58 / 89
第1章
第58話 軋轢
しおりを挟む警視庁特殊任務課の一角にあるSP対策本部と呼ばれるの室内で所長の道明幸嗣は、この課の本部長代理である清水奈美に意見を聞いていた。
「山形県で1件、福島県で6件の事件が起きている。その内3件とも火災によって焼死体として検死されたが、いずれも頭部を強い打撃を受けて吹き飛ばされたと報告が来ている。これに関してどう思う?」
清水奈美は、少し思考を巡らせて話し出した。
「重量のある鈍器で殴打すれば、そのような状況になると思われますが、物的証拠は上がってなく、犯人が持ち歩いている可能性もありますが現実的ではありません。
火災以外の現場では指紋や毛髪も採取されており、犯人は男で血液型はAB型と報告書には記載されています。
もし、能力者の疑いがあるのなら身体強化系の能力者であり、極めて稀ですが火炎能力も併せて持っていることになります。
保護施設で身体強化系の能力者の測定結果がありますが、拳ひとつでコンクリートを破壊していました。
火炎能力者の測定は暴走の危険があるためテスト結果は皆無でしたが、能力を制御できる状態でならば火災の一つや二つ起こす事など容易いことだと思います」
「旧施設から逃げ出した連中の1人の可能性があると?」
「断言はできませんが、十分に考えられます」
道明所長はパソコン画面を清水奈美に向ける。
「犯人の足取りだ。時系列に示してある」
「南下してますね。電車での移動ではなく、車の移動ですか?」
「いや、現場近くの防犯カメラやNシステムを片っ端から洗ったが、同じ車は見つけられなかった。勿論、バイクや自転車も同様だ」
「身体強化系の能力で移動してるのですか?」
「車を変えてる可能性も否定できないが、能力者と断定して郡山市付近の防犯カメラも当たってみた。そこに映っていたのがこれだ」
「随分、ボケてますね。もしかして走ってる?」
「ああ、おそらくそうだ。旧施設にいた者ならば社会経験は皆無だろう。今の連中は車も運転するが、それは一部の者たちだけだと私は思っている。この犯人はおそらく車の運転や電子機器などには疎いと思う」
「郡山市というと電車での移動を目的としているのでしょうか?」
「おそらくそうだろう。だが、駅周辺では怪しい人物は見つかっていない。もしかすると、警戒して徒歩、若しくは走って移動していると思われる」
「そうなってくると、今頃は那須周辺ですか?」
「ああ、あそこは別荘が多い。使われていない別荘もたくさんあるはずだ。こいつが潜むのにはうってつけだ」
「周辺の警察への連絡は?」
「既に済んでいる。拳銃の発砲許可も出していると聞いている」
「となると捕まるのは時間の問題ですね」
「うむ、そうだと良いのだがな」
道明所長は、その言葉尻を濁らせていた。
☆
いつも通り学校に行くと大騒ぎになっていた。
何でも海川くんと沼川くん、そして山川くんの三人と2年生の野球部員である人が無期停学の処分を受けたそうだ。
「これって実質退学処分と同じだよね?」
「ああ、学校側からすれば自主退学しろって言ってるのと同じだよ」
「だから外部生はダメなんだ」
「学年の半分は外部生だぞ。その発言はマズいって」
そんな話が学校のあちこちで話されていた。
話は加速的に広がっていき、話は内部生と外部生との問題へと転換していった。
この学園は名家の庇護下にありそれぞれが出資しているため、学園経営上は問題がない。
しかし、いくら経営が安泰とはいえ生徒がいなくては学園を存続させるのは難しい。
数十年前からそう言った理由で外部生の受け入れを始めたらしいのだが、やはり小さな問題は起きていたようだ。
それが、今回の事件を火種として大きな軋轢を生むことになってしまった。
「って生徒会長の立科さんがメッセージで教えてくれたよ」
「そうなんだ。私も高校からの外部生だからいじめられたりするのかな?」
渚は、少し不安そうに言った。
「それなら俺もそうだしアンジェもそうだ。内部生は柚子だけだよ」
「学校って面倒ね。みんな仲良くすればいいじゃない」
「私もそう思うよ。でも、こういう話が出るってことはそう思っていない生徒も多いってことでしょう?」
「学校という狭い社会の場合ですと些細な問題でも大きくなったりしてしまうものですわ。おほほほ」
柚子は周りに他の生徒がいるから猫を飼い始めたようだ。
「きっと優秀な生徒会長さんがどうにかしてくれるよ」
その時はそう思っていた。
昼休みになると生徒会長の立科さんからメッセージが届いた。
【至急、生徒会室まで来るように】
