現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風

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第80話 ソルトレイクシティの攻防(2)

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俺とカナドは、鳥頭の悪魔と相対した。

「カナド、周りの魔物は任せた。ペロ、カナドの補助を頼む」

すると、カナドが目を丸くした。

「……は? まさか、この白蛇と一緒にいろってことか?」

ああ、そういえば――カナドは蛇が大の苦手だった。

《何よそれ! わたしが役立たずみたいな言い方じゃない!噛むわよ!》

「ひ、ひぃーーっ! 噛まないでくれ、頼むから!」

さっきまでの勇ましいカナドはどこへやら。
耳は垂れ下がり、尻尾はしゅんと縮んでいた。

だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。

そのとき、鳥頭の悪魔がゆっくりと口を開いた。

「お前たち……この世界の者ではないな。
それに、白い騎士と蛇から――神の力の匂いがする」

その声は意外にも高く、
その異様な体格にはまるで似つかわしくなかった。

俺は【鑑定】を発動し、相手の弱点を探ろうとした。

「なっ……!? 鑑定が弾かれた!?」

「ははは、白騎士よ。そんな卑怯な真似をしても、我には通じんぞ」

ならば、結界で囲んではめ殺す――。

【神聖結界!】

「おおっ……久しい感覚だな。だが、神力の込め方が甘い!」

鳥頭の悪魔は翼を大きくばたつかせ、俺が張った結界を『バリンッ!』と音を立てて粉砕した。

「なっ……!」

どうやら、この鳥頭の悪魔は、不死王やサキュバスとは格が違うようだ。

「カナド! 離れろ!」

俺は隣にいたカナドとペロを、風魔法で後方へ吹き飛ばした。

その瞬間――カナドのいた場所が、炎に包まれた。

俺もその煽りを受け、左方向に吹き飛ばされた。

(魔力感知が働いて助かった……
軽いやけど程度で済んだが、敵がいつ攻撃してきたのか、全く分からない……)

「少しはやるようだ。だが、まだまだ未熟」

確かに、多少は強くなった気はした。
だが、この鳥頭の悪魔には、全力を出しても勝てる気がしない。

――誰だよ! 今の俺でも対処できるって言ったヤツは……

心の中でエイシスに文句を言うが、返事は帰ってこなかった。

こんなことなら、剣聖の爺さんにあと百年くらい稽古をつけてもらうんだった。

剣を握り締める手に力が入る。
そして、必死に何か打開策はないかと考える。

「来ないなら、こちらから参るぞ!」

鳥頭の悪魔は翼を広げた。
その翼から、無数の羽根が勢いよく飛んできた。

俺は剣で弾くが、すべてを防ぐことはできない。
羽根は次第に俺の身体を傷つけていった。

……

一方、弾き飛ばされたカナドとペロは、地中から湧き出してきた新たな魔物――巨大なミミズもどき(サンドワーム)と戦っていた。

「くそっ! なんで俺ばっかり、こういう長くてニョロニョロしたやつが来るんだよー!」

《うるさい犬っころね。しっかりしなさい! ――ほら、あっちからも出てきたわよ!》

首にペロを巻きつけられ、いつもの調子が出ないカナドは、どこから現れるかわからないサンドワームに手こずっていた。

「ひーーっ! こっちに来るんじゃねえ!」

文句を叫びながら、カナドはバスターソードでサンドワームを叩き斬った。

《仕方ないわねー。少しだけ手を貸してあげるわ》

ペロは念力を使い、地中にいるサンドワームをすべて地表に浮かび上がらせた。

その無数のサンドワームの群れを目にした瞬間、カナドの意識は一瞬、完全に飛んでしまった。

《ほら、全部出してあげたわよ。早く倒しなさい! ほら、犬っころ!……あれ、もしかして気絶しちゃった!?》

このままでは、二人ともサンドワームの腹の中だ。
慌てたペロは、能力のひとつを発動させた。

【神聖光線!】

それは、ペロの両目から放たれるビーム攻撃だ。
だが、ペロの目は両脇についている。
つまり、発射される方向は前方ではなく、左右だった。

その瞬間――カナドは『カチッ』と何かが外れたような感覚を覚えた。
そして、ビームを放ちながらも暴れるペロの尻尾を掴み、頭上でぐるぐると振り回したのだった。

《ぎょえーーっ! 何すんのよー! 目がまわる~~!》

必死に抗議するペロをよそに、カナドは止まらない。
だが、この奇行とペロのビームのおかげで、地上の魔物のほとんどは一掃されてしまった。

………

鳥頭の悪魔の攻撃を避けるため、俺は影ではなく空中へと跳び上がった。

空で戦うことに勝算があったわけではない。
だが、影に潜れば敵の攻撃は俺を見失い、代わりにカナドや兵士たちへ向かうだろう。
それだけは避けたかった。

「我を相手に空で勝負しようとは……お主、浅はかか? それとも愚かか?」

……同じことを二回言ってないか?

