1 / 89
第1章
第1話 保健室
しおりを挟むたなびく雲を教室の窓から眺めている。
年老いた男性教師が板書きしながら説明するその声は単調で瞼の重しを加速させていた。
昼食後の授業のせいかクラスの大半の生徒は夢の中だ。
そう言う俺も例外ではないが、何とか眠気を抑えていた。
その時、ポケットにあるスマホがブルっと震えた。
届いたメッセージを確認すると【本日午後6時 横須賀シティホテル 601号室】と、書き込まれていた。
【了解】とメッセージを返しスマホをしまう。
請け負っている仕事は、お世話してくれてる陣開楓さんからメールで指示される。
『じゃあ、今日はここまでです。来週は中間テストだから今日のところまでが範囲です。よく復習しておくように』
チャイムがなり、古典の先生が授業の終わりを告げ、先生が教室から出て行くと、先程とは打って変わって教室内は騒がしくなった。
「マジ眠かった」
「来週テストだぜ。俺赤点しか取れる自信しかねえ」
「終わってるじゃん、それ」
仲の良い友達同士の会話が聞こえる。
俺ですか?
安定のボッチですが、何か?
「おい、蔵敷。さっきの板書き、ノートとったか?」
前の席の海川君が振り向いて話しかけて来た。
浅黒い顔には、制服による縦皺が刻み込まれている。
(こいつ、熟睡してたしな)
「いや、とってない」
「チッ。使えね~な」
そう言って鞄を持って親しい友人のところに行ってしまった。
舌打ちして、あからさまにマウントをとって俺を下に見ていても海川君は俺以外には好青年らしい。
小さい頃、親に売られて施設に監禁状態になってた俺は、学校に通うことはなかった。
助けられてからも、薬物による弊害で治療を優先していて数年が過ぎてしまった。
だが、縁あって俺の力を使い、助けた少女の親が知り合いもいなかった俺に養子になってくれる家を斡旋してくれて、この高校に通わせてもらっている。
それが竜宮寺家。
古くからこの国を支えてきた財閥の一家だ。
(さて、帰るか)
来週の中間テストのため、今日から短縮授業になっていて、いつもより早く帰れる。
「あっ、蔵敷君。ちょっと待って」
鞄を手に取り教室を出て行こうとしたら、結城渚さんから声をかけられた。
「何?」
「このプリント、清水先生に渡してもらえるかな?今日用事があって早く帰らないといけないんだ。それと再来週の球技大会の当番票。前にも話したけど私達は初日の午後イチで良いよね?」
この学校では中間テスト終了後の翌週に球技大会がある。
保健委員である俺と結城さんは、初日の午後に保健室で怪我人が出た時の対処にあたるようだ。
「構わないよ。じゃあ、これ渡しておくよ」
「うん、助かる」
プリントを受け取って保健室に向かう。
保健室に着き扉を開けようとすると、手が止まってしまう。
(清水先生がいるんだろうな)
学校で知り合いに会う気まずさを感じながらドアを開けると、消毒液とコーヒーの匂いが鼻についた。
「1年3組の蔵敷です。プリントを届けに来ました」
声をかけるとカーテンの奥から「こっちまで持ってきてくれる?今、手が離せないから」と、声が聞こえた。
カーテンを開けると窓際のデスクで白衣の女性がパソコンを見ながら「こっち、こっち」と、手招きしていた。
その女性は清水香織。
肩まである髪をポニーテールにしており、左手で掴んだコーヒーカップを口に運びながらパソコンを注視していた。
また、月水とこの英明学園の養護教員として兼務しており、俺が施設から救助されて今まで担当してくれている病院の現役の女医でもある。
「やあ、拓海君。もう学校には慣れた?友達できた?彼女はできた?」
「先生質問多すぎ、それに会うたびそれを聞いてきますけど」
「ええ~~、そうだったっけ?」
そう呟いた清水先生はパソコンから目を離し俺を見た。
「じゃあ、取り敢えず制服脱いでくれる?」
「えっ!?」
言ってる意味がわからない。
「早くしてね。衣紋掛けはそこにあるから」
「えっと、どういう状況?」
「鈍いなあ拓海君は。せっかく会えたんだから診察するに決まってるでしょう」
「診察は来週の金曜日でしたよね?何でここで?」
「拓海君は特異な体質だからね?興味……医者として心配しているんだよ」
「今、興味って言いかけましたよね?」
「あれ!コーヒーが冷めちゃった。拓海君も飲むよね。今、入れるから待ってて」
清水先生は、殆ど空になったコーヒーカップを手に、席を立ってしまった。
(誤魔化しているのバレバレなんだけど)
清水香織先生は、僕の事情を知っている数少ない人の一人だ。
約三年ほどの付き合いだが、日常生活を送れるまで面倒を見てもらった恩人でもある。
言ったら聞かない人なので、仕方なく制服のブレザーを脱いでネクタイを緩める。
「コーヒーここに置いとくよ。しかし、拓海君は行動が遅いよ~~まだ上しか脱いでないじゃない。早くズボンも脱いでね」
「はっ?診察でズボンも脱ぐんですか?今までそんな事は無かったはずでは?」
すると清水先生は呆れたような顔をしてこちらを見つめる。
「拓海君。ここは保健室だよ。いつもの診察室じゃないのよ」
「そんな事はわかってますけど」
「この部屋には都合よく身長計測器や体重計、それに視力の検査機材が揃っているんだよ。ここまで言えばわかるよね?」
つまり普段の診察でしていない身体測定をするということか。
「理解したみたいだね。では、早速まっぱになってね」
まっぱってなんだよ?
