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第106話 騒動の原因
しおりを挟む学校が終わり、自宅に戻ってから、あっちの世界の教会に向かった。
祭壇の上では、ペロがポツンと寝ていた。
「ペロ、あっちの家には行かないのか?」
《あっちは広すぎて落ち着かないのよ。ここがベストプレイスだわ》
「まあ、階段とか多いしな。移動も大変そうだ」
《そんなことより、あっちをどうにかしなさいよ。うるさくてたまんないわ》
「うるさい? どういう意味だ?」
新居を得て、みんながはしゃいでいるということか?
教会を出て、新居へと向かう。
そこは、歴史を感じさせる造りで、まるでラノベに出てくる貴族の屋敷そのものだった。
「教会しかなかったが、今では工房も屋敷もある。
殺風景だったこの場所も、ようやく落ち着きそうだな」
しみじみと屋敷とその周囲を眺めていると、カナドが勢いよくやって来た。
「主人、どういうことだよ! 俺の料理、もう飽きたってのか!?」
怒りながらも、どこか落胆した様子だ。だが、俺には何のことかまるで分からない。
「カナド、悪いが言ってる意味が分からん。ちゃんと説明してくれ」
「だからぁ――!」
「主人さまっ! やっと帰ってきたと思ったら、なんでユメカたちのこと、もう飽きちゃったの?」
今度はユメカまで駆け寄ってきて、涙目で訴えてくる。
「俺の方こそ分からないんだ。いったい何があったんだ?」
そんな騒がしい場に、センジュ王女殿下が付き人の狐獣人ククリさんを連れて現れた。
「あ、ケン君。アンジェラさんと婚約したって本当?」
「いいえ、してませんよ。確かにアンジェラさんのご両親からそのような話はされましたが、
『返答はできません』と伝えたら、『それならお付き合いしてはどうか』と言われて……。
結局、口を濁らせて帰ってきたんですけど、それってマズかったですか?」
「ああ、やっぱりね。――ケン君、貴族社会のことって、どのくらい知ってる?」
「いや、ほとんど知りません。そういう方と関わる機会なんて、これまで全然なかったですから」
せいぜい、あのドリル巻きの少女を学園に送ったときくらいだ。
「貴族ってね、当主の言葉は、ある意味“絶対”なの。
特に娘の場合、当主、つまり父親が『この人に嫁げ』と言えば、
相手のことを全く知らなくても従わなくちゃいけないのよ」
「家のために、ということですか?」
「そう。家の存続や地位を守るために、ね。
だからアンジェラさんのご両親がケン君を認めた時点で、
彼女には“ケン君に嫁ぐ”という選択肢しか残されていないの。――その意味、分かる?」
「はい、理解できました」
(マジかよー!俺の気持ちはどうでもいいのかよ!)
「今回の話を聞く限り、ケン君はただ“壊す予定の家を譲ってもらいに行った”だけなのよね?」
「ええ、そのつもりだったんですが……。
いきなりご家族の朝食に招かれて、気づいたらあんな話になってて。
正直、アンジェラさんがどうこうというより、俺自身がまだ結婚なんて考えたこともなかったので、
どう返事していいか分からなかったんです」
「なるほどね。――それなら完全に“認識の違い”よ。
ユメカちゃんも、他のみんなも今の言葉、聞いてたでしょう? もう安心していいわ」
いつの間にか、この場にはみんなが集まってきていた。
「それと、マリアンヌさんを連れてきたのはケン君なの?」
「いえ。アンジェラさんのお父さんが『屋敷の管理を任せられる人が必要だろう』と、派遣してくださったようです。
こんな広い屋敷、俺たちだけじゃ到底まわらないし……正直、助かってたんですが。――まずかったですか?」
「そんなことはないわ。ただ、この規模の屋敷ならマリアンヌさん一人じゃ手が回らないわね。
あと三~四人は欲しいところよ」
「やっぱりそうですよね。みんなで手伝いながら、追々考えようと思ってました」
「――というわけで、納得した? カナドくん」
「ああ……。でもな、主人。何も言わずにどっか行っちまうのはやめてくれよ。
