現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風

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第110話 コボルトたちとある人物の思惑

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 家妖精、あるいは家精霊と聞けば、ブラウニーやシルキーを思い浮かべるかもしれない。
 だが、この世界でその役目を担っているのは、子どもの姿をした《コボルト》たちだ。

 彼らの容姿は、幼稚園児ほどの背丈。
 耳の先は細く尖って上を向き、腰のあたりには小さなお団子のような尻尾が生えている。
 一見すると獣人のようだが、れっきとした妖精であり、魔力を用いれば宙を漂うこともできるという。

 今回助けた三人――『ピケ』『ピコ』『ピピ』。
 それぞれが、男・女・女の組み合わせだった。
 彼らは妖精としての成人を迎え、仕える屋敷を探すためにコボルトの里を旅立ったらしい。

 だが、運命は残酷だった。
 辿り着いた屋敷で捕らえられ、研究施設のような場所に送られたのだという。
 そこで繰り返された実験と苦痛の果て、彼らの魔力は暴走し――
 そして、キマイラとして生まれ変わらされてしまった。

 魔石に刻まれていた命令は、ただひとつ。
 「人を見かけたら殺せ」。
 その言葉だけを胸に、暴走した魔力に操られながら、彼らは人を探し彷徨った。
 だが、屋敷の匂いを感じ取った時――本能が告げたのだ。
 ここに“家”がある、と。

「それで、うちに向かって来たんだな」

「そうだっピ!」

 小さなコボルトたちが一斉に頷く。
 どうやら彼らの話し方は独特で、語尾に“ピ”をつけるらしい。

「それで、誰に捕まったんだ?」

「男だっピ」
「骸骨みたいなやつだっピ」
「気持ち悪いやつだったっピ」

……うん、全然わからん。

「わかった。気の済むまで、ここにいていいから。今日はもうゆっくり休みなよ」

 俺がそう言うと、三人は目を丸くして、それから小さく尻尾を揺らした。
 安心したように、ホッと息を漏らす。

「マリアンヌさん、悪いけど、この子たちを空いてる部屋に案内してあげてくれませんか?」

「畏まりました。――さあ、みなさん、こちらへどうぞ」

 マリアンヌさんは柔らかく微笑み、コボルトたちを優しく導いていった。
 その小さな背中が、廊下の向こうに消えていく。
 ほんの少し前までキマイラだったとは、とても信じられなかった。

◆◆

「なにっ! キマイラの魔力反応が途絶えただと!」

 大森林の手前にある町――『フォレスト』。
 その高級宿屋の一室で、ワインを傾けながら優雅に時を過ごしていた男が、報告を受けて声を荒げた。

「ええ、確かに反応が消えました。
 あれはコボルトを素材にした合成体ですから、見た目こそ派手ですが、戦闘力は大したことありません。
 大森林には竜種やそれに匹敵する魔物もいますし、そいつらにやられたんじゃないですかねえ」

 白衣の男の呑気な言い草に、男の額がピクリと動いた。
 次の瞬間、手にしていたワイングラスが音を立てて床に叩きつけられ、紅い液体が飛び散る。

「いいか、ラミヤス博士!」
「は、はい、第四王子殿下……」

「貴様に資金を流しているのは、貴様の研究が俺の役に立つからだ。
 こうしてお忍びで聖王国まで来ているのも、その成果を誰より早く手に入れるためだ。
 先ほどのキマイラ――まだ試作段階とはいえ、少なくない金を投じている。
 次はないと思え」

「わかっていますよ、第四王子殿下。
 この暗殺を成功させてサテライト領に攻め込み、功績を上げたい――そうお考えなのでしょう?
 殿下が次期国王となられれば、私の研究もさらに進みますからねえ。
 ご期待には応えましょう」

「ならばさっさと結果を出せ! 魔法学園の実習中に、第三王女リリアーナを必ず始末しろ!」

(まったく……アミリア王女に婚約を断られた腹いせに、その妹を殺そうとは。狭量にも程がありますねえ)

 心の中で毒づきながら、ラミヤス博士は作り笑いを浮かべる。

「次は殿下の妹君を使わせていただきます。必ず成功させますとも」

「ああ、あの薄気味悪い化け物か。構わぬ、魔物にでもして俺の役に立て」

(実の妹を“物”扱いとは……。まあ、確かに、あれはもう人の形をしていませんけどね)

「では、次は良い報告を持って参りますよ」

 薄く歪んだ笑みを残し、ラミヤス博士は第四王子の部屋を静かに後にした。

 部屋にひとり残された王子は、新たなワインを注ぎ、赤い液体を一気に飲み干す。
 グラスの縁から、短く吐き捨てるように呟いた。

「……薄気味悪い奴め」



 翌朝、目を覚ますと――ベッドの上にはユリアのほか、ユメカやヒカリの姿まであった。
 全員がすやすやと寝息を立てている。

「……いつの間に潜り込んできたんだ?」

 修行中は雑魚寝が当たり前だったから、今さら気にするほどでもない。
 それでも――彼女たちもいずれ他の誰かを好きになる日が来るだろう。

「……そろそろ、自立させないとマズいかな」

 ぼそりとつぶやいたところで、コンコンと扉がノックされた。
 返事をするより早く、扉が少しだけ開く。

「朝だっピ。起きるっピ」

 顔を出したのは、昨夜保護したコボルトのひとりだった。
 少し大きめのメイド服に身を包み、スカートの裾をもじもじと引っ張っている。

「ピコ……ピピ、だったか?」

「俺はピケだっピ」

「……男だったのか」

 どうやら、服がそれしかなかったらしい。

「ああ、悪い。ピケだったな。今、起きるよ」

 だが、両脇で寝ている少女たちがしがみついて離さない。
 ベッドから抜け出すのも一苦労だ。

「ご主人は小さい子が好きだっピ?」

「ち、違うからな! 勘違いすんな」

「わかったっピ。ご主人の趣味は口外しないっピ」

「いや、違うって!」

……完全に勘違いしてやがる。

 俺は仕方なくみんなを順番に起こし、まだ寝ぼけ眼のユメカとヒカリにピケを紹介した。
 その後、屋敷の食堂に向かい、全員がそろったところで、昨夜の出来事とコボルトたちのことを説明するのだった。

……

「ケン殿、我々第五分隊は、そろそろ帰還し、王都へ報告せねばなりません。
 先ほどセンジュ殿下とアンジェラ嬢にも確認したのですが――
 一月後に、エルフの里でお祭りがあるそうですね。お二人はそれまで、こちらに滞在されるとのことです」

 第五分隊の隊長ジョナサンは、いつもの穏やかな口調でそう伝えてきた。

「報告って……俺のこと、ですよね?」

「ご安心を。ケン殿のことは上手く伝えておきます。
 それに――ケン殿の機嫌を損ねれば、我が国が滅びかねませんからな。はっはっはっ!」

 ジョナサン隊長は、冗談めかして笑った。
 だが、その裏表のない率直な物言いが、かえって信頼できる。

「俺、そんなことしませんからね。
 くれぐれも、あまり目立たない感じでお願いしますよ」

「心得ております。では、我々はこれで。
 短い間でしたが、本当にお世話になりました。
 ここでの経験は、部下たちにとっても貴重な糧となるでしょう。
 それと、センジュ殿下とアンジェラ嬢を、どうかよろしくお願いいたします」

「もう行かれるんですか? じゃあ、近くまで送っていきます」

 そう言って俺は、第五分隊の面々を影に包み、王都を見渡せる小高い丘の上へと移動したのだった。



「彼は一体、何者なんでしょうか?」

 第五分隊の紅一点、ゼリアがぽつりと口にした。

「伝説の勇者だよ、間違いない!」

 斥候のデニーズが声を張る。

「たしかに……。あれだけの魔法を使いこなし、我々を大森林の中層から王都のそばまで一瞬で移動させる。
 デニーズの言うことも、あながち的外れではないのかもしれない」

 普段は無口なガストだが、今日は話したいことが山ほどあるようだ。

 しかしジョナサンは頭を抱えている。困り顔が隠せない。

「困ったな……ケン殿のことは、どう報告すればよいのか」

「センジュ殿下やアンジェラ嬢も、そのままこちらに残してきてしまいましたし」

 ゼリアが追い打ちをかける。

「全くだ。アンジェラ嬢にはケン殿をエルフの里へ連れて行かねばならぬ事情がある。だが、センジュ殿下については理由が見当たらない。
 どんな報告をしても、怒られる未来しか想像できん……」

「怒られるだけならまだしも、降格、最悪は打首も……隊長の墓には欠かさず酒を供えておきますよ」

 デニーズは冗談めかして言う。

「おい、それはないだろ! ついでにツマミも頼むぞ!」

 ジョナサンは慌ててそれを打ち消すように言ったが、空気は多少和らいだ。




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