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第1章
第36話 古文書
しおりを挟む長い隧道を抜けるとそこには、小さな村があった。
藁葺き屋根の簡素な家が散在するその村は、総人口が30人にも満たない。
山を切り開いた土地は、平坦な部分が少なく稲作をしても家族が食べるだけで精一杯だ。
そんな村に1人の男がやってきた。
着てる服はボロボロで、痩せ細っており、髪にはシラミがわいていた。
そんな不審者の様相の男は、大きな風呂敷を重そうに背負い、ふらつきながら一軒の家の前で倒れた。
家の者は驚いて、その男を家の中に招き入れ介抱したのだった。
すっかり元気になった男は、お礼に背負っていた風呂敷の中から金塊を取り出して渡した。
その様子を覗き見ていた、隣の家の者は金塊を手に入れるために、その男を家に招待した。
お礼を期待した家の者は、いつ金塊を貰えるのかと待っていたが、その男は言葉ひとつのお礼を言って出ていこうとした。
冬の為に保管していた食料をその男に振る舞った為、金塊をもらえなければ冬を乗り越える事ができない。
家の者は、その男に詰め寄った。
しかし、金塊は山で偶然拾った物で、他には持っていないという。
怒った家の者は、どこで拾ったのかと問い詰めその場所を聞き出した。
そして、家にある鉈でその男を叩き殺した。
そのあと、家の者は金塊を拾った場所に行ったのだが、その山は険しい岩山で切り立っており、ひとが足を踏み込める場所ではなかった。
家の者は、そこで足を滑らせて谷底に落ちたそうだ。
「それが、この谷底ですか?教授」
「ああ、古文書の解析の結果ここで間違いない」
早稲山大学の考古人類学の大橋教授は、数人のゼミ生を引き連れて信州にある険しい山に来ていた。
「当時の登山技術では、流石にここまでは来れなかったでしょうね?」
「今は途中まで車で来れるし、登山道だって整備されているからね」
「大橋教授は、その不審者まがいの男が拾ったという話を拾ったのではなく採掘したと解釈したのですね」
「比較的新しい文献なのだが、虫食いがひどい状態だったから、判断には迷った。大きな風呂敷を持っていたという記述にヒントがあると思うんだ。このような山は昔は山岳信仰の対象だった。修験者が神聖な山を信仰の対象として修行場に利用してたはずだ。この不審者まがいの男は、修験者の成れの果てではないかと思う。そうでなければ辺鄙な村に辿り着けるわけがない」
「弘法大師も山岳修行で水銀を重用していたと言われています。今では水銀は蓄積されれば人体に影響を及ぼす毒としての一面を持っていますが当時は仏像制作に欠かせない貴重な物だったと言われてます。修行過程で水銀を得られる行為、即ち採掘をしてたのではないかと判断できます」
「安藤君はどう思うかね?初めてのゼミで少し疲れたかな?このゼミはこういう場所に結構来るので体力をつけておくように」
「確かに疲れましたがこういう場所は好きです。僕にはまだそこまでの知識も経験もありません。教授や先輩方の考察に異論はありません」
「昔の修験者は鉱山技師としての一面を持っていたと言われていますので、教授の考察に間違いないと思います」
その時、崖の上から大きな石が落ちてきた。
「落石だ、にげろ!」
だが、その場でひとりの学生に落石があたり危篤状態となったのだった。
☆
竜宮寺家の当主である将道さんと奥さんが帰ってきた。
一緒に付き添っていた楓さんのお父さんも一緒だ。
結城一家とみんなで一緒の食事をとり、その場で結城さんに裁判の件のお礼を言っていた。
だが、結城さんの話では奇跡としか表現していないが、いつの間にか証拠となるUSBメモリがメモと一緒にテーブルの上に置かれていたと言う。
その話を聞いて、そんな芸当ができるひとりの人物に心当たりがありすぎた。
(アンジェ、何してんだよ~~)
俺の机の中にもメモを残しているので、間違いはないだろう。
(まあ、楓さんや茜さんが喜んでいるので助かったけど……)
アンジェの気まぐれだと思うが、あとで何かお礼をしなければならない、と考えていた。
