現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風

文字の大きさ
104 / 125

第104話 一難去ってまた一難

しおりを挟む



 俺の浅はかな行動のせいで、いま、ライスパーク公爵家の家族と一緒に朝食をとっている。

「ケンさんは、アンジェラお姉さんの恋人なんですか?」

 無邪気に聞いてきたのは、アンジェラさんの妹ミランジュ。十四歳だそうだ。

「いいえ、恋人ではありませんよ。そもそも私は平民ですし、身分が釣り合いませんから」

「まあ、道ならぬ恋なのですね? アンジェラお姉さん、かっこいいです」

「ミラン、それは違うのだ。ケン殿は、私とチェルシーを助けてくれた恩人なんだ。ご、誤解しないように……」

 そこへ、恰幅のいい長男ブラームスさんが口を挟む。

「聞くところによると、ケン殿はあの伝説の大錬金術師・ナナ様のお弟子だというではないか。それだけでも我々と同等、いや王族にも匹敵するお方ですよ」

「まあ、あの御伽話のナナ様の!? すごいです。ナナ様はどんな方なんですか?」

(師匠……変なところで有名にならんでくれ!)

「師匠は……小さいですね」

(絶対あとで怒られる)

 そのとき、アンジェラさんの母親がにこやかに言った。

「ところで、アンジェラ。あなたの気持ちはどうなの?」

「わ、私ですか!? えっと……ケン殿は命の恩人ですし……嫌ではないというか、なんというか……」

「なら、決まりね。ケン殿、アンジェラを嫁にもらってはくれませんか?」

(えーーっ!?)

「い、いえ! 私と致しましては、畏れ多いというか、その……」

「アンジェラは、以前とある公爵家の長男に嫁ぐ予定だったが、男の素行が悪くて婚約を破棄したんだ。その腹いせに、社交界で嘘の悪評を流されてな……。
 だが、アミリア王女殿下が気にかけて、彼女を自ら創設した騎士団に迎え入れた。
 そんな娘だが、ケン殿なら任せられそうだ」

(いやいや、まだ結婚とか早すぎるって!)

「私はまだ十六歳です。結婚のことは、まだ考えていません。アンジェラさんが嫌というわけではないのですが、まだお会いしたばかりで……」

「なら、お付き合いから始めればいいのではなくて?」

 母親が涼しい顔で言う。

「貴族家としては婚約なしに交際するのは良くないけれど、あとで“最初から婚約していた”と言えば済む話ですわ」

「……母上、それは……」

「うむ、それでよかろう。アンジェラも年頃だし、少しくらい道を外れても、あとでどうにでもなる。わはは!」

(わははじゃねぇ! この状況、どう逃げるんだよ!!)

『マスター、諦めたらどうですか? 公爵家の後ろ盾があれば、この国でかなり自由に動けますよ』

(俺の自由がなくなるわっ!)

『家をもらったら嫁もついてくるってことでいいじゃないですか』

(いらんわ!)

「そうと決まれば、さっそく家を手配せねば」

「あの……壊す予定の別宅を譲っていただけますか?」

「アンジェラから聞いているが、あれはもう手入れより建て直した方が早いぞ」

「そこに建てるのではなく、大森林の中に拠点があるんです。そこへ移築したいと思います」

「なるほど。できれば公爵領に住んでほしいが……まぁ、事情があるのだな。建物の件は任せよう」

「あ、職人さんは不要です。私が運びますので」

 とにかく家だけは確保しておかなければ。
 そのあとのことは……まぁ、なんとかなるだろう。



 緊張続きだった朝食を終え、今は壊れかけの別宅の前にいる。

 築百年近いというその建物は、先々代公爵の保養所だったらしい。

「大きな家ですねー」

「そうか? 私にはただの廃屋にしか見えんが」

 さすが公爵令嬢、スケールの感覚が違う。

「ところで、マリアンヌさん。その荷物は?」

「ご当主様から、家の管理が必要だろうと派遣されました。この荷物は私の私物です」

(ってことは、大森林までついてくるのか?)

『綺麗になった家の管理をしてくれるんです。あの規模をちびっ子たちに掃除させるつもりですか?』

(確かにそれは無理だが、公爵家に秘密が筒抜けになるのもな……)

『今更ですよ。いずれマスターは世界を手に入れるお方なのですから』

(そんなつもりねぇよ!)

「では、さっそくやりますか。【収納】!」

 次の瞬間、建物は跡形もなく消え去った。

「「なっ……!」」

 二人が驚いているが、それどころじゃない。
 すでに三時間目が始まっているのだ。

「じゃあ、帰りましょうか」

 俺は二人を影に入れ、大森林の拠点へと戻った。



「着きました」

 驚いて口をぽかんと開けているアンジェラさんとマリアンヌさんを横目に、俺は周囲を見渡した。

「ここら辺かな?」

 場所は、教会の東側。
 西側にはドワーフたちの工房があるため、屋敷を出せるのはこの一角しかない。

 俺は少し息を吸って、慎重にストレージを操作する。

 光とともに、さっき収納したライスパーク家の別宅――いや、もはや屋敷と言っていい建物が姿を現した。
 ただ、収納と放出をしたせいで、外壁の一部がはがれ、屋根も少し崩れている。

「まあ、このくらいなら…【リぺア】!」

 修復魔法を発動させると、淡い光が屋敷全体を包み込み、破損箇所が音もなく元に戻っていく。
 その代わり、かなりの魔力を持っていかれた。

(うっ……思ったより消費が激しいな)

 だがその甲斐あって、屋敷はまるで新築のように輝きを取り戻していた。

 すると、どこからともなく子どもたちがわらわらと集まってくる。
 目を輝かせ、口々に歓声を上げているが、説明している暇はない。

「ここが新しい家だ。詳しいことは、そこにいるアンジェラさんか、家の管理をしてくれるマリアンヌさんに聞いてくれ。
 俺は――ちょっと用事がある」

 それだけ言い残し、俺は急いで日本の家へと戻った。



「遅刻だ!」

 影に潜って、昨日移動したコンビニの裏に移動する。

 今から走っても三時間目は間に合わない。

「四時間目に合わせて行くか」

 コンビニに寄って、おにぎりとお茶を買い歩いて学校に向かう。

(しかし、まいった。正直、貴族を舐めてたわ)

『公爵家となれば、あれが普通でしょう。女騎士をダシにして、大錬金術師のナナと接点を持つ。公爵家にとって利のある話です』

(そんなことまで考えてんのか?俺には理解できん)

『例えばの話です。両親は素直に女騎士の幸せを願っているでしょうが、あの長男は、おそらくそこまで考えていると思われます』

(貴族、怖っ!)

 通学途中、スマホを出して『屋上のお茶会』のメンバーから、連絡がきているのを確認する。

「あちゃー!みんなに心配かけてしまったか……」

 連絡の一本でも入れておけば良かったと後悔する。

 みんなに連絡を入れてから学校に向かったのだが――

「なあ、今日はやけに飛行機が飛んでないか?」

『マスター、大変です。富士山麓のゲートからワイバーンが出現したようです』

「ええっ!? なんだって!!」

(だって、あそこは狭間がまだ消えてないはずだよな?)

『悪魔の一体が、狭間を通らずにワイバーンを誘導したのかもしれません』

(そんな芸当、できるのか?)

『ええ。悪魔がワイバーンをテイムしている場合、狭間の影響を受けません』

(ということは――悪魔との戦闘も視野に入れなきゃいけないってことか)

『ただ、現時点では悪魔の気配は確認できません。ワイバーンだけ放って、ゲートに戻った可能性もあります』

(なんて迷惑なやつだ……はあ~~、学校なのに……仕方ない。行くか)

『その方が良いでしょう。ですが、政府が緊急避難命令を出していないのが気になります』

 確かにおかしい。
 前の時は、侵攻前にすぐ避難命令が出ていたはずなのに……

 俺は人気のない場所に移動して、影に潜り、姿を変えた。
 白いマスクを装着し、ワイバーンが現れたという現場へ向かった。



「……これで、現れてくれたらいいんだが」

 その現場には、来日中のアメリカ人で、ゲート研究者、フェイス・アンダーソンがいた。
 彼女は、空を縦横に飛び交うワイバーンを、息を呑んで見上げていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

七億円当たったので異世界買ってみた!

コンビニ
ファンタジー
 三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。  ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。 「異世界を買ってみないか?」  そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。  でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。  一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。  異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。 チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

魔王を倒した勇者、次の職場は東京のラーメン屋でした

希羽
ファンタジー
異世界グランディアを救った勇者アレクサンダー、通称アレク。彼は平和になった世界で自身の存在意義を見失いかけていた。そんなある日、魔王が遺した最後の呪いによって次元の狭間に吸い込まれ、現代の東京・高円寺に迷い込んでしまう。 右も左もわからず、甲冑姿で街をさまようアレクは、警察に職務質問され大ピンチに。その窮地を救ったのは、頑固一徹だが人情に厚いラーメン屋「麺屋 漢(おとこ)」の店主、黒田龍司(くろだ りゅうじ)だった。 言葉も通じず、社会常識ゼロのアレクだったが、その驚異的な身体能力と、何事にも真摯に取り組む姿勢を龍司に見込まれ、住み込みでバイトとして雇われることに。 「レベルアップだと思えばいい」「麺の湯切りは剣技に通じるものがある」 アレクは異世界での経験をラーメン作りに活かし、次第にその才能を開花させていく。聖剣の代わりに握った菜箸で、彼は東京という新たな世界で、人々の笑顔と自らの新たな居場所を見つけることができるのか。異世界勇者の、しょっぱくて熱いセカンドライフが今、始まる。

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

辺境に追放された魔導工学師、古代遺跡の【お節介AI重機】を目覚めさせる。不毛の荒野? 多脚戦車で一瞬で温泉リゾートですが何か?

ken
ファンタジー
王国筆頭魔導工学師、アルド。 彼は10年にわたり、勇者の聖剣から王都の巨大結界まで、あらゆるインフラと魔導具の整備を一手に引き受けてきた。 しかし、その仕事はあくまで「裏方」。派手な攻撃魔法を使えない彼は、見栄えを気にする勇者パーティから「地味で役立たず」と罵られ、無一文で国外追放を言い渡される。 「……やれやれ、やっと休めるのか」 ブラックな職場環境から解放されたアルドが辿り着いたのは、誰も住まない辺境の荒野。 そこで彼は、古代文明の遺産――自律型汎用開拓重機『ギガント・マザー』を発掘する。 「あら、栄養失調ですね。まずはご飯にしましょう」 お節介なオカンAIを搭載した多脚戦車とタッグを組んだアルドは、その規格外の採掘能力で荒野を瞬く間に開拓。 地下3000メートルから温泉を掘り当て、悠々自適なリゾートライフを始めることに。 一方、アルドを追放した王国は、インフラが次々と機能を停止し、滅亡の危機に瀕していた……。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

処理中です...