現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風

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第95話 ユリアと街ぶら

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 翌日、街に行くことをみんなに話すと、その理由を尋ねられた。

 付与魔法を覚えたので、能力を付与するための装飾品――
 特に、ミスリルかオリハルコン製のものを買いたいと説明したのだが、師匠はあきれ顔でため息をついた。

「ケンよ。お主は少し常識が足りんのう。
この世界でミスリルは、とても高価で貴重な金属じゃ。
 ましてや“神の石”と呼ばれるオリハルコンなど、言うまでもない」

「それじゃあ、街に行っても買えないってことですか?」

「ミスリルなら、運が良ければ買えるじゃろう。
 もっとも、どれほどの金額になるかは見当もつかんがな」

(マジか……どうするか……)

「でも、買えるかもしれないんですよね?」

「ああ、北にあるドワーフの国――ドルランでなら、手に入る可能性はある。
 あそこは鉱脈が多く、昔はそれなりに採れたのじゃが……今はあまり良い状態ではないらしいぞ」

「行っても無駄足になるかもしれないのですね?」

「まあ、ケンなら影で移動できるじゃろうし、散歩ついでに街の様子を見て常識を学んだ方が良かろう」

「なら、明日行ってみます」

(ユリアと約束したしね)

「でも、なかったり、高価だったりしたら、人数分は買えないか……」

「ふむ……それは致し方あるまい。
 わしは、そろそろエルフの里に戻り、祭りの準備をせねばならん。
 そこで、この場にララとルルを残していこうと思う。
 二人もここで友を得たようじゃし、きっと役に立つこともあろう。頼むぞ、ケンよ。」

 ララとルルに本当にいいのかと確認しようかと思ったが、二人はすでに居座る気満々で、カナドの作った料理を美味しそうに頬張っていた。

 そして翌朝、師匠は転移魔法を発動させ、エルフの里へと戻っていった。



「まだ少し寒いか?」

「大丈夫です。羽織れる服も持ってきてますから」

 ユリアと二人きりで、北にあるドワーフの国――ドルランへ来ていた。

 この街の第一印象は――くすんだ赤。
レンガ造りの家々が整然と建ち並び、街全体がその色に染まっている。

 行き交う人々の多くはドワーフだが、人族や獣人の姿も見える。
 さらに、仕入れのために訪れた商人たちも多く、街は思いのほか活気づいていた。

 本当は、みんなで行くつもりだったのだが、なぜかそれぞれ用事があると言われ、結局ユリアと二人で出かけることになった。

「こうしてユリアと二人きりなのは、初めてだな」

「はい、今日はよろしくお願いします」

 そんなに畏まらなくてもいいのにな……。

「みんな、都合が悪くて残念だったな」

「えっ、そ、そうですね。でも……私は、ケンさまと二人きりの方が……嬉しい、というか……その……ごにょ、ごにょ……」

 最後の方は聞き取れなかったが、楽しそうにしているなら問題ない。

『鈍感系主人公って、見ていると腹が立ちますね』

 エイシスがぼそりと呟いたが、気にしても仕方がない。
 俺だって、ユリアが俺に好意を向けてくれていることくらい、わかっている。
 けれど――まだ彼女は幼い。
 これから先、いろんな経験をして、たくさんの人と出会うだろう。
 その中で、本当に好きになる誰かが現れるかもしれない。
 だから、今はただ――その未来を邪魔したくないだけだ。

「お、あそこの露店からいい匂いがするな。この地の名産かもしれない。食べてみようか?」

「はい。お任せします」

 ユリアを連れて露店の前に行くと――
 炭火の上で焼かれていたのは、どう見てもカエルだった。

「これは……」

「お、兄ちゃん、知らねえのか? “フロッグの姿焼き”ってやつだ。この辺りじゃ子どもでも知ってる名物だぜ。ま、とにかく食べてみな。今日はおまけしとくよ」

 親指ほどの大きさのカエルが三匹、一本の串に刺さっている。
 亭主は笑顔でそれを、俺とユリアに一本ずつ手渡してくれた。

「わぁ、美味しいです! 鳥さんのお肉みたい!」

 ユリアは早速ひと口食べて、目を輝かせた。

 なら、俺も……

「……うまいっ!」

 味はまさしく鶏肉そのもの。
 見た目は少々グロテスクだが、生臭い匂いもないし、むしろ香ばしい。それに、塩味がクセになる。

「これが酒に合うんだぜ。あんたらはまだ飲めねえだろうが、こいつで一杯やると、一日の疲れが吹っ飛ぶんだ」

 確かに、酒の肴にちょうど良さそうだ。
 そういえば、ペロもよくカエルを食べていたっけ……

「親父さん、これを十本ください」

「おう、毎度あり! 一本、銅貨五枚だよ!」

 銀貨五枚を渡して、串焼きを受け取った。
 焼きたての香ばしい匂いが、鼻をくすぐる。

 それから、二人で目につく店に入っては、買い物をした。

 ここでは、岩塩が一般的らしくそれも買っておく。

「なんか、食べ物屋ばっかり回ってるな。飽きないか?」

「珍しいものが多いので、飽きることはありません。それに、ゴンタロウお爺さんにお酒を頼まれました。買って帰らないとがっかりしそうです」

 なるほど。自分が飲まない――というか、ユリアの年齢ではまだ飲めないから、お酒のことは後回しになっていたな。

「じゃあ、酒屋に行ってみるか」

「はい、行きましょう」

 道行く人に尋ねて教えてもらった店は、こぢんまりしているが、外からでも樽や瓶が並ぶのが見えた。
 中に入ると、さまざまな酒の香りが混ざり合い、ほんのり鼻をくすぐる。

