21 / 89
第1章
第21話 入院(2)
しおりを挟む『面会謝絶・スマホ禁止』という清水先生のお言葉によって、広い病室に置いてあるソファーに座ってテレビを観てる。
暇すぎて何もすることがないというのは、憧れでもあったのだけど、慣れない人にとっては拷問なのだと思い始めていた頃、木原看護士が昼食を運んでやってきた。
「ここに置いておきますね。食欲はあるかな?」
「ええ、いつも美味しく頂いてます」
ここの入院食は豪華だ。
夕食に高級牛肉のステーキが出たりもする。
「清水先生が、午後から病院内なら出歩いてもいいって言ってましたよ」
「そうですか、じゃあ、ご飯食べたら、少し散歩してきます」
目を覚ましてからの、入院生活は2日目。
倒れて病院に運ばれてから5日は経っている。
楓さんを始め、みんなに心配をかけてしまったのが心苦しいが、清水先生から、あまりそういうことを考えないでのんびりしなさい、と言われている。
量の多い昼食を食べて、散歩がてらに屋上にやってきた。
周りには、鉄格子のような高い柵に覆われており、威圧的な感じをあたえるが意味するところは何となくわかる。
そこに置いてあるベンチに腰掛けて空を見上げる。
太陽はおおい尽くされた雲に隠れているが、ところどころ青空がのぞいていた。
「あ、そこ私の席」
声がかかり、そちらを見ると銀髪の髪に青い瞳、それと入院服に薄手のカーディガンを羽織った少女が、パンとジュースを持って立っていた。
「あ、ごめん、すぐ退くから」
「詰めてくれれば大丈夫」
少女もこの病院に入院しているのはその姿でわかる。
「今日はあまり良い天気じゃないわ」
「確かに、雲が多いね」
「紫外線対策しなくて済む。でも私は青空が好き」
「そうなんだ、俺は空を見られれば何でもいいかな?」
雨でも雪でも暗い場所で監禁されているより100倍マシだ。
「ねえ、パン食べてもいい?」
「いいよ。君のだろう?」
「うん、でも取らない?」
「取らないよ。それに昼食はもう食べたから」
「そうなんだ、安心した」
その少女は、パンの袋を開けて美味しそうにかぶりついた。
「初めて見る顔。入院したばかり?」
「5日前に入院したんだ。目を覚ましたのは2日前だよ」
「そう、私は2週間………ぐらい?ちょっと忘れた」
そう言った少女は、無表情で今度はジュースを飲んでいた。
この無表情な顔はよく知ってる。
施設に囚われていた子達は、殆どがこんな顔になっていた。
俺も未だに!感情を表すのは苦手だ。
いつか、恭司さんみたいになれればいいけど。
(いや、あれはないな……)
「何かお話して」
(お話と言ってもなあ、あ、最近読んだあの本は……)
そう少女に催促されて、この間飯塚君に勧められたライトノベルの本の内容を噛み砕いて話した。
「ふ~~ん、続きは?」
「俺が読んだのはそこまでなんだ。続きは買ってない」
「じゃあ、早く買って読んで」
何故か催促された。
お気に召したのか?
「俺も入院してるんだ。今は買いに行けないぞ」
「そうだった……」
「別にその話じゃなくてもいいだろう?」
「まだ、あるの?」
そう聞かれて、絵本やそう言った情操教育的な話は名前を知ってるだけで読んだこともなければ、聞いたこともない。
「……ないな」
「私と同じ」
やはり、この子は……
「もう、食べ終わったから行く」
そう言って席を立って屋上から去って行った。
足元に、少しばかり氷のカケラが散らばっていた。
☆
「楓ちゃん、ここはちゃんと病院食があるから、毎日食事を作って持ってこなくてもいいんだよ」
清水先生の診察室の近くにある面談室に、陣開楓と清水先生が話し合っていた。
「そうはいきません。拓海様のお食事は私が作らないと」
「楓ちゃんが言い出したら聞かない性格なのはわかっているけど、そんなことしてたら楓ちゃんまで入院するようになっちゃうよ。
今回の面会謝絶は、拓海君のためだけど楓ちゃん達のためでもあるんだ。できれば、ゆっくり休んでほしい」
「でも、私は拓海様のあの表情を見て何も出来なかった。あの時、無理にでも病院に連れて行ったら少しは楽になったのに」
「拓海君は顔に表情が出ないから、その顔を理解できてる楓ちゃんは拓海君のことちゃんと見てるよ。私だって、金曜日の診察の時、気づいていればって、今でも後悔してる」
「それでも私は……」
「拓海君は一応社会復帰はできている。でも、こういうことは少なからずあると思ってるわ。いずれ、その頻度が少なくなっていって入院しないで済む日が来ると思う。それまで、時間はかかるけど見守る覚悟はできてるんでしょ?」
「ええ、勿論です。拓海様にお会いしてから私の心は決まっています」
「ほんと、拓海君は女たらしの素質があるわ。あの陣開楓がねえ~~」
「茶化さないでください。殺しますよ」
「おーー怖い。でも、いつもの楓ちゃんだ。とにかくここでは私に任せて。食事も特別扱いしないから、もう持ってこないで。
拓海君だって心配かけてる自覚があるんだから楓さんの負担が増えると拓海君の症状だって良くはならないわ。きっと、拓海君だって楓さんがのんびり過ごしていた方が気が楽になるはずよ」
「わかっているのですが、何をしても手につかず、拓海様のお食事を作っている時が一番気が紛れるのです」
「ププ、高校生の楓ちゃんに、今の話を聞かせてあげたいくらいだわ。でも、ほんとに拓海君の食事はダメだよ」
「一品でも?」
「一品でもです。病院の栄養士さんの仕事を奪う気かしら?」
「わかりました。面会謝絶が取れたら一番に連絡下さいね」
「わかってる。それより、薬出しとくから帰りにもらって帰ってね。ただの睡眠導入剤だから」
「わかりました」
部屋を出ていった楓さんを見送って
「拓海君、愛されてるなあ~~、楓ちゃん、わかってるのかな?これが遅い初恋だって……」
昔の陣開楓を知ってる清水先生だけが気づいてる事だった。
☆
屋上で少しのんびりしてると、お爺さんたちが来た。
座れる所を探しているようなので、俺はベンチから立ってその場を後にする。
部屋に戻ってテレビをつけると、ワイドショーがやっていた。
最近起きた事件や出来事を学者やコメンテイターが意見を言っている。
『次はこの事件です。20日月曜日の午後に東北地方の◯◯県で~~』
子供が学校帰りに行方不明か。
『家に帰って来ない娘を心配した両親が警察に相談。直ぐに捜査に当たった模様ですがいまだに足取りが掴めていない状況です』
詳細に描かれたクリップを出して司会者の一人が説明している。
「公開捜査に踏み切った段階が遅いのでは?もっと早く公開していれば情報も集まったと思うけど?」
コメンテーターのひとりがそう話す。
『それに関しては、現地にいる佐藤さんに聞いてもらいましょう』
画面がかわり現地にレポーターがその件を含めて説明しだした。
組織だって動かれたら、目をつけられ時点で回避するのは難しい。
犯人が単独犯でも行き当たりばったりでなければ、ヘマをしなければ成功するだろう。
犯人が大人ならその力に子供は抗えない。
「嫌な事件だな。早く無事に見つかってほしいな」
施設に捕らわれた子供達を思いだす。
誘拐された子供がほとんどだったからだ。
今はその組織はなくなっているけど、もしかして新しい組織が?
逃げ出した研究員もいると聞く。
もし、あいつが生きてたなら……
俺を化け物と罵って、手足を切り落としたあいつが……
「はあーー、はあーー」
呼吸が荒くなってきた。
「あいつは、ここにはいない、ここにはいないんだ」
落ち着け、落ち着くんだ。
息を整えて…
何度も深呼吸をして、みんなの顔を思い浮かべた。
『アンジェ……』
幼い頃のアンジェを思い浮かべ、心が落ち着いてくるまで耐えていたのだった。
65
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる