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第ニ章
第49話 文化祭準備
しおりを挟む時は数日経ち、今、俺は、物凄い難問の前に頭を抱えている。
「だから、私の方が上手なのですわ! 」
「上手なのは私。過去最高傑作」
自己顕示過ぎる金髪お嬢様。
自己中心過ぎる水色髪の無表情娘。
自己韜晦に徹する超前髪が長い俺。
今、美術部部室では、一触即発の緊張感が漂っている。
美術部では、文化祭の入場門の製作を生徒会から頼まれており、先週急遽入部してきた金髪お嬢様(戊 シャルロット・リズ)と入部届けを残務整理の忙しい担任が顧問に出すのをすっかり忘れていた為、先週ようやく入部が確定した水色髪の無表情女子(壬 静葉)が、文化祭に出品する課題の絵と入場門のラフ描きを仕上げ、美術部員全員でどの作品が入場門に相応しいかを決めている最中に、この問題が勃発したのだった。
「霞 景樹! 私の方が上手ですわよね? 」
「旦那様、私の方が上手。褒めて? 」
え……っ! 俺が決めるの?
「うん、2人とも上手だよ」
「霞 景樹! それでは答えになっておりませんわ」
「旦那様、はっきりさせた方がいい。優柔不断は、金髪女を傷つける」
既に勝ったつもりでいる静葉は、珍しく口元の口角が左右とも上がっていた。
「え~~と、ちょっと、待ってくれ。2人とも趣旨を履き違えていないだろうか? 今日は、部員が描いてきた入場門の作品をひとつに絞らないといけないんだ。文化祭は、もう、明後日なんだよ」
部長こと新庄 輝先輩は、焦っているのだ。
そう、時間がない。
もう、徹夜作業は決まっていた。
だが、まだ、入場門は出来上がっていない。
明後日の朝7時までに完成させなければ、間に合わない。
遅くなったのには理由がある。
突然、入部してきた2人が「私も描きたい」と言ったからだ。
心優しい新庄先輩は、新入部員の気持ちを汲んでしまって、この事態が引き起こされたのだ。
「じゃあ、私の案で決めちゃいましょう」
突然、この雰囲気の中で会話に加わってくる勇気ある女性は、二年四組 坂下 有紗だ。
「坂下、その件はもう、結論が出てただろう? 」
部長は、ため息をついて坂下 有紗に伝えた。
入場門の今回のテーマは『飛翔』……
坂下 有紗が描いてきたものは、2人の天使が描かれていた。
これだけなら、まだ、良いのだがその天使の1人は、両手を上にあげ、お菓子メーカーのグ◯コのポーズと似たようなポージングをしており、白い翼が生えた半裸の男性の天使は今にも飛び立とうとしていた。
しかし、もう1人の男性天使が、飛び立とうとする天使の股間部分に後頭部を向けて描かれていたのだ。
彼女曰く……「白きものが飛び出すところだと……」
そう、彼女は、BL大好きの美術部員だったのだ。
「新庄君は何でこの芸術性が理解できないのかな? 脳味噌腐ってるんじゃない? 」
腐っているのは、坂下 有紗の方だった。
「もう、時間がないし私の絵で決めちゃおうよ」
そう横槍を入れてきたのは、副部長の藤堂 友梨。
彼女が描いてきた絵は確かに上手だった。だが、彼女の絵は健全な文化祭という場には相応しくなかったのだ。
首を刎ねられた女性の胴体から血飛沫が舞い上がっていたからだ。
彼女曰く……「鮮血の飛翔……」
そう、彼女は、生粋のホラー大好き美術部員だったのだ。
「藤堂さん、前にも言ったと思うけど文化祭という行事には衝撃的過ぎるんだよ」
「じゃあ、私のはどうですか? 」
遠慮気味に話すのは、同じ一年生の六条 美佐枝。
確かの上手に描かれている彼女の絵は、一部の生徒からは人気があるだろう。
空を駆けるFー22ラプター戦闘機は、第5世代戦闘機と言われステルス性能を標準装備している。
彼女曰く……「音速突破する時のソニックブームが最高!! 」
そう、彼女は、ミリタリー大好き美術部員だったのだ。
「六条さん。戦争を想起させるものは文化祭には、ちょっと相応しくないかな」
この美術部が廃部寸前だったのは、こう言った理由もある。
美術部員たちは個性的すぎたのだ。
俺は、時間がなかったので鳥が飛んでる姿を描いた。
だが、上手と言えない出来だったのだ。
急遽、入部してきた金髪お嬢様の絵は、金をあしらった豪華な額の中に納められていた。だが、その絵は、犬だか猫だかわからない羽根の生えた未確認生命体が飛んでる姿だった。
また、水色髪の無表情女子が描いてきた絵は、丸と三角、奇妙な線が交差する独創すぎる絵だった。
この中でマトモなのは、部長の新庄 輝先輩の絵だ。
湖から数話の白鳥が飛び立つ姿を上手に描いている。
だが、この美術部員達は、自分の絵が最高だと思って疑わない。
なかなか、案が決まらなかったのはそういう経緯があった。
芸術肌の人って、自己主張強いよね……
散々、討論した結果、部長の絵が採用された。
まあ、妥当だよね……
◇
明日は文化祭。
当然ながら美術部員は学校に残り徹夜作業をする。
昨夜も徹夜だったので部員のテンションが少しおかしい。
「はあ……」
ため息を吐いてるの俺。
だって……
「この鳥は赤ですわ! 赤が似合います! 」
「違う。もっとカラフルにすべきだと思う」
「この鳥、白鳥なんですが……」
部長の威厳も金髪お嬢様や無表情女子には通用しないようだ。
そして、他の美術部員達も……
「この鳥オスかしら……オスよね」
「赤、何て心踊る色なんでしょう? 私も血の色の赤がいいわ」
「羽根の形が悪い。Fー22は、もっと、すらっとしてる」
それから数時間後……
「何て往生際の悪いオスなのかしら。もっと、背後から攻めないとーー! 」
「血だ! 血が溢れ出る~~! 」
「流石、ズムウォルト。ミサイル駆逐艦の最高峰です。船なのに高度なステルス性があり、常識はずれなこの造形。もう、最高!! 」
結局、部長の絵は採用になったが、出来上がったのは美術部員の個性が反映された前衛的な作品となった。
なってしまったのだ……
それは、連日の徹夜作業による寝不足。
妙なテンションになってしまったハイの状態。
夜中に盛り上がってノートに書くなぐった小説を朝、素の状態で読んだ時の絶望感。
そんな作品が出来上がってしまった……
今日は、文化祭当日……
寝不足の美術部員達は、真っ赤な目をしながら出来上がった作品である入場門を………見なかった事にした。
◇
今年の文化祭は、異例の入場門が無いという開校始まって以来の文化祭となった。
その理由は、一部の生徒しか知らない。
闇に葬られた入場門は、ひっそりと美術部の部室の奥に置かれていた。
「お兄、なんか目が真っ赤だよ」
「兄様、マムシ・すっぽん・山椒魚ドリンクです。お飲みください」
文化祭当日の朝、一度家に帰って朝刊配達を済ませシャワーを浴びた俺は、瑠奈が用意してくれた朝食を食べながら、奇妙な味、というか生臭いドリンクを飲まされた。
「瑠奈、なんかこれ、身体が熱くなってくるのだが……」
「まぁ~~」
くねくね人形のように体を揺らす瑠奈は、両手をほっぺに当てて下を向いてはにかんでいた。
「お兄、私先に行ってるよ」
ヤバそうな雰囲気をいち早く察知した陽奈は、パンをかじりながら家を出る。
「兄様、どうでしょうか? 」
「何がでしょうか? 」
「その~~元気になりましたか? 」
瑠奈の目が下半身に固定されているのは偶然だよね……
「瑠奈、早く行かないと、俺もすぐ出るから」
「はい。行く時は一緒です」
ただ、学校に行くだけなのに、何だろう?
この新婚夫婦感は……
くねくね人形と化し、その場から動かない瑠奈を追い立てて一緒に学校に向かう。
入場門が無い代わりに紙で作った造花で通常門が飾られていた。
生徒会が急遽、入場門の代わりに飾ったのだろう。
「兄様、それではまた後で……うふ」
校門で瑠奈と別れ、俺はクラスに向かう。
中等部と合同で行われるこの文化祭は、2日間開催され、結構その筋では有名なものらしい。
クラスの催し物は、人数が激減したという理由で学校の歴史という展示ものになり、模造紙三枚のまとめられたものだけになってしまった。
勿論、俺も少し手伝ったが、それは机を片付けるという単純作業でしかなかった。
「文化祭か……」
俺は、何処で暇を潰そうかと考えていた。
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