「パンツは脱ぎませんからね」
「う~~ん仕方がないか。平常時と戦闘時の長さや角度、それに溜まり具合を測っておきたかったんだけど、それは次の機会にしようかな」
「そんな機会は永遠に来ませんから!」
全く冗談じゃない!
僕の身長は、ここ3年で急激に伸びた。
先月の学校で行われる身体測定では171、3センチだったはずだ。
それから俺は、服を脱いでパンツ一丁になった姿を清水先生にジロジロ観察された。
「体格が少しだけしっかりしてきたねえ。筋肉も程よく付いているし」
清水先生は、僕の身体をプニプニと触りながら独り言のように話続ける。
「栄養状態が良いのかな。楓ちゃんが一生懸命栄養バランスを考えてお料理してる成果だね」
楓ちゃんとは、世話人の一人である陣開楓。
授業中に仕事のメッセージを送って来た人物だ。
施設から解放されてからいろいろあって、今現在は都内のマンションに一緒に住んで世話をしてくれている。
きっかけは、竜宮寺家の末娘の治療をした時に遡る。
竜宮寺家の当主の奥さんの妹である蔵敷家に養子として迎えられてから、竜宮寺家に代々仕えてきた陣開家の長女である楓さんを紹介してもらった。
因みに清水先生と陣開楓さんは高校の同級生でもある。
「楓さんには十分過ぎるほど良くしてもらってますよ」
「学生時代は料理はからっきしだったはずだけど、あれから特訓でもしたのかな」
「楓さんの料理はとても美味しいですよ。ところで先生は料理の方は?」
「拓海君、まずは身長を測ろうか」
(あっ、誤魔化した。苦手なんだ)
それから先生の言う通りに身長、体重、視力検査。血圧から脈拍まで測られた。先月学校で測ったばかりなので結果は殆ど変わらない。
「じゃあ、これで最後っと」
一連の検査を終えて、清水先生は僕に抱きついてきた。
「先生、ここ学校ですよ。誰かに見られたらマズいですって」
先生曰く。ハグも医療行為の一つらしい。
これがあるから、この先生は苦手なんだ。
先生は僕に抱きつき何やら頬を胸に擦り付けている。
「うん、拓海君は大分逞しくなったねえ」
(くすぐったいんだけど……それと匂い嗅ぐな!)
だが、その時保健室のドアが開いた。
「先生、球技大会のプリント持ってきまし……た。失礼しましたああああああああ」
「待って、誤解なんだ!!」
咄嗟に声をかけたが、無情にもその娘は、ドアを閉めて走り去ってしまった。確かあの娘は2組の保険委員だったと思う。
「先生、どうするんですか!変な噂が流れちゃいますよ」
「そうだね~~今度は鍵をかけてからするとしようか」
ダメだ、これ……
その後、先生を説得するまで俺は裸のままハグされていたのだった。
ーーーーーー-------
登場人物
蔵敷拓海(クラシキ タクミ)
15歳。誕生日は11月3日
癒しの能力を持つ覚醒者。
12歳の時、闇の施設に居たところ、国の機関のエージェントによって解放されるも薬物投与の弊害で専門の病院で3年程治療を受ける。
日常生活が送れるぐらいには治療が進むと、竜宮寺家の紹介で今年から英明高校に入学する。
逃げた闇組織の人間を欺くために、視力は良いのだが、普段から伊達メガネをかけており、髪は目元まであるほど長めだ。
それと癒しの能力には代償もあるのだが、それは、次回のお楽しみという事で……
清水香織(シミズ カオリ)
年齢は?おそらく30前後。
身長は150前後で、普段は竜宮寺家経営の病院の女医。
月水金と英明学園の養護教員として兼務。
髪を降ろすと子供っぽいと思っており、普段からポニーテールにしている。
好きなものはコーヒーと拓海に抱きつく事。
結城渚(ユウキ ナギサ)
15歳。誕生日は7月7日
英明学園の一年3組で拓海と同じ保険委員。
学年一と噂のある美少女。
髪は、ボブカットにしており、少し茶髪気味。
部活はテニス部に所属しており、運動神経は良い方。
入学してから一月半で既に二桁の男性から告白されたらしいが、全て断っているようだ。
陣開楓(ジンカイ カエデ)
年齢?おそらく30前後。
陣開家は古くから竜宮寺家に仕える一族。
竜宮寺家から派遣されて拓海の保護者兼世話人として、都内のマンションに一緒に住んでいる。
拓海の担当医である清水香織とは高校時代の同級生。
海川翔(ウミカワ カケル)
15歳。誕生日は9月22日
英明高校一年3組で野球部員。
スポーツ狩りの浅黒い少年で、プライドは高く拓海の事を『隠キャ』と馬鹿にしている。
拓海の前の席だが、拓海と会話する事は滅多にない。
128
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる