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第105話 屋上のお茶会、再び
しおりを挟む学校に行こうとした矢先、富士山麓ゲートからワイバーンが出現したという知らせが入った。
現場近くまで来てみたものの、どうも様子がおかしい。
「あのワイバーン……空を旋回してるだけで、街や人を襲う気配がないな?」
『ああ、そういうことですか……』
(どうした?)
『あのワイバーン、テイムされていますね。目的は――マスターたちを誘き出すことです』
(えっ!? なんだって!)
『日本では、マスターたちに関する情報は緘口令が敷かれていますが、他国では、あの侵攻を防いだ“英雄”を必死に探しているようです。
そして、日本に来日しているフェイス・アンダーソンという人物が、日本政府を抱き込んで、今回のワイバーン作戦を仕組んだようです』
(なんて迷惑なやつだ……。でも、どうして日本で? それに、ワイバーンを操ってるのは悪魔じゃなく人間なのか?)
『調べてみました。アメリカの監視衛星が、日本を重点的に観測していたようです。マスターがソルトレイク戦で姿を現した時の映像が残っていました』
(あの時、今と同じ格好してたんだけどな?)
『マスターが腕を失った時の血液が、現場に残っていたそうです。それを解析して、東洋人だと断定したようですね。
それと、ワイバーンを操っているのはフェイス・アンダーソン本人。彼女は“魔物使役”というスキルの保持者です』
(まるで魔王みたいなやつだな……)
『そんなことありませんよ。マスター好みの、可愛らしい女性ですし』
(そう言われると、一目見てみたくなるな)
『……嫁ができたばかりなのに、もう浮気ですか? 節操がないですね』
(嫁じゃねえし! あとでなんとかする!)
『あ、マスター。彼女、魔物使役に魔力を消費しています。自身の魔力に加え、魔石の魔力を引き出していますね。
この世界で、これほど魔力操作に長けた人間は初めて見ました』
(おお、エイシスが褒めるなんて珍しいな)
『ですが、魔力が切れれば制御不能です。圧倒的にレベルが足りません』
(……それって、まさか?)
『ええ。あと一分三十八秒で、ワイバーンはただの野良に戻りますね』
(なんて迷惑な作戦を考えるんだ……。だから戦闘機があれだけ飛んでたのか)
『ワイバーンの外皮は魔力で覆われています。ミサイル程度では致命傷を与えられません』
(わかったよ。相手の作戦に乗ってやる。そして――釘を刺しておかないとな)
俺は空へと飛び立った。
初めて空を飛んだ時はロケットのようで制御もままならなかったが、今では完全に自分の翼を得たようなものだ。
ワイバーンの飛行ルートの前方に浮かび、ストレージから剣を取り出す。
そして、正面からその巨体を待ち受けた。
『マスター、魔法は使わないのですか?』
(あまり手の内は晒したくないだけだ)
旋回していたワイバーンが、ついに正面へと突っ込んできた。
「グワァァァーーッ!」
轟音とともに、咆哮が空を震わせる。
だが、もう遅い。
俺は一気に加速し、ワイバーンに突っ込む。
すれ違いざま、剣閃が走り――「ザッ」と音を立てて首が落ちた。
巨体は真っ逆さまに落下していく。
下には兵士たちの姿が見えた。
すかさずワイバーンの亡骸をストレージに収め、地上に降下。
空を見上げている金髪の女性――フェイス・アンダーソンのもとへと降り立った。
【神聖結界】
結界を展開し、周囲の兵士たちを牽制する。
そして、俺は彼女と対峙した。
「無茶な作戦はやめろ。周りに被害が出るところだったぞ」
「やはり、あなたは日本人……それに、思っていたより若いのね」
(なんでわかるんだ?)
