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第1章
第13話 夕食会
しおりを挟む新たな車は、黒塗りの高級車だった。
窓は防弾ガラスになっていると、スーツ姿の運転手が言う。
その人がただの運転手ではないと目付きと身に纏う雰囲気がそう思わせた。
ホテルに着くと玄関の前で楓さんが待っていた。
「拓海様、ご無事で何よりです」
そう言って抱きついてきた。
余程、心配してたのだろう。
「大丈夫だよ、それに霧坂さんが頑張って警戒してくれたからその後は何ともないよ」
「柚子もご苦労様でした。頑張りましたね」
楓さんの声かけに、緊張が緩んだのだろう。
涙ぐみながら「楓せんぱい」と言いながら、楓さんに抱きついて行った。
そんな楓さんの背後には、見慣れた人物がいた。
「拓海くん、話を聞いたときは驚いたよ。とにかく、無事でよかった」
いつもは胡散臭い笑顔を浮かべるイケメン生徒会長の言葉には、嘘はなかったと思う。
「さあ、おいで」
だが、両手を広げてハグを誘うのはやめてほしい。
「生徒会長、それはないです」
「つれないなあ、拓海くんは。それとプライベートでは孝志って呼んでくれって前に言ったよね」
「そうでした。で孝志さんはなぜここに?」
「いきなりだねー、それは……」
その時、ロビーから走って来た少女が抱きついてきた。
「拓海お兄さま~~」
そうか、今日はそういうことだったのか。
「明日香ちゃん、久しぶり。元気してた?」
「はい。明日香はお兄さまから治療を受けてから毎日元気にしています」
この少女が竜宮寺明日香。
竜宮寺家と縁を結ぶきっかけとなった少女だ。
☆
ホテルの上階にある料理店の広い個室で、みんなと会合した。
竜宮寺将道、竜宮寺家の現当主を筆頭に奥さんの竜宮寺瑞希。
竜宮寺家に古くから仕えている陣開尚利、楓さんのお父さんだ。
それと明日香ちゃんと生徒会長の間に座っているのは、俺の養母でもある蔵敷清華さん。
そして、俺と楓さんに霧坂さん。
霧坂さんの隣には、見たこともないお爺さんがいる。
霧坂さんが「もう、お爺ちゃん、なんで来たのよ」と言ってるので霧坂さんのお爺さんなのだろう。
この他にも屈強な男達が店のあちこちに待機していた。
「では、先ほどロビーで顔合わせしたと思うが、拓海くんの遅くなった入学祝いという事で近しい者達に集まってもらった」
そうなんだ。これが話に聞くサプライズってことか。
「皆さん、お忙しいのに俺の為にありがとうございます」
「実はね、明日香がどうしても拓海くんに会いたいって言うもんだから、みんなで会いに来たのよ」
そう言ったのは、瑞希奥様だ。
「お母様、それは言わない約束です」
「ふふふ、明日香ちゃんは拓海くんのこと大好きですからね」
「うう……」
養母の清華さんが余計なことを言ってるし、明日香ちゃんなんて真っ赤になってる。
「俺も皆さんにお会いできて嬉しいです。明日香ちゃんも俺に会いたいって思ってくれてありがとう。とても嬉しいよ」
「拓海お兄さま~~」
「あら、拓海くんは将来女泣かせのジゴロになりそうね。私も立候補しようかしら」
「清華さんは、俺の養母でしょう?それに優しい旦那さんがいるじゃないですか」
「拓海くんも言うようになったわね。私、嬉しくって涙がでそうよ」
「もう、清華さん、泣きまねはやめて下さいね。ハンカチがいくつあっても足りませんから」
「ふふふ、バレちゃったら仕方ないわね」
「食事もきたことだし、拓海君、乾杯の挨拶たのめるかな?」
当主のご指名とあらば、仕方ない。
「では、みなさまグラスをおとり下さい。今日はお忙しい中、私の為に足を運んで頂き感謝しております。皆様のご多幸と今後のますますのご活躍を祈念いたしまして、乾杯の音頭を取らさせていただきます。では、乾杯!」
「「「「「「乾杯」」」」」」」
それからは、とても賑やかで楽しい夕食会となった。
☆
夕食後、竜宮寺将道現当主に部屋に呼び出された。