こういう大事なこと、ちゃんと話してくれりゃ、こんな騒ぎにはならなかったんだ」
「そうね。急いでいたのは分かるけど、きちんと説明しなかったケン君が悪いわね」
センジュ王女にそう言われ、思わず肩を落とす。
「……はい。みんな、説明もせずに勝手に動いて、すみませんでした」
そう言って、全員の前で頭を下げたのだった。
ある程度、場が落ち着いたところで、俺はアンジェラさんに声をかけた。
「俺、貴族のことを何もわかってませんでした。本当にすみません」
「ケン殿、よしてくれ。この件は私の両親の落ち度だ。
ケン殿に命を救われ、その偉業を父上に話せば、この屋敷くらいすんなり譲ってもらえると思っていた。口が過ぎたのは、私の方だ」
「アンジェラさんは、壊す予定の屋敷とはいえ、それをもらうために動いてくれたんでしょう? それを過ちだなんて言わないでください」
「いや、やはり私のせいだ。私はケン殿を“魔法に長けた少年”だと誤解していた。
まさか、古びた屋敷を収納し、それを新築同然に一瞬で直してしまうなど、普通の人間にはできぬことだ。
ユリア嬢が『ケンさまは神の使徒です』と言っていた意味が、ようやくわかったよ」
(ユリアは、何度否定しても信じてくれないんだよな……)
「そんな大層な存在じゃありません。ただの人間ですよ」
「ふふ、ケン殿にも、いろいろ事情があるのだろう。
それよりも、この件のことはもう気にしないでくれ。今回の騒動は、マリアンヌが早合点したせいで大きくなっただけなんだ。
彼女は有能だが、思い込みが激しいところがあるからな」
「いいえ、俺がちゃんと説明しなかったのが悪いんです。原因は俺ですよ」
「いや、それは違う。悪いのは私の方だ」
そんなふうに言い合って、ふと目が合った瞬間、二人とも思わず笑ってしまった。
「あ、すまない。実は少し安心したんだ。
正直に言うと、私は男が苦手でな。いや、“苦手だった”と言うべきか。
だから結婚など考えず、一生独身で生きていこうと思っていたんだ」
「何となく、わかります。俺も昔いろいろあって……正直、女性は怖いです。
だから、俺も独りのままでいいと思ってました」
「はは……そうか。そんなところまで似ているとは。どうりで、ケン殿と話していると妙に落ち着くわけだ」
すると、その場にちびっ子たちが集まってきた。
「主人さまがいちゃいちゃしてるー!」
ユメカがそう言って、俺の腕に抱きついてくる。
「ケンさま、ずるいです。私もいちゃいちゃしたいです!」
「若さま、ヒカリは初級編からお願いいたします」
ユリアとヒカリが、羨ましそうにユメカを見つめる。
「ケンって、ほんとモテるのね~」
「ケン兄さん、ルルもあとで抱っこして!」
ララとルルまで参戦してきた。
そんな中、どうしていいか分からない様子のドワーフの少女チヒロが、そわそわとその場をうろうろしている。
「あはは、ケン殿はずいぶん、この子たちに好かれているようだな」
アンジェラさんが微笑む。その笑顔は、先ほどまでの緊張が嘘のように柔らかかった。
「ええ。この子たちは、俺の大切な家族ですから」
俺は、ためらいもなくそう答えた。
「それで……その、結婚とかお付き合いの話なんですが――」
恐る恐る切り出したところで、アンジェラさんが苦笑いを浮かべて口を開いた。
「それは気にしなくていい。父上や母上が勝手に言ったことだ。マリアンヌにも、ちゃんと誤解を解いておくよ」
そう言われて、ようやく胸のつかえが下りた気がした。
『マスター、残念でしたね。嫁をゲットできるチャンスだったのに』
(エイシス、そもそも高校一年生が結婚なんてできるわけないだろ?)
『こっちの世界では、十五歳から結婚できますよ。
マスターはもう少し、こちらの世界の常識を学んだ方がいいですね』
(……そうなのかよ)
国が違えば、法律も変わる。
ましてや、世界そのものが違えば、日本の常識なんて何の役にも立たない。
――今回の件で、身に染みて学んだのだった。
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