『さあ? そのようなスキルは持っていませんが』
「あなたたちは、いったい何者なの?」
「あまり詮索はするな。俺は国家にも政治にも縛られたくない。自由に動けなくなる。
これからも魔物が侵攻してくるだろう。その時は――人間の味方として魔物を討つと約束する。
だから、これ以上、危険な真似はするな」
「……わかったわ。あなたを信じる。国にも政治にも関与させないと約束する。
だから、せめて私にだけ――あなたの素性を教えてくれない?」
「それは無理だ。約束は守れよ。それと――報酬としてワイバーンはもらっておく」
そう言い残して、俺は光魔法のフラッシュを放つ。
結界を解除すると同時に、影へと身を沈めたのだった。
◇
「……完全に午前中は無理だな」
学校に着いた時には、すでに四時間目が終わろうとしていた。
このまま教室に顔を出しても、注目を浴びるだけだろう。
俺はため息をついて、屋上へ向かうことにした。
「昨日と違って、今日は暑いなぁ……」
雲ひとつない空。
照りつける日差しがコンクリートを焼き、じわりと熱気が肌にまとわりつく。
雨の日もそうだが、この季節の屋上は居心地がいいとは言えない。
それでも、わずかに日陰があった。
給水塔が陽射しの一部を遮ってくれている。
「あそこで待ってるか」
今日は――“屋上の茶会”があると、連絡が来ていた。
少しは涼めそうだし、頭を冷やすにはちょうどいい。
(それにしても……日本政府も、よくあんな無茶な作戦に同意したもんだな)
『日本は敗戦国ですし、アメリカの要求を簡単には断れないのでしょう。
それに、ほとんどの議員が秘密を握られていますからね。下手に逆らえば、政権交代が起きても不思議ではありません』
(うわぁ……なかなかエグい話だな。ハニートラップとか、普通に引っかかってそうだし)
『それにしても、あの金髪の女性――フェイス・アンダーソンは惜しいですね。
マスター、仲間に引き入れてみては?』
(確かに綺麗な人だったよ。でも、ああいうのは完全に国家の紐付きだろ? 無理に決まってる)
『確かにそうですが……あの人、これで諦めるタイプには見えませんね』
(……怖いこと言うなよ。もう、そういう面倒ごとはこりごりだ)
すると、四時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。
屋上の扉が開き、真っ先に顔を出したのは同じクラスの樫村さんだった。
「もう、御門くん! 来てたなら連絡入れてよね。千穂さんも美鈴さんも、すごく心配してたんだから」
「悪かった。この通り、反省してる」
軽く頭を下げると、樫村さんは少し呆れたようにため息をついた。
「まったく……。他のみんなにも、ちゃんと謝っておいたほうがいいわよ。
それで? 一体どこ行ってたの?」
「ちょっと、野暮用で……」
「それじゃ説明になってないじゃない。――ま、無事に来たならいいわ。あとは千穂さんに任せる」
そう言って、樫村さんは意味ありげに笑って俺の隣に腰掛けた。
(……チーちゃん、怒ると怖いんだよな)
そして、チーちゃんやミーちゃん、それに少し遅れて深海君がやって来た。
案の定、チーちゃんたちにいろいろ言われたが、深海君が間に入ってくれたおかげで、そこまで怒られずに済んだ。
……深海君、マジでいい人。
「それにしても、今日は暑いですなあ」
「そろそろ、場所を変えないとダメかしら」
深海君の言葉に、チーちゃんがそう返す。
「どこか、みんなで集まれる場所ってないかしら?」
ミーちゃんがそう言うが、俺と樫村さんは外部生なので、学校のことにはあまり詳しくない。
「それなら、旧校舎なんてどうですかな?」
「深海君、マジで言ってるの?」
「え、どういうこと?」
樫村さんがその反応に首をかしげて、チーちゃんに問いかけた。
「そっか、世理愛ちゃんは知らないんだ。あそこは“出る”って噂があるんだよ」
ミーちゃんが、手首をだらりと下げてお化けのポーズをしてみせる。
「えっ、ほんと? 怖いけど、ちょっとだけ興味あるかも」
この手の話、好きな人にはたまらないんだろう。
「なら、今度行ってみる?放課後は部活があるから無理だけど、明日の昼休みなんてどうかな?」
「いいわねー。お弁当を持って旧校舎の前に集合ね」
「「「賛成!」」」
女子たちに勝手に決められてしまった。
俺と深海君は蚊帳の外だ。
でも、提案したのって、深海くんだったよね?
もしかして、ホラー系も網羅してるのか?
深海くん、凄すぎ……
どうやら、蚊帳の外は俺だけだったらしい。
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