この場には、当主の他、楓さんとお父さん。霧坂さんのお爺さんがいる。
(ここからが、本題ってことか)
何時も凛としている楓さんが不安そうにしてるのが、よい証拠だ。
「拓海君が襲われたと聞いた時は年甲斐もなく焦ったよ。でも、2度襲撃されて生き延びてくれたことにとても嬉しく思っている」
「勿体無いお言葉です」
「実は、先日拓海君が以前くらしていた施設の子達を保護している施設も襲撃を受けた。少なからずの犠牲者も出してしまった」
このことはアンジェから聞いて知っている。
「襲撃者は能力者の集団のようだ。前の施設から逃げ出して新たに組織化されたようだ」
「そんな事があったのですね」
「これは拓海君の自宅や先程の狙撃犯とは別件だと思われる」
「確かに自宅を襲ってきた襲撃犯は、妙に統率がとれてましたし、日本語も外国人特有の訛りがありました」
「拓海君は鋭い観察眼を持ってるようだ。その襲撃犯を尋問したところある情報が入った」
「そうなんですね」
「うむ。彼の大国のもの達だそうだ。ある人物から拓海君の情報を仕入れて、早急に動いたらしい」
情報を知って日本帝国にいる工作班が動いたわけか……
「早急に動いた理由だが、彼の大国の党首は以前から病気を患っていると噂があった。もし、この噂が本当なら早急に動かなければならないほど病状が悪化していると判断できる」
「だから治癒能力を持つ自分が狙われたのですね」
「そういうことだ。さて、ここからが本題なのだが、拓海君には彼の国に行って治療をしてもらえないかという政治家がいる。その政治家は、まあ彼の国から資金を受け取っていると言われる売国奴の政治家だ」
そういうやつもいるだろうな。
「また、別の政治家は病気を治させる代わりに停戦条約や不可侵条約を結びたいと言って来た。つまり、公にできない君の手柄を自分の手柄にすり替えたいと私の前で堂々と言ったのだ」
えっ、当主さん、ちょっと怒ってるぽい?
「それはどうなんでしょう?」
「今の政治家達は自分のことで頭がいっぱいらしい。今以上の地位や名誉、お金が欲しいらしいが、他人を利用するしか能のない連中にこの国の行く末を任せておくわけにはいかない」
「そういうわけで、話はきたのですが、当主様は拓海様の身の安全がどこにも保障されていないと断ったのです」
それはありがたい。中間テストもあるし俺は平穏に暮らしたいんだ。
国家の未来をどうのこうのとか、正直どうでもいい。
「だが、現状を理解しておいて損はない。現党首は世界統一という野望を抱いている喰えない人物だが、保守的な一面をも持つ。我が国に度々ちょっかいをかけてくるのは軍幹部を中心とした主戦派の連中だ。今、現党首が倒れれば主戦派の連中が台頭するだろうと言われている。そうなれば民間人を巻き込む戦争に発展してもおかしくない」
すると楓さんのお父さんが、
「拓海様、今現在日本帝国はいつ開戦してもおかしくない非常に危険な状況にあります。現党首が主戦派ではない後任を党首とするまで、生きていてもらいたいと思っている人達は多いはずです。
この話を断った事はそういう人物からの接触も増えるという事です。
私達の目の届く場所では、水際で対処ができるでしょうが、拓海様を今以上の危険に晒されてしまうのが心苦しいのです」
「現に今日の狙撃だ。おそらく主戦派かそいつらに雇われた者だろう」
すると、楓さんのお父さんが。
「おそらくそうでしょう。残念ながら連中は国内の主要な部所にも潜り込んでいます。情報が漏れたのは必然でしょうね」
(日本帝国はスパイ天国だしね)
現党首派と主戦派。
争うのは自国内だけにしてほしいものだ。
「わかりました。私自身、政治はよくわからないのですが、竜宮寺家の皆さんや親しくしてくれる人達が困るのなら私は出来る限りのことをするつもりです」
俺はそう答えたのだった。
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