嫌な予感がする。
嫌々生徒会室を訪れると嘘くさい笑顔で歓待してくれた。
「やあ、拓海君が来てくれて本当に嬉しいよ」
「他の人達はどうしたんですか?」
「ここにいるのは私だけだよ。みんなテスト勉強があると言ってさっさと帰ってしまった」
なんかマズい雰囲気だ。
「俺も勉強しないとマズいですし帰りますね」
「そう慌てることはないよ。拓海君」
そう言って肩を掴まれた。
「会長、いや孝志さん、本音でいきましょう。俺に話があるんですよね?」
「うわあああああああ!拓海く~~~ん。僕はもう限界なんだあああ」
突然、大きな声で叫びながら涙目をしている。
「何があったんですか?」
「よくぞ、よくぞ聞いてくれた。朝からクレームが届きっぱなしで対処できない。拓海君も関わっているのだろう?無期停学生徒が外部生だったことで内部生からのクレームが酷いんだ」
生徒会って大変そう……
「話は大きくなりましたが、以前から問題はあったと聞いてますよ。その時はどうしたんですか?」
「この件は学校の経営問題に絡んでくるから、対処もへったくれもないんだよ。だから、時間が解決するまで放っておいたようだ。だが、今回は違うんだよ。実質退学処分と同じ生徒が外部生だった
つまり、外部生が英明学園の品位を落としたとして大、大、大問題になってしまったんだ。私の代でどうしてこんな面倒が起きるんだあああああ」
孝志さんは壊れてしまったようだ。
ご愁傷様です。
「大変ですね。では帰ります」
「拓海君、それは出来ないんだ。何せ今回は内部生の霧坂さんが外部生にハメられたって話になってきてるんだから」
柚子があの現場にいた事が漏れているのか?
でも、何が問題なんだ?
「柚子は気にしてないと思いますよ」
「違う、違う、違うんだよ。霧坂さんは内部生からは家柄の高い品位のあるお嬢様として認識され人気があるんだ。そんな子が外部生徒にハメられたんだぞ。問題だらけじゃないかあ!」
会長は興奮して話してるが、それの何が問題なのかわからない俺だった。
「柚子って人気があるんですね。初めて知りました」
「全く君は物事の本質を理解してないよ。このままだと、内部生による外部生の排除が起きてくる。つまり、イジメなどに問題に発展しかねない。ここで自殺者でも出してみたまえ。この英明学園の品位をさらに下げることになってしまう」
確かにそれは大変だと思う。
でも、起きてもいないことをあれこれ考えても時間の無駄なのでは?
「学校側は何か対策してるのですか?」
「期末テスト前の出来事ということで生徒のフォローに回っていると聞いているが、実質何もしていないのと同義だ。
生徒の自主性に任せるという無責任な言葉で僕に丸投げしたんだよ~~」
確かに都合の良い言葉だ。
未成年の子供に出来ることなどたかが知れてるというのに。
「内部生が外部生を排除しようとする根本的な問題は何なのですか?」
「家柄だよ。旧家の御曹司や政府関係者、大企業関連の子息子女の殆どが内部生だ。全てとは言わないが、プライドが高く高慢な態度の生徒も多い。
そんな中で、今は中心となる家柄のものがいない。名家直系の生徒が不在なんだ。
僕や拓海君みたいに竜宮寺家の親戚というステータスではカリスマ性がいまいち弱いんだよ。夏以降なら竜宮寺琴香ちゃんがイギリスから帰って来てこの学校に通う予定だ。それまで、何事も起きなければ良いのだが」
「大変そうな世界ですね」
「拓海君、そんな呑気な事を言ってる場合ではないんだよ~~。とにかく何とかしなければ‥‥ブツブツ」
(独り言を言い始めちゃったよ)
「とにかく今は期末テストを口実に乗り切るしかないんじゃないですか?内部、外部関係なく成績は将来に関わる事なんですから。家や親が立派でも個人の成績が悪ければ、コネで企業に就職してもその内ボロが出ますし」
「そうだ、そうだよな。とにかく期末テストでしばらくは乗り切ろう。だが、テストが終わった後、何らかの行動を起こさないとマズい。
それまで、拓海君も良いアイデアがないか一緒に考えてくれるよね?ね?ね?」
「わかりました。でも、何も思いつかないかもしれませんよ」
「大丈夫だ。拓海君ならきっとできる!」
う~~ん、何だろう?
そう言われても嬉しい気持ちにならない。
むしろ、面倒ごとに巻き込まれてしまった。
俺、学校通い始めたばかりだよ。
無理だろ……
気持ちはどんどん沈んでいくのであった。
30
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる