇ギルドですぜ。それ相応の対価をいただけなきゃ動けません」
「わかっている。前金で金貨五十枚、成功したらさらに五十枚払おう」
「へぇ……若いのに相場を心得てるじゃないですか。これが初めてってわけじゃなさそうだ」
「うるさい、詮索するな」
「で、誰を消せばいい?」
「この女だ。名はサラサ・バディ。魔法学園の一年だ」
「ほぉ、これはこれは……貴族のお嬢さんを狙えと? なら、もう少し色を付けてもらわねぇといけませんね」
「足元を見るな! ……わかった、あと三十枚だ」
「本当なら五十枚は欲しいところですがね。まあ、貴方様はいい客になりそうだ。今回はそれで手を打ちましょう。……で、いつ決行します?」
「まだ決めてはいない。だが、近く大森林で学園の実習がある。その時が好機だろう」
「わかりやした。日程が決まったら使いの者を寄越してくだせい。それと、やる前に遊んでも構わないんでしょう?」
「ああ、好きにしろ!俺の視界から消えればそれでいい」
そう言って金貨の入った袋を置き、二人組は、その場を立ち去ったのだった。
参考資料 貨幣価値
ーーーーーーーーーーーー
銅貨1枚………100円
銀貨1枚………1000円
大銀貨1枚……10000円
金貨1枚………10万円
大金貨1枚……100万円
白金貨1枚……1000万円
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