「いらっしゃい! 坊主たちは旅人か? ここらじゃ見ねぇ顔だな」

 カウンターの向こうにいたのは、典型的なドワーフの店主だ。
 丸太のような腕でグラスを磨きながら、にやりと笑っている。

「ええ、お酒を一通りください」

「おう、ありがとよ。で、“一通り”ってどのくらいだ?」

 エルフの祭りもあるし、多めに買っておきたい。

「まずはエールを樽で。それからワインと……酒精の強いやつもあればお願いします」

「へぇ、景気がいいな。だが、こんなに運べるのか? 荷車でもなきゃ無理だぞ」

 ――しまった。カナドに貸してる魔法鞄を持ってくればよかった。
 ストレージを使うのは、あまり人前では避けたいんだが……

「大丈夫です。わたし、アイテムボックスがありますから」

 俺が答えるより先に、ユリアがさらりと言ってしまった。

「ほう! 嬢ちゃん、アイテムボックス持ちか。そりゃすげぇな! よし、今用意してくるから待ってな!」

 そう言って店主は奥へと引っ込んでいった。

 ……この世界でアイテムボックスは、かなり貴重な能力だ。
 悪人に目をつけられれば、狙われる可能性だってある。

「ユリア、すまない。俺が判断を迷ったせいで……」

「大丈夫です。アイテムボックスのギフトを持ってる人はそれなりにいますし、そんなに危険ではないと思います」

 小さな彼女に気を使われてしまった。なんとも情けない話だ。

『マスター。ユリアもマスターと同じ修行を積んでいます。見た目は子供でも、精神年齢は二十歳と同じですよ』

(あ、そうだった……)

 エイシスに言われて思い出す。
 それでも、やっぱり子どもの姿をしたユリアに任せきりは気が引ける。

「次からは俺が収納するから、ユリアはできるだけ能力を隠しておけ」

「わかりました。気をつけますね」

 やがて、店主が酒樽と瓶を運んできた。
 ユリアがそれを手際よくアイテムボックスに収め、俺は大銀貨を数枚取り出して代金を払った。

 そして、店主に貴金属を扱っている店を尋ねると、愛想よく場所を教えてくれた。

 教えてもらった貴金属店に足を運ぶ。

「すみません、ミスリルってありますか?」

 ドワーフの店員の女性が、少し申し訳なさそうに答えた。

「うちの店では扱ってませんね。今はどこの店もミスリルは手に入らないと思いますよ。鉱脈が掘り尽くされてしまったので」

「そうですか……。ここにある金属は鉄ですか?」

「いいえ、魔鉱石ですね。魔力を含んだ鉱石で、ミスリルよりは安価ですが、それでも値は張りますよ」

 横を見ると、ユリアが魔鉱石で作られた装飾品を眺めていた。
 その中でも、青く輝く宝石をあしらった髪飾りをじっと見つめている。

「それが気に入ったのか?」

「そ、そういうわけではないのですが……とても綺麗だったので」

 気に入っているのは間違いなさそうだ。

「これは、とても繊細な細工ですね」

「ああ、その髪飾りですか? 有名な鍛冶師の作品ですよ。昔はオリハルコンも扱ったことがあるそうです。
 でも今は……まあ、色々とあって、鍛冶の仕事をほとんどしていないみたいですね」

 何か事情がありそうだ。

「そうなんですね。では、これをください。それと、その職人の方の居場所を教えてもらえますか?」

 髪飾りを購入し、ユリアにプレゼントする。

 ユリアは頬を染め、心から嬉しそうに微笑んだ。

 そして俺たちは、その“オリハルコンを扱ったことのある職人”を訪ねることにした。
 もしかしたら、ミスリルくらいなら手に入るかもしれない。

 街の外れに、その職人の家はあった。
 鍛冶場らしい建物で、大きな煙突が空に突き出ている。

「すみません、誰かいませんか?」

 それなりに大きな声を上げたつもりだったが、反応はない。

「ケンさま……留守なのでは?」
「そうかもしれないな……」

 そう言いかけたその時――
 奥の方から、微かに女性のうめき声が聞こえてきた。

「今の声……!」

 ユリアが俺を見る。
 俺はすぐに頷いた。

「行ってみよう。もしかしたら、誰かが襲われているのかもしれない」

 二人で慎重に声のする方へと進む。
 鍛冶場の奥は薄暗く、焦げた鉄と油の匂いが漂っていた。

 やがて、一枚の木の扉の前で足が止まる。

「声はこの中からですね……」

「ああ、入るぞ」

 扉を押し開ける。

 ――そして、部屋の中で目にしたものは……
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