「うるさいっ! 【ライト・ランス】!」

光魔法の槍を相手に放つ。
だが、空中でサラリと交わされてしまったた。

(避けたってことは、当たったらダメージが入るってことだよな……)

そう判断した俺は、続けて光の槍を放った。

(鳥……苦手……焼き鳥!?)

どうも、相手の弱点が掴めない。
鑑定さえ機能していれば、有利に立てたはずなのに……。

「あははは、そんな速さでは我に掠りもしないぞ!」

(そんなの、とっくに分かってるって! 鳥……苦手……唐揚げ!?)

……ダメだ。どうも思考が食べ物に偏ってる。
腹が減ってるせいかもしれない。
今そんな余裕、あるはずないのに。

鳥頭の悪魔は、身体をくるりと回転させた。
次の瞬間、さっきよりも速い羽根の連撃が容赦なく襲いかかってくる。

「くっ……! 【ウォーター・ウォール】!」

咄嗟に水の壁を展開するが、鋭い羽根のいくつかはすり抜け、一本が右太ももにずぶりと突き刺さった。

「っ……ぐ!」

焼けるような痛みが走るが、庇う暇などない。
抜けてきた羽根を避け、あるいは剣で叩き落としながら必死に態勢を維持する。

(鳥……苦手……照り焼きバーガー!?)

ダメだ……頭の中が食い物でいっぱいだ。
ああ、帰ったら絶対、あの甘じょっぱいタレのかかった鶏肉をパンで挟んだ照り焼きバーガーを食べてやる。

「………!?」

そんなふざけた思考をしている間に、鳥頭の悪魔は亜空間から一本の槍を引き抜いた。
それは、先端が三叉に分かれた不気味な黒槍――見ただけで背筋が冷たくなる。

「ヤバいっ!!」

俺は反射的に空高く上昇した。
直後、槍の穂先から黒い炎のようなものが放たれる。

避けた――そう思った瞬間、左腕に走る灼熱。

次の瞬間、腕が、肘から先ごと“消えていた”。

「う……っ! 【ハイヒール】!」

詠唱と同時に、焼けるような痛みを押し殺し、治癒魔法を発動する。
腕は戻らない。だが、血だけは止まった。

……今だけの、応急処置だ。

「あれを避けるか……なら、もう一度」

「そうはさせない! 【ダーク・ミスト】!」

闇魔法でやつの視界を奪う。
だが、すぐに反撃の気配がした。

「悪魔の我に、闇魔法は効かぬぞ!」

鳥頭の悪魔は翼を大きくはためかせ、闇の霧を一瞬で吹き飛ばす。

「そんなことは承知の上だ!」

俺は【ダーク・ミスト】の中に、別の魔法を仕込んでいた。
――氷魔法【ブリザード】。

闇魔法なら油断するだろうと踏んでの策だった。

「なっ……これは……!」

次第に、鳥頭の悪魔の身体が白く凍りついていく。
翼も凍結し、浮遊能力を失った悪魔は、空から真っ逆さまに落下した。

「終わりだっ! 【ライト・ランス】!」

落下する敵を追うように、光の槍を次々と放つ。
槍は翼を貫き、胴を貫通し、そして――
あの食欲をそそる“鳥頭”にも突き刺さった。

地面に叩きつけられた瞬間、轟音と砂塵が舞い上がる。

同時に、空を飛び回っていたグリフォンたちを、俺は【サンダー・レイン】で一掃した。
雷に撃ち落とされたグリフォンを、正気を取り戻したカナドが首を跳ね飛ばしていく。

その首に巻きついているペロは、なぜか機嫌が悪そうだった。
……気のせいかもしれない。

俺は地上に降り立ち、鳥頭の悪魔が墜ちた地点に向かう。
しかし、そこに死体はなかった。
散らばっていたのは、抜け落ちた羽根だけ。

頭上ではアメリカ空軍の戦闘機が連隊を組み、空を旋回している。
まるで、勝利を祝う航空ショーのようだ。

周囲の兵士たちも、傷だらけの体で歓声を上げていた。

「……主人、腕がねぇじゃねえか!」

駆け寄ってきたカナドが、心配そうに俺の肩を掴む。

「ああ、不覚を取った。あとでエリクサーを飲むから大丈夫だ」

すると、ペロがサッとカナドの首から離れ、俺の肩へと移動してきた。

「ペロ、どうかしたのか?」

《な、なんでもないわ! 思い出させないで!》

なぜかキレ気味にそう言い放つペロ。
理由は……聞かないでおこう。

「じゃあ、帰るか?」

《そうね。ここ、埃っぽくてわたしには合わないわ!》

「……主人、行くか。まだ戦ってる者もいるんだろう?」

「ああ。まだ、終わりじゃない」

俺はそう言って、影の中へと消えた――。
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