闇治癒師は平穏を望む

涼月 風

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第1章

第80話 約束

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『朝7時のニュースです。昨夜、六本木にある高級時計店で覆面を被った者達による強盗未遂事件が発生しました。事前に通報を受けて待機していた警察官に逮捕され、店側の被害はないと報告を受けてます』

「闇バイトってことかしら?」

「きっと大元にすごい悪党がいるんだよ」

「渚、陽菜!テレビ見てないで早く顔を洗ってらっしゃい」

お母さんに言われて洗面所に行く。
鏡に写った自分の顔を見て、跳ねている髪の毛を手で押さえてみたが、手を離すとまた元通りになってしまった。

「髪の毛切ろうかしら」

「陽菜も切りたい。カリスマ美容師さんがいるとこ行こうよ」

「そういうところは予約で先まで待たないとダメなんだよ。何時も行く美容院でいいじゃない」

「そうだけど、たまにはお洒落なところに行きたい。あの美容院は、お母さん世代が中心でしょう?10代の私達にはちょっとね。それに可愛くなったら拓海お兄さんだってお姉ちゃんのこと惚れ直すと思うんだあ」

「え、拓海君が?髪の毛切ったら可愛いって言ってくれるかな?」

「当たり前じゃん。きっと『渚、綺麗だぜ』って言ってくれるよ」

「そうかあ……えへへ、じゃあ早速予約状況を調べないと」

「お姉ちゃん、私の分もよろしくね。それと今月お小遣いなくなっちゃったから支払いもお願いネ」

「うん、任せといて!」

その時、妹である陽菜の顔は作戦が成功したと口角を上げてニヤけていた。

顔を洗って台所に行くとテーブルの上には、ハムエッグとサラダ。そしてトーストが置かれている。

「声聞こえたけど美容院に行くの?お母さん予約しておこうか?」

「そうだけど、お姉ちゃんと相談して別の美容院に行こうと思ってるんだ。ねえ、お姉ちゃん!」

「たまにはいいかなって。だから自分で予約入れるから大丈夫だよ」

「ふふ、二人とも年頃なのね。わかったわ。行く時は声かけて。お金渡すから」

「やったー、ありがとうお母さん」

(陽菜はちゃっかりしている)

「そう言えばお仕事落ち着いた?」

「まだ、やる事多いけど沙織さんがアルバイトに来てくれたし、拓海君もたまに来てお茶入れてくれたりしてくれるから助かってるわ」

(拓海君がお茶入れてくれるんだぁ)

「渚もアルバイトしてみる?」

「お母さんや楓さんが助かるならやってもいいけど」

「そうか、楓さんに伝えておくわね」

「陽菜は、オシャレなカフェとかでアルバイトしてみたい」

「陽菜、あんたはまだ早いわよ」

「だって、可愛い制服着てみたいんだもん」

「確かに憧れるけど、お仕事はきっとそんな生優しいもんじゃないと思うよ。変なお客さんも多いし」

「その時は、恭司お兄さんを呼ぶもん」

「恭司さんだっていろいろ忙しいんだよ。迷惑かけちゃうし、そういう考えはよくないと思う」

「そっかあ、迷惑かけちゃダメだよね。あ~~あ、また遊びに来てくれないかなあ?」

結城家の朝はとても賑やかだった。





昨日は柚子にこんこんとお説教された。
確かに連絡を入れなかった俺が悪かったし反論はできないが、もう少し言い方ってものがあると思う。

翌朝、ランニングに出かけようとしたらジュディーさんに会った。
慣れない日本での暮らしはどうかと聞きたかったのだが、今帰ってきたようでお酒の匂いをプンプンさせていた。

逆にアマンダさんの方は真面目に店舗経営の勉強をしているようで、夜飲み歩く事はないらしい。

「ジュディーさん、そんなにお酒を飲むと身体を壊しますよ」

「タクミに治してもらってから調子が良いんだ。今ならこの界隈の店の酒を飲み干せそうだぞ」

全く、懲りない人だ。

「今度は正規の料金をもらいますからね?」

「そういえば前回の治療で金を払ってなかったな」

「いいえ、あの時は情報を貰いましたからそれでチャラです」

「そんな事いうな。少しぐらいなら私の身体で遊んでも良いんだぞ」

修造爺さんが聞いたら喜びそうな話だ。

「今は遠慮しときます。まだ、未成年なので」

「女遊びに未成年もへったくれもないぞ。私が良いと言ってるんだあ。さあ、行くぞ。今ならアマンダも抱いて構わないぞ」

随分と酔っているようだ。
わかりましたから、部屋まで送りますよ。
今のジュディーさんはいろいろと危険なので。

そうしてジュディーさんの部屋を訪ねてアマンダさんにジュディーさんをお願いする。

アマンダさんは、申し訳ないような顔をしてたのが印象的だった。

ランニングを再開して、神社の前を通り過ぎる。
そして、家に帰ってシャワーを浴びた。

「拓海さん、明日には奥様と明日香様がいらっしゃいます。ご予定を空けといて下さい」

朝食時に坂井さんからそう言われた。
明日香ちゃんからは頻繁にメッセージが届くので久し振り感は無いが、瑞希さんとは久し振りな気がする。

「わかりました。特に予定はないので問題ないです」

「拓海様、体調はどうですか?」

楓さんがそう聞いてきた。
俺の精神が不安定なのを知っているので、たまに気遣って問いかけてくれる。

「最近は夜も寝れるようになったし大丈夫だよ。たまにうなされてるみたいだけど、昔ほどじゃない感じかな。それより、楓さんの方が心配だよ。俺と一緒にアメリア国に行ったから仕事が大変なんでしょう?」

「沙織さんも手伝ってくれますし、茜さんは優秀ですから問題ないですよ。あと何回か出張しなければならない時もありますが、概ね予定通りの事が運んでいます」

「それなら良かった。また、差し入れ持っていくから」

「ありがとうございます。助かります」

「差し入れって何?」

聞き慣れない言葉だったのかルミが疑問を持ったようだ。

「お茶とかお菓子とか仕事の合間に食べれるような物を持っていく事だよ。この間はシュークリームだったから、今日はケーキでも買って持っていこうと思ってるんだ」

「シュークリーム美味しい。ケーキも美味しい。ルミも食べたい」

「わかった。ルミの分も買ってくるから」

「楽しみ」

学園に行く用意をして、柚子と一緒に部屋を出る。

エレベーターの中で柚子が珍しく話しかけてきた。

「楓姉さんに差し入れするのか?」

「うん、今日はケーキがいいと思うんだけど柚子は美味しいケーキ屋さん知ってる?」

「正直言って私は小豆系なら得意なのだが、洋菓子は疎いのだ。渚なら良いところを知っていると思う」

「そうか、じゃあ渚に聞いてみるよ。楓さんって何のケーキが好きなんだろう?」

「レアチーズケーキが好きだぞ。あと定番のモンブランも好んで食べる」

楓さんのことに関しては柚子はとても詳しい。

「茜さんや樺沢さんもいるし、多めに買って帰ろう。ルミも楽しみにしてるようだし」


エントランスでは、渚とアンジェが先に来ていた。
俺達もかなり早く来てるつもりなのだが、いつも先起こされている。

「おはよう、今日で学園も休みに入るね」

挨拶を交わして学校へと向かう。

「たっくん、今日は通知表が配られるんだって。知ってた?」

アンジェと俺は学校に通った事がないので通知表という存在を知らない。

「いや、知らない。成績とか書いてあるの?」

「拓海くん、それだけじゃなくって順番も書いてあるんだよ。あの学校は成績を張り出さないでしょう?だから、通知表で確認するんだよ」

「そうなんだ。他所の学校では成績の順番って普通張り出されるものなのか?」

「張り出すところは結構多いよ。生徒のヤル気を引き出す為にするみたい」

英明学園でそれをしたら内部生と外部生のいざこざが発生しそうだ。
だから、張り出さないのかな?

「学年順位とクラス順位が記載されているから、ドキドキものだよね」

渚は頭が良いから問題ないとして、俺とアンジェは結構下の方なんじゃないかと思う。

そんな会話をしていても柚子は平然としている。
もしかして、成績が良いのか?

「柚子は落ち着いてるけど、不安はないのか?」

「私か?中の上か、よくて上の下だろう。気にしても仕方がない」

数字ならわかりやすいが、中の上って何位くらいなんだよ。

「じゃあ、みんなで賭けない?このメンツで一番成績の悪かった人がケーキを奢るって事でどう?」

アンジェからその提案がくるとは思わなかった。

「よし!アンジェ。勝負だ」

「たっくん、財布の紐を緩くしといてね」

こうして成績最下位の者がケーキを奢る約束をしたのだった。

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