その時、楓さんのお父さんに電話が入った。
何やら深刻な顔で電話の相手の話を聞いている。
電話が終わって将道さんと小声で話をしている。
「食事の席で失礼した。すまんが拓海君と楓君は応接室に来てくれないか?」
言われた通り応接室に行くと、すまなそうな顔をして話し出した。
「先程の電話だが、総理からだった。外務大臣の安藤君は楓君は知ってるね。そこの長男で早稲山大学に通っている勇人君が落石に遭って重体だそうだ。今、信甲州大学病院で治療を受けているが望みは薄いと医者に言われたそうだ。
前回の拓海君達の救出で総理や外務省には借りがある。
できれば、この依頼を受けてほしいのだが、どうだろうか?」
仕事の話だった。
俺の救出に力を貸してもらったのなら断る理由はない。
「俺は構いませんよ」
「私は拓海様がそうおっしゃるのなら従います」
「急な話ですまない。また、拓海君に負担をしいることになってしまって申し訳ないと思う」
「では、車を用意します。信甲州大学病院でしたら、ここから40分ほどで着きますから」
楓さんのお父さんが車の手配をする為、部屋を出て行った。
「一応、護衛に恭司君を頼むとしよう。今回の相手は男性だからね」
治療対象が男性の場合は恭司さん、女性の場合は霧坂さんと慣例化しつつある。
「拓海君、頼んだぞ」
「わかりました」
その晩は、急な仕事が舞い込んだのだった。
☆
「楓さんは安藤外務大臣を知ってるの?」
「ええ、お仕事で何度か顔を合わせてますし、パーティーの席でもお会いしてますよ。拓海様の通ってらっしゃる英明学園2年生に今回の治療相手の妹さんが通ってますよ」
「そうなんだ、知らなかった。もしかして英明学園って裕福な人達が通う学校なの?」
「そういうわけではありませんが、比較的多いのは事実です。教師達も優秀な人が多いですし、セキュリティーも他の学校と違って整っています。そんな学園の体制がそういう生徒を呼び込むのでしょう」
いま、竜宮寺家の車で病院に向かっている。
運転手さんと助手席には恭司さん、そして、後部座席に俺と楓さんが乗っている。
恭司さんは仕事の時はあまり無駄口をたたかない。
それに、真面目な顔をして崩そうとしない。
それは、依頼先に向かう途中が危険だからだ。
どこからか話が洩れてしまった場合、俺の居場所が特定されてしまう。
敵として狙うなら治療する病院か、若しくは移動中だろう。
「安藤家は、九州の名家である永善家の親戚にあたります。ですので、当主様も総理も無碍にはできなかったのでしょう」
九州の永善家か、初めて聞いたよ。
「あ、もしかしていつも食べてる魚の形をしたお菓子のエイちゃんスナックって永善家の関係企業?」
「そうですよ。永善家は、他にも色々な業種を展開していますが食品関連が強いですね」
確かに人の生活の根源をなす衣食住の食に強いのなら、企業運営は安泰なのかもしれない。
「そろそろ、着くぞ。拓海、気をつけろ」
楓さんも一緒にいるので実質護衛は二人なのだが、楓さんは弁護士でもあるため主に関係者に対して治療に関しての約定を説明したり契約したりと法律関係の仕事を主にしている。
病院に着き、恭司さんが先に降りて周囲を警戒する。
そして、俺と楓さんに合図した。
「周囲は問題ない。院内はわからないから俺から離れるな」
ドアを開けて素早く院内に入る。
楓さんが夜間受付で、対応していた。
夜間診察の待合室では、泣いている大学生らしい数人の男女がいた。
治療済みなのか、手や足に包帯を巻いている人もいる。
だが、いずれも軽傷のようで小声で話し合っていた。
救急用の診察室からひとりの医師が出てきた。
その医師と楓さんが話し合っている。
医師の声がこちらまで聞こえてきた。
内容が漏れる心配をしたが確信的な言葉を楓さんは伝えていないようだ。
話し合いが終わったが医師は怪訝そうな顔をして俺達を招き入れた。
その光景を一人の学生が見ていたのだが、それに気づいていた俺と恭司さんは敵意がないものと判断して無視したのだった。
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